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第18話 講習

 総本山に到着して一夜明けた。乙矢は今日から始まる講習に半ばワクワク、半ばドキドキといった心境で、今は同室の四人で朝食をとっている。

 初日だからそんなに厳しい事はないだろうと思っているが、些か不安が勝っている。

 朝食を終えた後乙矢達受講生は教室まで案内された。受講生は全部で三十二人だ。

 乙矢達四人は教室の前の方の席に座り講習が始まるのを待った。

 少し待っていると、前方のドアが開き一人の男性が入ってきた。


「はじめまして。講師の山田です。皆さんはそれぞれの門派で学習しているでしょうが、これから座学を少しと除霊の実技をしてもらいます」


 あまり覇気のない声で淡々と講義は始まった。

 講師の話す内容は乙矢達にとって特に目新しい事もなく全て紅蓮から教わっていた内容だった。


「特に質問などはないですね? それでは次は実技を行いますので、十五分程の小休止の後広場に集まって下さい」


 一時間程の座学の後そう言って講師は教室を辞した。


「疲れたぁ、幾ら知ってるの前提でもあんなに一本調子で進めるなんて予想外よ」


 乙矢の言葉に三人とも同意したように頷いた。周りの席からも似たような声が彼女達の耳にちらほら聞こえてくる。

 乙矢達が喉を軽く潤した後、広場に向かうと既に講師は待っていた。


「それでは皆さん揃われた様なので早速除霊を開始します。これから浮遊霊を出しますので順番に一人づつ除霊を行ってください」


 受講生が講師の前に一列に並んだのを確認して除霊は始まった。乙矢は後ろの方になった。

 次々に除霊しているが皆まどろっこしくだらだらやっている、何でこんなに時間を掛けているんだろうと菖蒲と話していると漸く乙矢の番が来た。


「準備は良いですね? それでは始めて下さい」


 講師が手に持った御札から浮遊霊を出した。あんな使い方も出来るんだ。

 乙矢はその霊に向かって『力』を込めた拳を振り抜いた。問題なく除霊は済んだはずなのに他の受講生達からざわめきが起きるし、講師も怪訝な眼差しで乙矢を見ている。

 何か仕出かしたかなぁ?


「除霊の方法は教わっていますよね? 何故あんなやり方をしたんですか?」


 何かまずったかな?

 乙矢は普段教わっている通りにしたんだけなんだが。


「教わった通りにしましたけど。何か違いましたか?」


 乙矢の返事を聞き、講師は苛ついた様に米神を押さえた。


「あなたの流派は? 一体誰に教わったんですか?」


 その言葉に乙矢が答えていいものか迷っていると横から声が乱入してきた。


「その嬢ちゃんは紅蓮の弟子だ」


 響が厳つい目つきで講師を睨んだ。


「おい山田、さっきのやり方の何が悪いんだ」


 響は乙矢をフォローしている。乙矢が思わぬ助けに安心して前を見ると、講師の顔色がみるみる青くなっていった。


「てめぇらもだ、何が悪いんだ? 言ってみろよ」


「除霊を行う場合の基本から逸脱しております」


 響が他の受講生達を睨んでいると、やっと講師が声を出したが、響に一睨みされて再び黙った。


「基本ねぇ、実戦で基本通りにちんたら除霊する馬鹿がどこにいる? あんな浮遊霊なんざぶっ飛ばすのがセオリーだろ」


「確かにそうですが、基本は基本として行うべきでしょう」


「新米の死亡率が高えのは悪霊がいても基本に忠実にやろうとするからだろうが。そもそもちんたらやってる暇があるような所に俺らが行く事なんざねぇだろうが!」


 響に怒鳴られてざわついていた受講生達も一気に黙った。


「あの、基本通りにやらなかった私が悪いんで……」


「嬢ちゃんは悪かぁねえよ。紅蓮がんな馬鹿馬鹿しい基本なんざ教える訳がねぇからな。俺らは糞みたいな基本守って死んだ新米なんざ飽きるほど見てきてんだ」


 実感のこもった声で言う響はどこか悲しそうだった。

 その後響は去っていき、除霊は再開された。乙矢以降は特に問題もなく済んだ。



「災難でしたね」


 今日の講義は終わり乙矢は夕食や入浴を済ませて部屋で考え事をしていると菖蒲が声を掛けてきた。


「そうだね。『力』を使って攻撃するとしか教わってなかったもんね」


 結局菖蒲も『力』をぶつけて除霊してたもんな。


「間違っちゃいないんすけどね、あたしも爺ちゃんに殴れって言われてたっすから。あんなまどろっこしいやり方なんて本当に最初にしかしなかったっす」


 それが基本なら何故紅蓮は彼女達に教えなかったんだろう?


「そうなの! 除霊ってああいうのでしょ? 『力』ずくで祓うなんて私は教わってないわよ」


 どういう事だ? 幾ら流派によって違うとはいえ、乙矢達と真樹奈の間には認識の齟齬があるみたいだ。



 翌朝、重い気分のまま教室で講師を待っていると、昨日の講師とは別の人がきた。


「え〜、昨日は色々あったみたいだけど、その事は忘れて。今日は私が講師をしま〜す。あ、私は遠山沙月とおやまさつき。よろしくね〜」


 軽い感じの女の人だ。年齢も乙矢達より少し上といったところだろう。


「と言う事で今日は、大した『力』もない悪霊だけど、悪霊退治をしてもらいます。それじゃ早速広場に行くよ」


 軽く言っているが悪霊退治か、あんなノリでやって大丈夫なのだろうか?

 とりあえず沙月の言った通りに乙矢が移動しようとしたら真樹奈に裾を掴まれた。


「真樹奈、どうしたの? 広場に行かなきゃ」


「あの人、遠山沙月って七賢人第二席の人だよ」


 はて? それがどうしたんだろう。

 乙矢がそう思っていると天音が震えだした。乙矢と菖蒲は顔を見合わせて首を捻った。


「第二席って、あの殺戮の沙月っすよね」


 震えながらも何とか声を絞り出した天音に真樹奈は首肯した。しかし殺戮? また物騒な二つ名だ。

 まだ震えている天音と真樹奈の手を引いて乙矢達は広場に向かった。


「よ〜し、全員揃ったね。それじゃ一列に並んで。一人づつ悪霊退治してもらうから」


 乙矢は何とか震えの治まった天音達と言われた通りに並んだ。今日は前の方だ。

 自分よりも前の人の退治を乙矢が見ていると本当に優秀なのかな? と思うほど手際が悪い。大した『力』のない悪霊相手に苦戦したり怪我を負ったりしている。


「ほら〜、後ろつかえてるんだからとっとと退治しなさいよ。それともこの程度の相手も退治出来ないの」


 乙矢も同じ事を思っているが本当にこんなに低レベルでいいのか?


「ちんたらしすぎ! お家に帰って一から出直しなさい。それじゃただの的よ」


 うわぁ、ボロクソに言ってる。まぁ、私も同意見だけど。

 そんな事を何度か繰り返し、漸く乙矢の番がきた。


「それじゃあ、悪霊出すからね」


 沙月が宣言すると同時に悪霊が現れた。

 一撃で決めてやる!

 乙矢は右腕に炎を纏わせて−−


「フレイムッナックル!!」


 −−拳を一閃、悪霊を焼き尽くした。

 周りから歓声があがる、この程度で歓声なんて本当に優秀なのだろうか?


「すごいね。悪霊を一発なんて私には出来ないよ」


「え、真樹奈も経験あるんでしょ?」


「悪霊の相手は流石にないよ。ただの霊なら何度か祓ったことあるけどさ」


 悪霊の相手をしたことがない? 士道さんは普通の事みたいに言ってたのに。

 乙矢に続いて菖蒲、天音と一撃で終わらせて戻ってきた。しかしその後は何人かはそこそこのペースで終わらせたが殆どの連中がグダグダだった。

 沙月の怒鳴り声が飛び交い、全員が終わった頃には既に夕方だった。


「はぁ、とりあえず今日は解散。また明日も私だから覚悟しときなさい。それと乙矢ちゃん達はちょっと残って」


 沙月が疲れ果てたように言ってそれぞれ解散していったが、はて? 何かしたかな? 名指しでそれも乙矢ちゃんと言われたが何の用だろう? とりあえず乙矢達は沙月のところに行った。


「残ってもらってごめんね。乙矢ちゃん達は紅蓮の弟子なんでしょ? 普段、あいつにどんな修業つけられてんのかなって思ってさ。良ければ教えてくれないかな?」


 真樹奈と天音は怯えているが沙月は気にせずに乙矢に話しかけてきた。

 士道さんの事か。紅蓮て呼び捨てにするくらいだから仲いいのかな?

 同じ七賢人なのだから親しくてもおかしくはない。


「普段、ですか? 特に変わった事はしてないと思いますよ。『力』を練る練習と術の向上、場合によっては新しい術の指導と後はほとんど実戦形式で士道さん達と組み手です」


 沙月は乙矢の言葉に納得したような、真樹奈は驚愕の事実! みたいな顔をして乙矢を見ている。

 何も変な事は言ってないと思うんだけどな。


「そっか、かなり厳しく仕込んであるんだね。やっぱ無茶させてんだなあいつは」


 特に無茶した覚えが乙矢にはないので菖蒲と共に首を傾げていると、真樹奈が有り得ないものを見るような目で彼女達を見ていた。


「他の所じゃこんな事しないんですか?」


「まぁね。組み手はするけど大体が座学かな。『力』を練るなんてさせるとこないと思うよ」


 沙月はしきりに感心したように頷きながら乙矢の問いに答えた。


「そうだ、乙矢ちゃん達は悪霊退治の経験てあるの?」


「あります。一回だけですけどね」


 乙矢の言葉にさっきまで怯えてた天音が手を上げて補足した。


「ちょっといいっすか? 確かに一回っすけどあれは直接干渉だったっす」


 直接干渉? 乙矢は聞いた事がない言葉だった。


「本当? 初めての悪霊退治が第三段階なんて無茶苦茶ね」


「あの……、直接干渉とか第三段階って何の事なんですか?」


 今まさに乙矢の思っていた事を菖蒲が聞いた。




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