第22話 Dグループ予選~波乱!?
Cグループの試合も終わり、次はDグループの試合が始まる。
真樹菜は緊張した面持ちで、広場に向かった。
第一試合の二人が広場に現れた。 一人は、刀を持った真樹菜。もう一人は、素槍を肩に担いだ男だ。
「それじゃ始めるけど、くれぐれも殺しは駄目よ!」
沙月の言葉に真樹菜は、先程までも青かった顔色を更に青ざめさせた。
「始め!」
沙月の合図に、二人は武器を構えた。
真樹菜は、一歩下がると『力』を練って自らの周りに、水滴を漂わせる。
男が、余計なことをさせるものかと、真樹菜に向かった。
猛烈な速度で男は槍を繰り出す。
真樹菜は男の攻撃を、水の盾で難なく防ぐ。
このままではじり貧だと思ったのか、男は槍を一薙ぎして下がった。
男の槍には水滴が滴っている。
次は真樹菜から攻勢に出た。
自身の周りに浮かぶ水滴を刃に纏わせ、刀を振るった。
真樹菜が刀を振るうと、剣閃をなぞる様に水の刃が男に向かう。
男は、向かってくる水刃を槍を薙いで散らす。
何度も飛来する水刃を、槍を振るい、あるいは躱して男は真樹菜に向かった。
真樹菜は、攻撃を当てる事が出来ない。端からは、攻めあぐねている様にしか見えない。
突如、男の動きが止まった。
これまで、真樹菜の攻撃を防ぐ度に自身に降り注いだ水が、男の体を拘束している。
男は、必死にもがいて拘束から逃れようとしているが、びくともしない。
ゆっくりと、真樹菜は男に歩み寄る。
男を拘束する水の枷が、更に締まった。
「ごめんなさい」
男の前に立った真樹菜が、掌をかざす。
真樹菜の手から水鞭が伸びて、男の首に絡みつく。
ゆっくりと水鞭が締まり、男は意識を失った。
「それまで」
真樹菜はゆるりと翻り、乙矢達の下へ向かった。
「鮮やかだね」
「凄かったです」
乙矢と菖蒲に称賛を送られるが、真樹菜は苦い顔をしている。
圧倒的な実力を示した乙矢達にほめられても、複雑な気持ちにしかならなかったのである。
後の試合が始まった。
Dグループの二試合目、三試合目は余り大した事のない試合だった。
真樹菜が、二回戦は大丈夫だなとせ思っていると、第四試合の選手が広場に現れた。
一人は赤い短髪を逆立てた男。もう一人は、長い髪をポニーテールにした目付きの鋭い女だ。
広場にざわめきが走った。
乙矢には、何故こんなに騒いでいるのかわからない。
「ねぇ、どうしたの?」
「神薙ですよ、知らないんですか?」
驚嘆した風に真樹菜が返すが、乙矢には理解出来ない。
「誰? 有名人なの?」
乙矢の無知さ加減に真樹菜は深い溜め息を吐いた。
「凄い有名人。三聖人、十天の第一席……灰塵の神薙総護郎の孫娘。神薙命」
「ふ~ん」
余りにも興味がなさそうに返す乙矢に、真樹菜は再び溜め息を吐いた。
乙矢達がじゃれあっている間に、第四試合が始まった。
男は、雷を纏う刀を正眼に構える。
対する命は、身長程もある大太刀を鞘から抜かずに、無造作に掴んでいるだけだ。
馬鹿にするな! と、いきり立った男が文字通り閃光のような速さで命に斬りかかる。
一瞬、銀色が閃いた。
キンッと甲高い音が響き渡る。
途端、命に向かっていた男が崩れ落ちた。
命は、興味を無くしたと踵を返して席に戻った。
余りの早業に、乙矢達は言葉を無くした。噂に違わぬ実力、それは見る者達に畏怖を抱かせた。
乙矢達のみならず、他のギャラリー達も唖然としている。
「二回戦第一試合を始めるわよ。選手はとっとと出てきなさい」
沙月の空気を読まない一言に、乙矢達は我に帰った。
一回戦の時よりも青ざめた顔色の真樹菜が広場に向かう。
対戦相手の男も、真樹菜に劣らぬ程に青ざめた顔をしている。
広場に出揃った二人は互いに刀を構えた。
「始め!」
両者共に精彩を欠いた動きで、彼我の距離を離した。
真樹菜は一回戦と同じように『力』を練る。周りに浮いた水滴を一纏めにして、大きな水球を作った。
その水球を目の前に持ってきた真樹菜は、そこから五㎝程の水弾を乱れ撃った。
相手は水弾を躱そうとするが、余りにも鈍い動きでなすすべも無く、真樹菜の攻撃を喰らう。
相手は何とかしようともがくが、無様に崩れ落ちた。
「それまで」
早業でもって試合を終わらせた真樹菜だが、未だに青い顔をしている。
それほど迄に、命と戦うのが嫌なのだろうか。乙矢には、真樹菜の心境が理解出来ない。
続いて、二回戦第二試合が始まった。
命は、一回戦と同じく大太刀を無造作に掲げている。
対する相手は、今にも死んでしまいそうな程に青ざめた顔をして十文字槍を構えた。
しばらく互いに見合っていると、しびれを切らしたのか、男は命に向かって槍撃を繰り出す。
先程真樹菜が戦った相手よりも速い連撃を命は難なく躱す。
おもむろに、命は大太刀の柄に手をやった。
途端、男が繰り出していた槍の穂先が落ちる。
一瞬唖然とした男は、飛び退いて距離を取った。
男は『力』を練って、切れた槍の先から炎を出した。
炎の槍と言った所だろうか、男は再び命に向けて駆け出した。
向かってくる男に、ニヤリと妖しげな笑みを湛えた命は、居合いの要領で大太刀を構える。
男の炎を圧倒する熱量の炎が、命を中心に噴き出した。
余りにも暴力的な炎は、命の周りの地面を溶かしていく。
呆然とした男は、一瞬動きが鈍った。
命がその隙を見逃す筈もなく、動きを追えなくなる程の速さで男に迫った。
大太刀を抜かず、命は男の胸に柄尻を叩き込んだ。
男は鮮血を吐き出し崩れ落ちる。
「それまで」
試合が終わると、命は期待外れだったと言う具合に溜め息を吐き、その場を後にした。
次に命と戦う真樹菜は、既に土気色の顔を更に青ざめさせた。
命が溶解させた地面を均し終わると、沙月からお呼びがかかり、真樹菜は広場に向かった。
もう開き直ったのか、真樹菜はその顔に確たる意志を湛えて広場に着く。
命は完全にポーカーフェイスを決め込んでいる。
「それじゃ構えて……始め!」
真樹菜は正眼に構えた刀に『力』を纏う。
命は相変わらず、大太刀を無造作に掲げるだけだった。
刀に水を纏った真樹菜は、命に向かって刀を振るう。
飛来する水刃を命は鍔鳴りの音のみを辺りに響かせて払っていく。
命が近づこうとすると、真樹菜は大袈裟に距離を取って水刃を飛ばし続ける。
イライラした様子の命は、全身に炎を纏って水刃を蒸発させる力業に出た。
真樹菜は顔を歪めるが、それでも攻撃の手を緩めずにいる。
そのままではじり貧だと思ったのか、真樹菜は自分の周りに水の槍を多数作り出した。
真樹菜が瀑布の勢いで無数の水槍を飛ばすと、流石に不味いと思った命は、炎を纏った大太刀を抜いて、水槍を切り払っていく。
「いい加減、鬱陶しい!」
命は真樹菜の攻勢が、一向に緩まない事に喜びを感じ、その怜悧な顔に獣のような笑みを湛えたる。
その顔を見た真樹菜は、本能的に危険を感じてその場を大きく飛び退いた。
間一髪。先程まで真樹菜がいた場所を地面を抉りながら炎刃が通りすぎた。
飛び退いた時に体勢を崩した真樹菜に、命は閃光の如く迫り寄る。
頭上から落ちてくる大太刀に、真樹菜は咄嗟に刀を上げて受けた。
互いの全身から炎と水が噴き出す。
辺りは水蒸気により、ギャラクシーからは試合の様子が見えなくなった。
それでも、剣撃の音だけは辺りに響き続ける。
乙矢達が固唾を飲んで見守っていると、漸く水蒸気が晴れた。
中から全身に無数の切り傷を作った真樹菜と、余裕な表情を作る命が現れた。
「まだっまだ!」
真樹菜は吼えた。
真樹菜の周りに水が渦巻くと、それに呼応するかの様に命も炎を噴き出す。
全身全霊を懸けた真樹菜の攻撃が繰り出される。
龍を形作った水は、怒涛の勢いで命に迫る。
命はそれを、自身の炎を大太刀に纏って作り出した長大な刃で迎え撃った。
「はあぁぁぁぁ!」
鬩ぎ合う水龍と炎刃。
徐々に水龍が劣勢になったかと思うと、命は一気に炎の勢いを増大させ、消し飛ばした。
次いで、命が真樹菜に向かおうとすると、『力』を使い果たした真樹菜は前のめりに倒れ込んだ。
「それまで」
沙月が終了の号令を上げると、命は大太刀を鞘に納めて真樹菜に向かって歩き出した。
「あなた、凄いわね。楽しかった、また戦いましょ」
全力を使い果たして立ち上がる気力もないのか、地面にへたりこんで呻いている真樹菜に、命は満足そうな笑みを浮かべて手を差し出した。
驚いた真樹菜は、一瞬唖然とした表情を浮かべた後、手を握り返す。
真樹菜の手を握った命は、真樹菜を立ち上がらせると、彼女に肩を貸して乙矢達の所まで連れてきた。
「あなた達との試合も楽しみだわ」
命は乙矢達に一言言い残して戻っていった。




