第17話 “組織”
とうとう乙矢達が“組織”に出立する日が来た。現在七時五十分、今日は八時に駅前で待ち合わせしているので乙矢は菖蒲と合流したところだ。
「おはよう。それじゃ『幻想堂』に行こっか」
挨拶もそこそこに二人は『幻想堂』に向かった。
“組織”ってどんな所なのか、どんな人が来るんだろうかと彼女達が話していると『幻想堂』に着いた。
「おはようございます……何で天音がいるんですか?」
乙矢達の前には天音もいた。夏休みはだらだらと過ごすと言っていて“組織”には来ないはずだったのだが。
「うぅ、爺ちゃんに最近弛んでるから気合い入れて来いって言われたっす」
「あははは、そ、そうなんだ……」
あまりにも悲壮感のだだよう天音に若干引きながらも、気心知れた仲間が増えて内心乙矢はよろこんでいた。
「あの、失礼かも知れませんが、その“組織”には妖怪も参加出来るんですか?」
菖蒲の言っている事は乙矢も気になっている。
妖怪退治の専門家が集まる所に妖怪が入っても大丈夫なのだろうか?
「問題ないよ。実際に行けば分かる事だけど結構来てる妖怪って多いよ」
「そうっすよ、あたしの爺ちゃんも引退してるっすけど昔は“組織”に参加してたっすし、基本的に人間より妖怪の方が『力』が強いっすしね」
言われてみれば確かに妖怪の方が人よりも秀でている。
「それにの、妖怪にとっても人に仇なす妖怪は目障りじゃしのぉ。とばっちりを受けぬ為にも“組織”に籍を置いておくという妖怪はそこそこおるぞ」
それもそうだ。“組織”にいれば勘違いで攻撃される心配もなくなるだろう。しかし、頭の固い人は認めないのではないだろうか?
「妖怪が参加するのを嫌がる人とかはいないんですか?」
「あまりいないね。ほとんどが大歓迎って感じだしね。そもそも嫌なら“組織”に参加しなければいいだけだから。まぁ、妖怪が参加してる国なんて日本だけだよ。他の国じゃどこぞの一大宗教組織が異端撲滅を基本としているしね」
言っている事は理解出来るが、そんなんでいいのか?
「まぁ、詳しい話は追々するとして、そろそろ出発しようか」
紅蓮の言葉を皮切りに乙矢達は車に乗り込んでいく。
今回“組織”に行くメンバーは紅蓮、玉藻、天音、菖蒲、乙矢の五人だ。これからひと月どんな波乱万丈な事が起きるだろうか。
一抹の不安とワクワクを胸に乙矢は車に乗り込んだ。
何度かの休憩を挟み、紅蓮が運転をして、玉藻が助手席、乙矢達が後部座席でワイワイと騒ぎながら色々な話をしていると山道に入った。しばらくすると辺りに霧が立ちこめてどんどん視界が悪くなっている。
「そろそろっすね」
唐突に天音がそんな事を言い出した。
「そうだね。もうすぐで着くよ」
紅蓮まで……、何故わかるのだ。
「よくわからんという顔をしておるの」
ルームミラーに目をやりながら玉藻が言った。
確かにわかんないけど……
乙矢は不満げな表情をしている。
「“組織”は隔世にあるからの、先程結界を超えた事に気付かんかったのか?」
乙矢は全然気付いていなかった。いつの間に結界をこえたのだ。
「その様子じゃと、気付いとらんかったの。先が思いやられるわ」
うぅ、面目ないです。
乙矢達がそんな会話をしているとさっきまで立ちこめていた霧が徐々にはれてきた。
「うわぁ! すごいですよ」
菖蒲の言葉ではないが確かにすごい。さっきまでの山道も周りは木々だらけだったが、ここは桁が違う。
そんなふうに乙矢と菖蒲が驚いていると開けた場所に出た。
そこから少し進んだ場所に紅蓮は車を止めた。
「ここからは歩きだよ」
車を降りながら紅蓮が指差す方を乙矢が見ると、とても長い階段があった。
これを上るのか……
軽く憂鬱になっている乙矢を置いて紅蓮達は先に進んでいった。
「乙矢、早くついて来るっす」
天音の声で我に返った乙矢はすぐに一行の後を追った。
黙々と十五分程階段を上ると漸く頂上に着いた。乙矢は膝に手を付いて息を整えているが、他の皆は特に疲れた様子も無い。
「乙矢は帰ったら体力を付けさせねばいかんようじゃの」
玉藻の言葉に乙矢が体面を取り繕って顔を上げると、そこにはこの場にそぐわぬ近代的な建物が有った。
「ようこそ、ここが“組織”の本部。通称総本山だよ」
紅蓮が何か言っているが、それよりも乙矢は完全に景観ぶち壊しな建物に軽い目眩を覚えた。
勿体無いよ!
そこから更に進んで建物の中に入ると沢山の人が忙しなく動きまわっている。
紅蓮がそこの受付に行って何かを話していると乙矢達に一人の男性が近付いてきた。
「よう玉藻、珍しいじゃねえか」
玉藻の知り合いなのだろうか? ゴツい短髪の男性が声を掛けると玉藻は嫌そうな顔をしながら返答した。
「相も変わらずムサい奴じゃの。今回はこやつらの付き添いじゃ」
嫌そうにしながらも玉藻は乙矢達を男性に紹介した。
「へぇ、講習に連れてきたのか。てことはだ、嬢ちゃん達は紅蓮の弟子ってとこか?」
「紅蓮と妾の弟子じゃ」
やけに妾を強調しながら玉藻が答えていると紅蓮が戻ってきた。
「やぁ、久しぶりだね。響」
「おう、紅蓮。本当に久しぶりだな」
かなり仲がよさそうだ、二人はガッチリ握手して笑いあっている。
「それじゃあ後で久しぶりに飲もうじゃねえか」
またな、と言って響? は去って行った。
玉藻は漸く行ったかと呟いた。
「士道さん、さっきの人って誰ですか?」
「彼は平響って言ってね、本部付きの術士だよ」
平響さんか。豪快な人だったな。
その後、紅蓮は乙矢達の割り当てられた部屋まで彼女達を送ってから玉藻と何処かへ行った。
彼女達に割り振られた部屋は四人部屋で、先にもう一人の人は入っていた。
「あら、あなた達ルームメイト? 私は四宝真樹奈。真樹奈って呼んでね。よろしく」
真樹奈と名乗った女性は乙矢達と同い年位の親しみやすそうな女性だった。
乙矢達もそれぞれ挨拶をして空いてるベッドに腰掛けた。
「葛城さん達はどこの人? 私は四宝派陰陽術の跡取りなんだけどね」
流派とかわかんないよ。天音もわからなそうだし。
「乙矢でいいですよ。えっと、流派とかはわかんないです。強いて言うなら『幻想堂』流? 士道紅蓮さんって人に教えてもらってるんで、士道流かも」
乙矢が紅蓮の名前を言ったとたん、真樹奈の顔色が変わった。
「士道紅蓮さん! その人って七賢人第三席の士道紅蓮さんのこと?」
七賢人? 何の事だ? 乙矢には理解出来ない。
「そうっすよ。葬送の紅蓮こと七賢人第三席の士道紅蓮っす」
葬送? ますます乙矢にはわからなくなってきた。
「乙矢って弟子なのに師匠の事知らないの?」
「うん、葬送とか七賢人とか聞いた事もない」
菖蒲と顔を見合わて何の事だと乙矢が首を捻っていると、真樹奈が仕方ないなと溜め息を吐いた。
「七賢人って言うのはね、“組織”のトップ十人を十天て言うんだけど、上から三人を三聖人、その下七人を七賢人て言うの。そんで、士道紅蓮さんは七賢人の三番目だから第三席。わかった?」
おぉ、じゃあ士道さんって滅茶苦茶凄い人って事なんだ。
乙矢達がわかったと言うと真樹奈は更に続けた。
「それで、葬送って二つ名は士道紅蓮さんが七賢人に数えられる事になったある事件での活躍ぶりからつけられたのよ」
そんなに凄い人だったんだ。
乙矢は、そんな事全然教えてくれなかったな、でも士道さんは自慢とかしないかぁとどこか納得してしまった。
「自分の師匠の活躍位調べようよ。それよりさ、士道さん紹介して!」
なんか目をキラキラさせながら真樹奈は言ってきた。
そんなに有名なんだ。
「うん、いいよ。それとさ、平響さんって知ってる?」
さっき乙矢達が会った豪快な男も紅蓮の知り合いみたいだったから有名な人かな? と思って乙矢が聞いたら天音と真樹奈は、こいつ何言ってるんだって顔で呆れた。
「平響って言えば七賢人第一席の人よ。もしかして知り合い?」
「さっき士道さんと話してたから気になっただけだよ」
やっぱり有名人だったんだ。
「それよりもさ、皆の経験と適性教えてよ。実技になったらパーティー組むから同室になったんだし良かったら組もうよ」
パーティー? 実技って事は戦うのか。
「うん、組むのは良いよ。でも実戦経験は私と菖蒲は一回しかないよ」
「そんなの良いよ。私だって除霊何回かしかしたことないしね」
あまり経験の差はないんだ。各門派の優秀な人が集まるって聞いてたからもっとバンバン経験積んでると思ってたんだけどな。
「私は基本一通りと炎の強化とか付加かな、放出系は出来ないんだ。だから近接戦闘型かな」
「私は風です。一応どの距離にも対応できます」
「あたしも風で何でも大丈夫っす。ただ、突撃思考が強いって言われるっすけど。経験はこれでも烏天狗の端くれっすからそこそこあるっすよ」
天音って結界が得意な訳じゃないんだ。そう言えば天音と組んだのも一回だけしかないし、練習の時は錫杖振り回して突っ込んで来てたな。
「へぇ、天音は天狗なんだ。じゃあ天狗の固有技とかつかえるの?」
「下級のは一通り使えるっすよ」
天狗の固有技? そんなのもあるんだ。
乙矢達は明日からの講習に向けて話し合いながら夜は更けていった。
「紅蓮、まさかおまえ等が弟子をとるなんて予想してなかったぜ」
紅蓮は響と旧交を温めつつ−−玉藻の機嫌は悪いが−−明日からの予定について話し合っていた。
「そうだね。僕も予想外だったよ。でもあの子達は結構やるよ」
「そうか、そうだよな。葬送と九尾の弟子なんだからな。期待してるぜ。それよりお前も講師やれよ。爺には俺から言っとくからよ」
葬送って呼ぶなよ。相変わらず玉藻の機嫌は悪いが、こうして僕達の夜は更けていった。




