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第20話 Bグループ予選

−−Bグループ−−


 乙矢を観客席に連れて行った菖蒲は、自分の試合があるので後を天音達に任せて控えの溜まりに来た。

 それにしてもさっきの乙矢さんの試合は凄かったな。いつも組み手はしてるけど、普段よりもかなり強いんじゃないかな? 私も勝ち残って乙矢さんと戦いたいな。

 そんな事を菖蒲が考えていたら第一試合が始まるとの声が聞こえてきた。

 よし! 頑張るぞ。


「よ〜し来たね。それじゃ、Bグループ第一試合を始めるよ。両者構えて……、始め!」


 菖蒲は普段通りに薙刀を構えて相手を伺った。相手は刀を持った男性だ。

 相手は刀を正眼に構えて菖蒲の出方を窺っている。

 そのまま時間が過ぎるのを惜しんだのか、菖蒲は薙刀に『力』を纏って上段から相手に斬り掛かった。菖蒲の振り下ろしを相手はかわしたが、地面に叩きつけられた彼女の薙刀は爆音と共に、地面を瓦礫に変えた。

 余りの威力に相手の顔が引きつるが、そんなもの意に介さないと、菖蒲は踏み込んで薙刀を払った。

 相手は怯んでいたのだろう、どうにか直撃は避けたが、薙刀に纏われた暴風にその身を晒し、体中傷だらけになった。

 それを認めたくなかったのだろう、相手は踏み込んで菖蒲に斬り掛かったが、刀が体に触れるよりも早く、彼女は薙刀の石突を相手の腹に叩き込んだ。

 石突の先から収束した風の砲弾が撃ち出され、相手は錐揉みしながら吹き飛んでいった。


「終了!」


 沙月の声を聞いて残心を解いた菖蒲は乙矢達の控えている所に戻った。


「うわぁ〜、相手が可哀想。辛うじて生きてるって感じだよ」


 乙矢が苦笑いを浮かべる。


「そうですか? ちゃんと手加減はしたんですけど」


 ニコニコと微笑みながら言う菖蒲に乙矢達は頬を引きつらせた。

 菖蒲が砕いた地面を均し終え、試合が再開されたが、彼女達はお喋りをして他人の試合なぞ眼中になかった。

 そうして数十分話しをしていると、漸く第二試合が始まった。

 菖蒲は、先程と同じく薙刀を構えて広場の中央に行った。

 菖蒲の次の対戦相手は鬼の金棒、金砕棒を持った大男だ。


「それじゃ、二回戦、よ〜い始め!」


 合図と共に大男が金砕棒を振り上げて菖蒲に向かった。

 菖蒲は向かってくる大男の横に体をいれた。ドスンと鈍い音を鳴らして地面に叩きつけられた金砕棒を即座に踏みつけ、飛び上がった菖蒲はそのまま薙刀を振り下ろした。

 大男は金砕棒を持っていた手を放し、そのまま薙刀の柄を掴んで引き寄せ、菖蒲の腹に強烈なパンチを放った。


「うっ!」


 パンチの威力に耐えきれず、思わず菖蒲は薙刀を放して殴り飛ばされた。

 受け身を取れなかったのか、地面に叩きつけられた菖蒲はうずくまったまま、震えている。

 大男は菖蒲から奪った薙刀を放り捨てて、自らの得物、金砕棒を再び掴み、未だにうずくまっている菖蒲に叩きつけようと、走り出した。

 振り下ろされる金砕棒を転がってかわした菖蒲はよろめきながらも立ち上がり、闘志を漲らせた目でしっかりと大男を睨み付けた。

 そんな菖蒲の視線を気にもせずに大男は再び彼女に攻撃を仕掛けた。

 途端、菖蒲の周りに暴風が吹き荒れ、大男の前進を阻んだ。


「うぅ、さっきのは痛かったです。でも、次は私の番ですよ」


 菖蒲の声は荒れ狂う暴風に阻まれて大男には届いていない。


「行け! 疾風刃!」


 大男がどうやって攻めようかと思案していると−−


−−緊ッ−−


 −−甲高い音を立てて、金砕棒が細切れになった。

 自分の武器に起こった不可解な出来事に驚いていた大男は、突如自らを襲った衝撃に耐えきれずに吹っ飛んでいった。

 大男が気をとられている間に風の後押しを受けた菖蒲が全力で体当たりしたのだ。

 吹き飛んだ大男が体勢を立て直す前に薙刀を拾った菖蒲は大男に向けて、一陣の風のような速度で斬り掛かった。

 体勢を立て直した大男の目には、今まさに自分に迫らんとする菖蒲の薙刀が映った。

 勝った! そう思った菖蒲だったが、大男はギリギリで障壁を張り、薙刀を受け止めた。


「! これでっ、終わり! 風槌撃!」


 障壁と拮抗していた薙刀に更に『力』を込めた菖蒲は圧倒的な風圧で大男を叩き潰した。


「それまで!」


 その勢いのままに大男に刃が迫る。菖蒲はしまったと思ったが勢いが付きすぎて止められない。

 このままじゃ、殺しちゃう!

 そう思い菖蒲が目を瞑った瞬間、パシッと音がして薙刀が止まった。

 恐る恐る目を開けた菖蒲の前には、片手で薙刀を止める沙月の姿があった。


「いや〜、危なかった。次は気を付けてよ」


 驚愕の表情を浮かべる菖蒲に優しく諭した沙月は、大男の襟首を掴んで引きずっていった。

 暫く、菖蒲は呆然としていたが、次の試合の選手に邪魔だと声を掛けられ、乙矢達の所に戻った。


「大丈夫? 怪我は無い?」


「はい、大丈夫です」


「良かった。危うく負けちゃうんじゃないかって思ったよ」


 菖蒲に怪我がないと乙矢達は安心しているが、菖蒲は殺さずに済んだ事に安堵していた。

 その後の試合も、先程の余韻が未だ抜け切らぬ菖蒲の目には入らず、話し掛けてくる乙矢達の声も耳に入らずで呆としているうちに最終試合が始まった。

 Bグループ最終試合、菖蒲の相手はキリッとした目つきが印象的な少女だ。菖蒲よりも小柄な、幼さのある中学生位だろう。

 やりにくそうな表情の菖蒲を見て、乙矢達は不安を抱いた。


「それじゃ、Bグループ最終試合を始めます。両者構えて……始め!」


 沙月の号令と共に、菖蒲は薙刀を、少女はその身にそぐわぬ大きさの死神の大鎌、所謂サイズという武器を構えて対峙した。

 十秒、二十秒と互いに睨み合ったまま動かない。

 先に痺れを切らしたのは少女だった。

 目にも止まらぬ速さ、菖蒲が瞬いたほんの一瞬の間に彼女の後ろに移動した少女は、首を刈り取ろうとサイズを振るった。

 少女の姿を見失った菖蒲は、風切り音を捉えて薙刀を掲げた。間一髪でサイズを止めた菖蒲は風の力でサイズを押し返し、後ろの少女に向けて薙刀を振るった。

 難なく菖蒲の振るった薙刀をかわした少女は、とんでもない速度で菖蒲に詰め寄り、サイズの石突を突き込んだ。

 向かってくるサイズをあろうことか、手に『力』を纏い、受け流した菖蒲は、その勢いのまま体を捻り、薙刀を少女の首目掛けて振るった。

 己の武器を受け流されて体勢を崩した少女はその場にしゃがみ込む事で薙刀をかわした。


「やりますね」


 しゃがみ込んだ後、そのまま後ろに跳んで距離を離した少女はサイズを構え直した。


「そっちこそ。そんな大きな武器を持ってるのに、あんなに速く動けるなんて凄いね」


 菖蒲も薙刀を構えて、少女に賞賛を送った。


「ありがとうございます。では、そろそろ終わりにさせていただきます」


 無感動な表情のまま呟いた少女は、サイズに風を纏わせた。


「へぇ、あなたも風なんだ」


 菖蒲は、少女の『力』の高ぶりに呼応するかのように薙刀に纏った風を凝縮した。

 二人の間で、互いの風がせめぎ合っている。

 バチッと音がしたかと思うと、地面に亀裂が走った。

 その音を合図に二人は一斉に相手に躍り掛かった。

 少女の切り上げに菖蒲は振り下ろしで返し、二人の武器は組み合ったまま動かなくなった。完全に拮抗している。

 組み合った状態で尚も『力』を高ぶらせた二人を中心に、辺りには暴風が吹き荒れた。

 どんどん『力』を練り上げる少女に菖蒲は徐々に押され始めた。

 ギャラリーが菖蒲の負けを確信した瞬間−−


−−ドスッ−−


 −−突如薙刀から力を抜いて、少女に切り上げられるままに薙刀を引き戻した菖蒲は、少女が武器に振り回された一瞬の隙に相手の懐に詰め寄り、薙刀の石突を少女の鳩尾に叩き込んだ。

 あまりに鮮やかな一撃にギャラリーは言葉が出なくなった。

 ドスッと少女は倒れた。


「それまで! Bグループ決勝はかなり見応えのある試合でした。地面を均したらCグループの試合を始めるわよ」


 沙月の終了の合図を聞き、一気に気が抜けた菖蒲はその場にへたり込んだ。


「菖蒲、凄かったじゃん」


「やるっすね」


 駆け寄って来た乙矢と天音に賞賛される菖蒲だが、放心状態で返答出来なかった。




「菖蒲、良くやったの」


 乙矢達に連れられて戻った菖蒲に玉藻が声を掛けた。


「これも普段の練習の成果ですよ」


「そうじゃが、あの少女はかなりの実力者であった。それに勝った菖蒲は賞賛に値する」


 玉藻は腕を組んで尊大な態度で言った。

 菖蒲に怪我が無い事を確認した玉藻は再び何処かへ行った。

 これでAグループとBグループの試合は終わった。

 奇しくも、準決勝の組み合わせは乙矢対菖蒲、同門対決になった。

 次はCグループ。順当に行けば天音が上がってくるだろう。


「それじゃ、次はあたしの出番なんで行ってくるっす。めんどくさいのは嫌なんすけどね。まぁ、ちゃっちゃと終わらしてくるっすよ」


 天音は手を振りながら広場に向かった。




「乙矢も菖蒲もなかなかやりよるの」


「そうだね。危なげなくとは言い難いけど、いい感じだと思うよ」


 少し広場から離れた所で、酒を呷りながら試合を見ていた紅蓮達は、弟子の成長に顔を綻ばせていた。


「ふむ、しかし決勝で二人が当たらんのは惜しいのぅ」


「そうだね。まぁ、天音が上がってくれば、それはそれで面白くなりそうだけどね」


「そうじゃな。無様な試合を見せたら折檻してやるか」


 天音のいない所で、彼女の処遇が決まってしまった。

 天音の命運や如何に。


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