第14話 殺人マンション
サイラスの事件、ゴールデンウイークから早2ヶ月。もうすぐ夏休みだ。
そんな頃に夏の風物詩とも言える怪談話が乙矢達の周りで噂されるようになった。
曰わく街外れにある今は誰も住んでいない、取り壊しが途中で中断されたマンションがあり、そこに幽霊が住み着いている。
曰わくそのマンションに入った者は誰も帰ってきていない。それは殺人マンションだと。
乙矢のクラスメートの何人かがそのマンションに行こうと話をしていた。
「乙矢、今夜殺人マンションに行くんだけど乙矢も一緒に行かない?」
クラスメートの一人が乙矢にそんな事を聞いてきた。
「ゴメン、用事があるから」
そう言った乙矢にクラスメートは、最近付き合いが悪いと言ってきた。
その日の授業も終わり、乙矢は菖蒲と合流して『幻想堂』に向かった。
彼女達はあのサイラスの件からずっと修業を重ねている。
「菖蒲はさ、殺人マンションの噂聞いた事ある?」
教室での事を思い出し乙矢は聞いた。
「はい、街外れの取り壊しが途中で中断されたマンションですよね? 夏に怪談話は付き物ですからね。そう言えばクラスメートが今夜肝試しに行くって言ってました」
どの学年でもやはり噂になっているのか。
それにしても肝試しする奴が多くないかな?
そんなこんなで二人が談笑していると『幻想堂』に着いた。
カランコロンと軽快なベルの音を聞いて、二人がいつもの様にソファーまで行くと、天音がいた。
「天音久しぶり。二週間振りかな、何してたの?」
天音はだらけきった様子でソファーに腰掛けていた。
「追試っす。赤点塗れの可哀想でお馬鹿なあたしは追試を受けてたっす」
追試って、天音の成績はそんなに悪いのかな。
乙矢達が話をしていると玉藻が、今日は天音も含めて実戦練習だと言った。
彼女達は日が暮れるまで交代で練習を続けた。
そろそろ今日は帰るかと乙矢達が話をしていると乙矢はふと思い出した事があった。
「あの、最近殺人マンションって怪談話があるんですけど知ってますか?」
乙矢の問いに、紅蓮はああと言った。
「街外れの廃マンションの事だね。あそこは危ないよ、崩落の危険もあるけど、実際に大量の霊が住み着いてるしね。あそこまで場が軋めば悪霊になってもおかしくないからね。夏休みに入ったら君達の試験も兼ねて除霊に行こうと思ってるんだけど、そこがどうかしたのかな?」
紅蓮は首を傾げながら聞いてきた。
悪霊がいるかも知れないのか。ヤバいかも。
「実はクラスメートが今夜肝試しに殺人マンションに行くと言ってまして、ヤバいですかね?」
乙矢の言葉に紅蓮は顔をしかめた。
「危ないね。それもかなり危ない」
うぅ、やっぱり。
いくら大して親しくないとは言っても、見知った人間が危険に巻き込まれるのを乙矢は放って置けない。
乙矢と菖蒲は顔を見合わせてこれから行こうと決めた。
「あの、今からちょっと行って止めてきます」
「二人だけで行く気かい? 流石にそれはやめた方がいいよ」
紅蓮は渋っている。やっぱり危険な所に彼女達だけで行かせられないらしい。
「紅蓮、獅子は我が子を千尋の谷に突き落とし、這い上がってきた我が子を更に蹴り落とすと言うじゃろ? 行かせてやれ。どうせ誰もが通る道じゃ」
更に蹴り落とすとは言わない筈なんだが……玉藻なら本当に蹴り落としそうだ。
それでもまだ不満そうな紅蓮に天音が自分も行くと言った。
「三人いれば旦那の不安も和らぐんじゃ無いっすか? あたしなら余裕っすよ余裕。なんせ天狗っすからね」
それを聞いて渋々ながらも紅蓮は認めてた。
そう言えば天音は烏天狗だったっけ。あまりにもらしく無さ過ぎて忘れてたよ。
三人は『幻想堂』を出て街外れに向けて歩いていた。
「天音ちゃんは何で一緒に来てくれる気になったの?」
菖蒲の問いを聞いた天音は珍しく真面目な表情になった。
「それは、追試で爺ちゃんが怒って、小遣い減らされたからっすよ。本当に悪霊がいたとして、退治したら“組織”から報奨金が出るっすからね」
なんとも締まらない理由だ。思わず乙矢と菖蒲はずっこけそうになった。
しかし“組織”ってなんだ?
「あのさ天音。“組織”って何? 報奨金ってどういうこと?」
その乙矢の言葉を聞いて天音はあれっ? と言った。
「“組織”の事はまだ聞いてなかったんすか? “組織”ってのは妖怪とか悪霊とかを取り締まる人達を統括してる所っす。まあ、絶対所属しなきゃ駄目って訳でもないんすけど、所属すれば悪霊とか悪い妖怪とかを退治したらお金をくれるんすよ」
そんなのがあった事は乙矢には初耳だった。
「他にも幽霊を祓っても報奨は貰えるっすしね。確かさっき旦那が言ってた試験に合格したら“組織”に推薦するつもりだって前に旦那が言ってたっす」
乙矢達は思わず顔を見合わせた。
じゃあ私達も悪霊を退治したり出来るようになるのか?
今まで乙矢が感じていた世界との乖離−−そうか私は士道さん側に来てたんだ。
これからは刺激的な日々を送れると思うと不謹慎だが乙矢はワクワクしていた。
「あの、目を輝かせてるとこ悪いっすけど、あくまで試験に合格したらで今回は勝手してるっすから、たぶん別の所で追試っすよ、追試」
乙矢にとって人生初の追試、けれどそんな事は気にもならないくらい乙矢の気分は高揚してる。
乙矢と菖蒲の顔がすごく輝いている。
「よし! やるわよ菖蒲。絶対認めて貰うんだから」
「うわ〜、超熱血してるっすね。熱いっす。なんか一人だけテンションが違うっす。二人との間にマリアナ海溝ばりの溝を感じるっす」
天音が何か言ってるけど、乙矢達にはどうでもよかった。 絶対私達は士道さんに認めてもらうんだから。
乙矢達が熱血してる間に、彼女達は殺人マンションの近くまで来ていた。
「うわ〜、如何にも出るって雰囲気がするよ。流石にこれはあからさま過ぎない?」
乙矢の問いに二人共同意した。
「確かに凄いですね」
「でもここって最近の噂っすよ。出ても小物じゃないっすか?」
天音は大した稼ぎにならないと嘆いた。
乙矢達は入り口まで来て周りを見回したが誰もいない。
「まだ来てないのかな?」
乙矢がそう言うとマンションの方から微かに悲鳴のようなものが聞こえてきた。
「ねぇ、今悲鳴が聞こえなかった?」
二人共聞こえたと答えた。
「あちゃー、もう入ってるみたいっすね」
そんな事わざわざ言わなくてもわかってるって。
「はぁ、止めれなかったね? 入るしかないか」
乙矢が二人に聞くと、二人共乙矢と同じく溜め息を吐いていた。
「一般人が居るってめんどくさいっすね」
天音がそんな事を言っている。確かに面倒だけどそれはあからさまに言い過ぎだ。
「ま、まぁ入っちゃってるのは面倒だけど、仕方ないよ。とりあえずさっさと除霊しに行こ」
なんともグダグダで締まらないが彼女達はマンションに入った。
マンションの中に入ったはいいが、思っていたよりも遥かに澱んでいた。
「これで小物? それはなさそうじゃない?」
菖蒲は乙矢の発言に同意したが、天音は頭を捻っていた。
「おかしいっすね、いろんな浮遊霊が集まってるとは思ってたっすけど、それ以上のも紛れ込んでそうっすね」
一旦引き返すのも一つの手だと天音は言うが、乙矢は引き返してる間に一般人に危険が及ぶ可能性も有ると言い、彼女達は更に奥に進んだ。
「乙矢、上じゃないっすか? ほら、そこに階段もあるっすよ」
天音が示した方を乙矢が見てみると確かに階段があった。
かなり不気味な雰囲気だ。
「気味が悪いですね」
菖蒲も乙矢と同じ事を思っていた。
「確かに気味悪いけど、行くしかないよ」
そう言って彼女達は階段を上った。
彼女達が二階に上がると更に空気が澱んでいた。
「見て! あそこに誰かいる」
乙矢が指差した方を二人共凝視した。
「確かに誰かいますね、行ってみます?」
菖蒲の言葉に乙矢は頷きで返し、彼女達は人影のいる場所に向かった。
そこには怯えてうずくまってる三人の女の子がいた。
「大丈夫?」
乙矢が声を掛けると女の子達はビクッと震えた。
「あの、何かあったんですか?」
菖蒲の声を聞き、女の子達は恐る恐る顔を上げた。
「菖蒲? 何でいるの? あ、それより皆とはぐれちゃったんだけど知らない?」
女の子達は怯えた目をしている。恐らく幽霊を見たんだろう。
「知らないけど、どこではぐれたか教えてくれたら探しに行ってあげるから、皆は先に帰っていいよ」
菖蒲の言葉を聞き十二階だと行って女の子達は帰っていった。
「12階って最上階だよね? なんで一番上まで行くかな。階段でそこまで上がるのきついよ」
乙矢の言葉を聞き、二人共げんなりした様子だ。
「でも、一番上まで行くしかないっすね」
天音の言う通り行くしかないんだよなぁ、これが。
彼女達はうんざりしながらも最上階を目指して階段を上り始めた。
道中、上層階に上がるたび、どんどん澱みが濃くなる事に乙矢達は嫌な予感と共に口数が少なくなっていった。
乙矢はどうか一般人に被害がありませんようにと心の中で祈り、とうとう最上階に辿り着いた。
ガールズパーティー発足? な感じの第14話でした。
次回は戦闘します。




