第23話 準決勝
予選も全て終了し、いよいよ準決勝だ。
Aグループの代表である乙矢と、Bグループ代表の菖蒲は準備万端と広場に降り立った。
「菖蒲、本気でヤルよ」
「勿論ですよ。絶対手加減なんてしません!」
意気揚々と向かい合う二人。
開始の合図もまだだと言うのに、既に臨戦態勢は万全だ。
「それじゃあ、始めるけど……あんまり無茶しないでよ」
沙月の言葉は二人の耳に届いていない。
両者共に既に武器を構えて『力』を漲らせ ている。
「はぁ、それでは……始め!」
二人同時に前に出た。
乙矢はギアに炎を湛えて、振りかぶる。
菖蒲は薙刀に風を纏わせ下段から振り上げた。
ガンっと鈍い音を響かせて、両者の武器がぶつかり合う。
拮抗状態のまま二人は更に『力』を練り上げた。
当然の如く反発しあう炎と風。
両者の『力』は互いに行き場を無くし、辺りに吹き荒れた。
風が地面を抉り、炎は巻き上がった砂塵を燃やし尽くす。
「はあぁぁぁぁっ!」
裂帛の気合いで炎を吹き出した乙矢。
菖蒲はその勢いに押され、後退る。
「やっぱり、強いですね」
菖蒲は、乙矢を睨み付けながら再び薙刀を構え直した。
「でも……私だって強いんですよ!」
突風を撒き散らす菖蒲は、一陣の風となって乙矢に迫る。
渾身の力を込めた薙ぎ払い。
その攻撃を乙矢は後退する事で、難なく躱した。
「その位!」
攻撃の勢いのまま、乙矢に向かう菖蒲。
乙矢はギアを薙いだ。
「クッ」
菖蒲はしゃがみ込み、辛うじて躱した。
しかし、無理な制動により体勢を崩していた。
そこに乙矢は、ここぞとばかりに上下左右から追撃を掛ける。
紙一重でそれを躱した菖蒲は全身から烈風を吹き出した。
乙矢はその風に煽られてたたらを踏む。
「ハハッ」
「フフフ」
一旦仕切り直しだとばかりに距離を取った二人は、徐に笑い出した。
人並み以上に整った顔の二人だが、今は満面の笑みに狂気を滲ませている。
どちらからともなく駆け出した二人。
一層強烈な斬撃を繰り出した。
まるで舞い踊るかの様に二人は攻防を繰り広げている。
片方が攻めれば、もう片方が躱す。
常に紙一重の遣り取りを数十合。
両者共に全身至るところに傷を作っていた。
しかし、致命的な攻撃は一切受けていない。
「いい加減、倒れなさいよ」
「乙矢さんこそ。早く当たって下さい」
二人して軽口を叩き合いながら、決して手は休めない。
とっくに満身創痍の二人だが、脳内麻薬の過剰分泌により、互いに痛みを感じていないようである。
それどころか、互いに更に距離を詰めた。
再び吹き乱れる炎と風。
二人は確実に体力を削りあっている。
「! そこ!」
互いに打ち合う中で、菖蒲が体勢を崩す。
豪炎を纏った乙矢が渾身の一撃を叩きつけようと、ギアを振りかぶった。
「っ、まだ、です!」
迫り来る刃を避ける事を諦めた菖蒲。
何と、自分を巻き込む事を厭わずに、自身と乙矢の間に風の砲弾を撃ち込んだのである。
炸裂する地面と共に、攻撃を仕掛けた乙矢と菖蒲は激しく吹き飛ばされた。
咄嗟の暴挙に不意を突かれた乙矢は、体勢を立て直す事も出来ないでいる。
菖蒲は、全身に礫を浴びて転がりながらも直ぐに起き上がった。
「疾風乱舞!」
菖蒲は乙矢が体勢を立て直す隙も与えずに攻撃を仕掛けた。
確実に勝利を掴み取るべく菖蒲は無数の風刃を繰り出す。
乙矢は地面に倒れたまま転がった。
紙一重で躱した乙矢は、立ち上がる。
膝に付いた砂を左手で払った。
「余裕……ありますね」
「いや〜、やられるかと思ったよ」
軽口を叩き合う二人。
そんな時にも乙矢はギアに『力』を練り上げている。
次の瞬間、菖蒲が風の後押しを受けて乙矢に向かっていった。
乙矢に向かう薙刀の斬撃。
降り下ろされるその攻撃を乙矢は右手に握ったギアで流した。
「フレイムッッッナックル!!!」
菖蒲の腹に突き刺さる強烈な一撃。
「がっ!」
口から血を吐き出しながら菖蒲は吹き飛んだ。
錐揉み状態でかなりの距離を転がっていく。
意識が朦朧としているの菖蒲。
何とか菖蒲は立ち上がったがふらふらと足元が覚束ない。
乙矢は菖蒲にとどめを刺そうと駆け出した。
よろめきながらも薙刀を構えた菖蒲。
乙矢はギアを薙刀に叩きつけぶっ飛ばす。
「私の勝ちね」
菖蒲の首筋にギアを突き付け乙矢は不敵に笑った。
「はい、お仕舞い」
沙月の宣言を聞いて乙矢はギアを下ろす。
菖蒲はその場にへたり込んだ。
「うぅ、負けちゃいました」
半泣きの菖蒲に肩を貸して乙矢達は席に戻る。
そこには、珍しく真剣な目をした天音がいた。
「軽く潰して来るっす」
「が、頑張ってね」
殺気を滲ませた天音が広場に向かう。
命は既に広場の中で精神統一をしていた。
「楽しませて下さいね」
凄惨な笑みを浮かべる命。
その殺気は、席にいる乙矢の背筋までも震え上がらせた。
「そっちこそ。つまんない事しないで欲しいっすよ」
天音も負けじと殺気を漲らせる。
「……何度も言ってるケド、殺しちゃ駄目よ。それじゃあ構えて」
天音は錫杖を肩に担ぎ、命は大太刀を鞘ごと左手に持った。
「じゃあ、始め!」
合図と同時に天音は風刃を、命は炎刃を無数に放つ。
まさに目にも止まらぬ速さで互いに致命傷を負わせられる攻撃を繰り出す。
しかし両者共一切傷付かない。
「やるね」
「そっちこそ」
不敵な笑みを浮かべる命。
普段通りに軽く返す天音。
対照的な二人だが、端から見る分にはとても仲が良さそうだ。
互いに幾筋もの赤色の線を身体に刻みながら、一歩も引かない。
吹き荒れる風と炎が辺りに吹き荒れている。
そんな、完全に拮抗した打ち合いが唐突に崩れた。
先程迄の試合で荒れた地面に天音の足が取られ、一瞬動きが鈍ったのだ。
「くっ!」
たかが一瞬。
しかし、拮抗した二人の実力ではそれが命取りだった。
「私の……勝ち」
天音の首に大太刀を突き付ける形で命が呟く。
終わった。
誰もがそう思い、沙月が命の勝利を宣言しようとした。
「まだだ!!」
首に突き付けられた刃を気にもせずに天音は一気に『力』を爆発させ、風を吹き出した。
命は勝利を確信して油断していたのか、風に巻かれて大太刀の切っ先が跳ね上がる。
その切っ先が僅かに触れたのか、天音の首から血が滴っていた。
「ストップ!! 止まりなさい!!」
沙月の制止も聞かず、突っ込む天音。
修羅の形相をした天音が向かって来る事も厭わずに、茫然と立ち尽くす命。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁ」
天音の気迫に、咄嗟に避けようとする命だったが、時既に遅し。
天音の拳は命の段中に突き刺さった。
風を纏った拳の一撃に命はゴム毬の様に吹き飛んだ。
「ぃ良し!!」
「良し、じゃないわよ!!」
満面の笑みを浮かべガッツポーズをする天音に、沙月が怒りの声をあげる。
「ストップって言ったでしょ! 貴方、そんな怪我して何考えてんのよ」
怒り狂う沙月だが、そんなものどこ吹く風と言った体で天音は油断なく命を睨んでいた。
「まだ、終わりじゃないっすよね」
投げ掛けられた言葉に、命は口から垂れた血を拭いながら立ち上がる事で答えた。
「えぇ、私はどうやら貴女の事を見くびっていたみたいね」
命は殴られた衝撃で取り落とした大太刀を拾い上げて天音に向ける。
辺りの木々が震える程の殺気を漲らせた命に、先程迄よりも鈍い動きで天音が向かって行った。
余りに遅い天音の動きに、一瞬罠かと訝しんだ命だが、罠なら罠ごと切り伏せると間合いに入った天音を薙いだ。
幾らか鈍った太刀筋ではあったが、天音はかろうじて錫杖で受けた。
両断される事は無かったが、そのまま天音は吹き飛ばされる。
今回は油断しないと命が天音を睨んでいると、沙月が徐に近づいていく。
ツンツンと二度、三度天音を突くと沙月は深い溜め息を吐いた。
「試合終了」
もう一度深い溜め息を吐くと、沙月は試合の勝者を告げた。
沙月の宣言を聞くと同時に菖蒲と乙矢は、天音に向けて駆け出した。




