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第15話 女、三人寄れば……

 最上階に着いた乙矢達が最初に感じたのは、違和感だった。ここに来る途中の階では禍々しさを感じていたのにここでは全く何も感じない。


「何か変じゃない? ここ、禍々しさがないよ。この階に悪霊なんていないんじゃないの?」


 菖蒲は乙矢の言葉に同意したが、天音は何かを警戒している。


「いや、絶対ここにいるっす。それに、何も感じないんじゃなくて感じれないんすよ」


 感じれない。その言葉に、乙矢は玉藻が言っていた事を思い出した。何も感じない時が一番危険だと言っていた。

 それは感じていないのではなくて、自分の許容量を超える空気に押し潰されないように身体が勝手に感覚をシャットアウトしていたのだった。

 あれ? もしかして今がその状況?

 曲がり角を曲がったところで彼女達は気を失っている人達を見つけた。乙矢のクラスメートもいるみたいだ。


「乙矢さん、そこ見て下さい」


 菖蒲の指差した方を乙矢が見ると、明らかにこの場にそぐわない扉があった。

 その扉だけが異様に綺麗で、扉の奥からは隠しきれない禍々しさが滲み出ている。


「奥に何かいるね」


 乙矢は二人に目配せして進むかどうかを確認した。どうやら二人共覚悟は決まってるみたいだ。

 乙矢は扉の前に行き、二人が付いて来ているのを確認してからその扉を蹴破った。

 途端、圧倒的な気配が彼女達を襲った。

 そのままブルっている訳にもいかないと、乙矢は扉をくぐった。


「いた。あれが親玉だね」


 乙矢の目に、釘バットを持ったアメフト選手のような体格の悪霊が飛び込んできた。


「じゃあ一丁やりますか」


 武器を構えた乙矢と菖蒲に天音が待ったをかけた。


「ちょっと待つっす。どうやって戦うつもりっすか? こんなとこであたしや菖蒲の風を使ったら一気に崩れるっす。それに乙矢の炎だってあっと言う間にマンションが燃えるっすよ」


 乙矢はそんな事を考えてなかった。

 どうしよう、練習の時は士道さんや玉藻ちゃんが結界を張ってくれてるから完全に失念していた。


「何か手はないの?単純な『力』だけじゃ攻撃力が足りないよ」


 そう『力』を纏わせているだけでは火力が足りない。戦闘の本領は炎や風と言った『性質』を使う事から始まるのに、もっと技巧に長けた人なら『力』だけで充実だろうが彼女達にそこまでの力量はない。


「ねぇ、士道さん達みたいな結界張れないの?」


 乙矢の問いに天音はばつが悪そうな顔をした。


「張れない事もないっすけど、そんな結界張ったらあたしは戦闘なんて出来ないっすし、時間的にも強度的にも結界がどれくらい保つかわかんないっすよ」


「いいよ、極力攻撃外さないように素早く倒せばいいんでしょ? 何とかしてみせる。菖蒲はサポートお願いね」


「ああもう、どうなっても知んないっすからね」


 天音はそう言って錫杖を構え、カンッという音と共に地面を叩いた


「呪怨結界!」


 天音の声が響くと、辺りが若干赤色に変わった。


「本当に大した強度はないっすからね」


 そう念を押した天音に乙矢左手を振って返した。


「じゃあやりますか!」


 ナイフを構えた乙矢は、刀身に炎を纏わせ全身を『力』で強化した。

 乙矢が強化し終わると同時に突っ込んで来た悪霊は釘バットを彼女の頭目掛けて振り下ろした。乙矢は地面を蹴って右によけ、左手に炎を纏わせ−−


「フレイムナックル!」


 −−悪霊の腹にパンチを叩き込んだ。


「結構本気で殴ったんだけどな」


 悪霊は二、三歩後ろに下がったが大して効いてなさそうだ。

 乙矢はナイフに更なる炎を纏わせ−−


「フレイムピアッシング!」


 −−悪霊の胴体に向けて刺突を繰り出したが、釘バットの一振りで軌道をそらされ、空いている手で殴りつけてきた。拳が乙矢に当たる寸前で菖蒲の放った真空刃が飛んできて悪霊は拳を引き戻し、数歩後ろに下がった。

 下がった悪霊に菖蒲が距離を詰めて薙刀を一振りした。


「ナイス!」


 体勢を立て直した乙矢は再び悪霊の懐に飛び込みナイフを振るったが釘バットに止められた。

 体格の差からか乙矢は四m程後ろに飛ばされたが、すぐに体勢を戻し、今度は地面を這う様に体勢を低くして駆け出し、悪霊の脛を切りつけた。


「やった?」


 乙矢が確認するも、どうやら今度も効かなかったみたいだ。

 『力』を更に練り上げ、右肩からナイフの先端までを炎で覆いナイフの先端から更に一m程炎を伸ばした。


「これで、決める!」


 全力で駆け出た乙矢は、すれ違いざまに悪霊を炎で斬りつけたが効いていない。


「あいつ固すぎる!」


「乙矢!早くしてくれっす」


 天音が何か言っているみたいだが乙矢には届いていない。

 今はどうすれば有効打を入れられるか考えないと。

 そう乙矢が思った矢先に悪霊が釘バットを振りかぶって向かって来た。乙矢は盾状の障壁を左手の前に展開して攻撃を受け止め、悪霊の腹を斬りつけてバックステップで距離を取ったが、またも乙矢の攻撃は効いていない。

 どうするかな? このままじゃ天音の張った結界が保たないだろうし、正直ジリ貧だ。

 いっそのこと全力でやってみるか。


「天音、ちょっと本気出すけど持ちこたえてね」


「無理っす!無理無理無理!今でも厳しいのにこれ以上は絶対無理っすよ!」


 なんだまだまだ余裕ありそうじゃん。


「菖蒲、天音の傍で防護結界張ってて。巻き込まない自信はないからしっかり結界維持してよ」


 そう言って菖蒲が天音の傍で結界を張るのを確認した乙矢は−−


「はああぁぁぁーーーー」


 −−雄叫びを上げてナイフに更に『力』を注ぎ込み、刀身が一m程になるように凝縮した。乙矢の全身いたるところから制御仕切れなかった『力』が炎となり吹き上がっているが乙矢にはどうでもいい事だった。

 乙矢は悪霊に向けて駆け、すれ違いざまに胴体を叩き斬った。

 振り返り−−


「燃え散れ」


 −−そう乙矢が一言呟き悪霊を見ると、胴体の真ん中に赤い筋が入りそこから激しく炎を上げて燃え上がった。


 乙矢の渾身の攻撃の余波で天音の結界が砕けて辺りの色彩が元の色に戻った。


「終わったんですか?」


 これで終わってなければ困る。

 乙矢も天音も肩で息をしていてこれ以上の戦闘は流石に無理だ。菖蒲も所々焦げている、乙矢の攻撃の余波をモロにくらったのが原因だ。


「もう無理っす!これ以上の戦闘はあたしの結界は無いっすからね。全く乙矢は、あれだけ言ったのに無茶苦茶な事しすぎっすよ」


 あはは、ごめん。少し罪悪感が芽生えて来た。今度からはもうちょっとマイルドに戦えるようにしないと。


「いやぁ、悪かったよ。けど助かった、私だけなら今頃大火災だったね」


 本当に洒落にならないが乙矢だけなら間違いなく、今頃大火災が起きていただろう。


「それじゃあ帰りますか? そうだ、肝試しに来てた人達はどうしますか?」


「放ってたらいいんじゃないの? どうせもう悪霊はいないんだし、気がついたら勝手に帰るでしょ」


 正直自業自得だろう。乙矢達にそこまでアフターサービスしてやる謂われはない。


「そうっすよ。放っておけばいいっす」


 乙矢達は怪我こそ無いが精神的にはボロボロで廃マンションの外に出た。

 いやそれにしても疲れた。全力で暴れられないのってこんなに疲れるんだ。


「それじゃあ帰ろっか。あ、そういえば士道さんへの連絡どうする?」


 乙矢は正直くたくたで早く家に帰りたかった。


「それならあたしがやっとくんで二人は先に帰ってていいっすよ」


 天音がそう言ったので二人はその言葉に甘える事にした。




 乙矢達が出てからかれこれ2時間は経った。

 彼女達は無事かな?


「ええい! 紅蓮、少しは落ち着かんか!」


「だって、何かあったらどうしよう? 玉藻は心配じゃないのか?」


「だってではない! 紅蓮は過保護過ぎるんじゃ」


 そんな事言われても心配なんだから仕方ないだろう。


 紅蓮達がそんなやりとりをしていると扉が開く音がした。


「只今戻ったっす」


 天音の声しかしない。紅蓮が急いで確認に行くと疲れ果てた様子の天音が一人でそこにいた。


「天音、乙矢ちゃん達は? 無事なのか?」


 紅蓮の言葉に天音は疲れた様子で答えた。


「二人共無事っすよ。疲れてるみたいだったんで先に帰らせたっす」


 良かった。無事で本当に良かった。


「乙矢は特に『力』を使ってたっすからね」


 紅蓮がホッとしていると天音がそんな事を言った。


「何か問題でもあったのかい?」


 紅蓮の問いに天音は、特に問題はないが無茶苦茶な事をしたと答えた。

 一体乙矢ちゃんは何をしたんだ?


「とりあえず、悪霊退治は無事に終了っすよ」


 晴れやかに言う天音を良くやったと玉藻が誉めた。何故かバツの悪そうな顔をしている。


「あ〜、あたしは結界張ってただけでほとんど乙矢だけで終わらせたっすよ」


 それを聞いた玉藻は若干驚いた表情に変わった。


「乙矢だけでのう、なかなかどうして使えるようになってきたではないか」


 玉藻の言ではないが確実に強くなっている。

 “組織”に推薦してあげてもいいかな? 紅蓮がそんな事を言うと、だから甘いと呆れた目で玉藻に睨まれた。

 その後、事のあらましを聞き終えたら、疲れたから帰ると天音も帰路についた。


「玉藻、やっぱり“組織”に推薦してもいいんじゃないかな? 彼女達だけでもちゃんと出来たんだしさ」


 そう紅蓮が言うと玉藻はまだ納得出来ない様子で彼に言った。


「褒美を取らせるのは吝かではないのじゃが、些か早くはないか? 『力』に触れてまだふた月しか経っておらんのじゃぞ」


 玉藻の言うことは紅蓮にもわかるが、二人の実力はこのまま現状維持で済ませられる程低くはない。


「じゃあ、特別講習に参加させてみるのはどうかな?」


 紅蓮の言葉に玉藻は渋々ながらも同意した。




 女三人寄れば……、強いです。

 今回はガールズパーティー戦闘な話でした。

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