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第21話 Cグループ予選

−−Cグループ予選−−


 コリコリと首を回しながら天音は広場に向かった。

 はぁ〜、全く面倒っすね。ちゃっちゃと負けて見物に回るっすかね。


(天音、ワザと負けたりしたら源爺に報告するからね)


 天音は突然の念話に身を震わせた。

 クッ、負けれなくなったっす。

 紅蓮からの念話により、退路を断たれた天音は仕方なく真面目に取り組む事にした。

 最初の試合に出なければならない天音は、広場の中央に行き、錫杖を肩に担ぎながら相手を見た。

 目つきの悪い、ヤンキーみたいな風体の男が天音を睨んでいた。

 うわっ、のっけからメンドーな感じの奴っすよ。


「それじゃ、Cグループ第一試合を始めます。構えて……始め!」


 号令を聞いて、ヤンキーは木刀を構えた。霊木で作られた木刀のようだが、あまりにもハマりすぎなその姿に天音は、錫杖を担いだまま、思わずケラケラと笑い出してしまった。


「おいっ! 何笑ってやがんだてめぇ!」


「いや、だって、い、今時リーゼントに木刀とかないっすよ。プフッ」


 馬鹿にされて完全に頭にキたヤンキーは天音の頭に木刀を振り下ろす。天音は、振り下ろされる木刀をヒラリとかわした。


「時代の流れに真っ向から逆らうお馬鹿さんは、ほらっ、頭突きでもしたらどうっすか。プフフッ」


 額を指差しながら尚も挑発を続ける天音にヤンキーは、再び木刀を振り下ろした。頭上に迫る木刀を錫杖で受け止めた天音は、ヤンキーの腹に蹴りを入れる。思わず踏鞴を踏んで仰け反るヤンキーに、天音は飛びかかってドロップキックをかました。

 ヤンキーは天音がそんな攻撃に出るとは思っていなかったのか、ドロップキックをモロに喰らい、吹っ飛ばされた。


「おやぁ、反撃して来ないんすか?」


 起き上がった天音はニタリと嫌味な笑みを浮かべて、更にヤンキーを挑発した。

 度重なる天音の挑発にとうとうヤンキーはキレた。


「ざっけんなよクソアマ! ぶっ殺してやるから覚悟しやがれ!」


 『力』を纏った木刀を振りかぶったヤンキーは、一直線に天音に走り寄った。

 木刀が天音の頭に当たる直前で止まり、グラリとヤンキーが倒れた。

 ギャラリーは何が起こったのかとざわついているが、何という事は無い。天音は、木刀が自分に当たる寸前にヤンキーの腹に錫杖の石突を突き入れたのだ。


「それまで!」


 試合終了の声が聞こえると同時に、天音は乙矢達の所に戻った。

 若干、呆れの混じった視線で見られているが、天音には気にした様子もない。


「お、お疲れ様」


「別に疲れてないっすよ」


 労いの声を掛ける乙矢に天音は不敵な笑みで返した。

 その後も順調に進んでいく試合を適当に流しながら天音は乙矢達とじゃれあっていた。


「第二試合を始めます。選手は広場に来なさい」


 ワイワイと仲間とはしゃいでいる天音にはどうやら聞こえてはいない。


「ほら〜、早く来なさいよ」


 段々と苛ついた様子で呼び掛ける沙月だが、まだ天音には聞こえていない。


「いい加減にしろ! 烏丸天音! 早く広場に来なさい!」


 ここでやっと気付いた天音は、仲間達に断って広場に行った。

 だらだらと心底嫌そうな表情を浮かべながら向かう天音は端から見れば、これから処刑台に向かう囚人のようだった。


「やっと来たわね。さぁ、早く構えなさい」


 完全にやる気のない表情の天音の前には、彼女と同年代の利発そうな女が、拳を鳴らしながら立っている。

 ハァ、と一つ溜め息を吐いた天音は、錫杖を肩に担いだ。


「ハァ、まぁいいわ。構えて……始め!」


 やる気の無い顔で相手を見ている天音に、女は地を蹴り踏み込む。天音は女が繰り出した、自分の顔に向かってくる拳を少し後ろに下がってかわす。再び女は踏み込んで拳を繰り出す。それを天音はまた少し後ろに下がりかわす。

 何度かそんな攻防を繰り返していると、急に女は弾かれたように仰け反った。


「攻撃がそんなに単調じゃ、面白くないっすよ」


 天音は女に対して完全に興味を無くしたように溜め息混じりに呟いた。

 女は丸い青あざの出来た額を押さえながら恨みがましく天音を睨んでいる。

 どうやら向かって来る女に対して、天音は錫杖でカウンターを入れたらしい。

 目尻に涙を浮かべる女に、今度は天音から向かった。

 巧みに錫杖を操りながら天音は女の急所目掛けて攻撃を仕掛ける。女は全身に『力』を纏い、天音の攻撃を捌く。それでも、天音の方が速いのか女の体には幾つもの攻撃が入っている。

 女は痛みに顔をしかめながらも『力』を放出した。

 体重の軽い天音はその勢いに負けて、後ろに押し返された。

 体勢を崩した一瞬の隙を突いて、女は天音に攻撃を仕掛けるべく踏み込んだ。 『力』を纏った女の拳が天音の胸に吸い込まれるように向かう。試合を見ていた誰もが当たると思っていると−−


−−バタン−−


 −−と大きな音を立てて女が倒れた。

 沙月が慌てて確認に行くと、女は口から泡を吐いていた。


「えぇっと……それまで」


 女が完全に意識を失っている事を確認した沙月は試合の終了を告げた。

 ギャラリー、主に受講生が一体何が起こったのかという目をしているのを見て、天音は一際深い溜め息を吐いた。

 あの瞬間天音は、女の額、喉、鳩尾と三発の突きを繰り出していたのだが、ほとんどの受講生には視認出来ていなかった。

 余りのレベルの低さに辟易した天音はつまらないと呟き、乙矢達の所に戻った。


「凄かったね」


「本当に凄かったです」


 素直に賞賛を贈る乙矢と菖蒲には乙矢が何をしたのかわかった。


「別に大した事ないっすよ」


 キラキラと目を輝かせる二人に頬を染め、照れ隠しなのか、頭を掻きながら天音は返した。

 真樹奈は何が起こったか理解していないのか、未だ呆然としている。


「真樹奈、どうしたんすか?」


「い、いや〜、す、凄かったなって。はは、あはははは」


 呆っとした目をしていた真樹奈は突然天音に声を掛けられ驚いて、誤魔化すように返した。

 他のギャラリーから向けられる奇異の視線に気付いていないのか、天音は乙矢達と雑談を始める。しばらくすると天音に向けられていた視線のほとんどは試合を行っている広場に向けられた。

 四人の雑談はCグループの最終試合が始まるまで続いた。


「じゃあ、行ってくるっす。また怒られるのは嫌っすからね」


「気を付けてね」


「怪我しないで下さい」


「まぁ、頑張って」


 仲間からの応援を受けて、天音はヒラヒラと手を振りながら広場に向かった。


「今回はちゃんと来たわね」


 沙月からは先程の試合で遅れた事を言われた。

 だからちゃんと来たじゃないっすか。全く、面倒くさいっすね。


「何か不満そうな目ね」


「別に何でもないっす」


 顔に出ていたのか、沙月が鋭いだけなのかは分からないが、指摘された天音は居心地が悪そうにしている


「そう? まぁいいわ。Cグループ最終試合を始めます。両者構えて……始め!」


 天音が錫杖を担ぐと、引き締まった体つきの男が掛矢(大型の木槌)を振り下ろした。

 風を纏った掛矢を危なげなくかわした天音は、自分の錫杖にも風を纏わせて、男の胴体目掛けて振るった。

 天音の攻撃は綺麗に男の胴体に入ったが、全く効いた様子がない。

 っ! こいつ、どんな体してんすか!

 天音は連続で男に攻撃を叩き込むも、一向に堪えた様子もなく、彼女は強烈な一撃を入れようと距離を取った。


「どうした、これで仕舞いか?」


 想像していたよりも高い声で男は問いかけた。


「まだまだこれからっすよ」


 平静を装って返した天音だが、額から一滴の汗が垂れる。

 それを合図にしたかのように、男は再び掛矢を雨霰と連続で振り下ろした。

 天音は障壁を張り巡らし、男の猛攻を防ぐ。しかし男は、天音の障壁を大した苦もなく破った。

 頭上に落ちる掛矢に、それでも天音は瞳に強い意識を宿していた。

 危ない! 天音が潰れたトマトになる所を想像した乙矢は、思わず目を瞑った。

 肉の潰れる音が辺りに響き渡る。

 意を決して目を開けた乙矢は、体に視認出来る程の強大な『力』を纏った天音を見た。

 対戦相手の男は広場の端にいた。武器を握りしめていた拳が潰れたのか、男は右手から鮮血を撒き散らし唸った。


「何が起きたの?」


「天音が風の砲弾を撃ち出して、相手を吹き飛ばしたんですよ」


 菖蒲はしっかりと見ていたらしく、乙矢に何があったのか話した。

 倒れた男に、天音は尚も追撃を繰り出した。

 強大な『力』を惜しみなく鋭い刃と化した風が男に襲いかかる。

 未だに呻いている男は攻撃が迫っている事に気付いていないのか、避ける様子がない。

 男には不可避の死が迫っていた筈だったが、突然男の前に現れた沙月が風の刃を掻き消した。


「殺しは駄目だって言ったでしょ。あなたの勝ちよ。ほら、仲間の所へ戻りなさい」


 未だ、殺気を纏ったままの天音は、沙月の言葉に踵を返して乙矢達の傍に戻った。


「大丈夫?」


「平気っす。咄嗟の事だったんで、やりすぎたみたいっす」


 心配そうに見つめる乙矢に、緊張の抜け切らぬ声で天音は返した。

 Cグループは天音が勝ち抜いた。

 次はDグループの試合だ。




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