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第12話 修業、暗雲

 ゴールデンウイーク2日目、乙矢達は今日も『幻想堂』にやって来た。

 『幻想堂』の前で紅蓮と玉藻、昨日に引き続きシルヴィアが二人を待っていた。


「来たね。それじゃあ練習を始める前に乙矢ちゃんに武器を渡しておこうか」


 どんな武器を貰えるのだろう?

 乙矢がワクワクしていると、紅蓮はポケットから銀色のブレスレットを取り出した。


「昔、僕が使っていた物なんだけど、使い勝手が良くて初心者にも扱い易いと思うからこれを乙矢ちゃんにあげるよ」


 それは小さな十字架のチャームが付いたシルバーブレスレットだった。


「それに『力』を通してみて」


 乙矢はそのブレスレットを右腕に着けて『力』を込めた。すると、そのブレスレットは刃渡り30cm程の細かい装飾が施された両刃のナイフに変わった。


「綺麗。このナイフ凄く綺麗です」


 実用性は皆無、観賞用と言った方がしっくりくるが、それはとても神秘的な雰囲気が醸し出されていた。

 そんなナイフに見とれる乙矢の姿を見て紅蓮は、気に入ってもらえたなら何よりだよと優しく微笑んだ。


「それじゃあ菖蒲ちゃんも薙刀を出しておこうか」


 そう言って紅蓮は辺り一帯に結界を張った。


「この中なら誰にも見られないし、今から攻撃について教えるね。簡単な攻撃方法は武器に『力』を込める事だ。掌に『力』を集める要領で武器に『力』を纏わせてみようか」


 乙矢達は紅蓮に言われた通りに武器に『力』を込めた。

 あれ、思ったよりも簡単だ。

 乙矢がナイフに薄緑色の『力』を纏わせると簡単に馴染んだ。

 そこで乙矢が隣の菖蒲を見ると、何故か菖蒲の薙刀に風が纏わりついて弾けた。

 何なんだ今のは?


「ほぅ、菖蒲は風か」

 玉藻が珍しそうに言っているが何が風なのだろう。


「菖蒲よ、少し『力』の分量を減らせ」


 菖蒲が玉藻に言われた通りに込める『力』の量を調節すると、今度は薙刀の周りに風が渦巻くだけで暴発はしなかった。


「玉藻ちゃん、私も菖蒲みたいに風とか使えないのかな?」


 乙矢の疑問に玉藻はふむと言って腕を組んだ。


「出来んことは無いじゃろうが風かどうかはわからん。一度火を想像してみよ」


 言われた通りに乙矢は『力』を込める時に火をイメージした。

 すると、右手首からナイフの先端まで燃え上がった。

 右手にまで火が纏わりついているのに乙矢は熱さを感じなかった。


「一般的にイメージしやすい火は使いやすくて、風みたいな形をイメージしにくいモノは使いにくいと言われているんだけど、それでも一発で成功させるなんて乙矢ちゃんには才能があるんだね。後は刀身にだけ炎を纏わせられれば完璧だ」


 ニコニコと微笑みながら紅蓮は言った。

 乙矢は誉められた事が嬉しかった。


「それじゃあ、次は遠距離攻撃をしてみようか」


 遠距離攻撃か。これぞ魔法の醍醐味ってやつだろう。


「まずは、掌に載せるように『力』を集めてみようか」


 言われた通りに掌に『力』を集めると、乙矢は炎が、菖蒲は風が、それぞれ上がった。


「次は『力』が飛んでいくイメージで掌から切り離してみよう。僕を狙っておいで、心配しなくても障壁を張ってあるから問題ないよ」


 二人は紅蓮を狙う。

 菖蒲の風は紅蓮の障壁まで飛んでいったが、乙矢の火は飛ばない所か、掌から離れそうもない。

 乙矢は何度も何度もチャレンジしてみたが一向に飛ぶ様子はない。


「もう止めなさい、あなたには無理よ。別にあなたを貶めているのでは無くて、向き不向きの問題なのよ。優れた術者にも飛ばせない者はいるわ。でもそういう人って身体強化や武器に『力』を付与する事に長けているの。あなた達の違いは一点型か万能型かの違いでしかないわ。一点型は学ぶ事が少なくて早く強くなれるのだから心配しなくてもいいわよ。どうせ役割に多少の違いがあるくらいなのだからね」


 慰められたのだろうか。どうやら乙矢は『力』を飛ばすことが出来ないらしい。

 しかし乙矢は、早く強くなれるならいいのかな、なんて甘い事を考えていたりする。


「まぁ、シルヴィアの言う通りかな。暫くは今まで教えたことを自分で練習しようか、何か聞きたい事が出来たら聞きにおいで。はい、それじゃ練習開始!」


 紅蓮に言われた通りに二人は各々練習を始めた。



 二時間ほど練習をしたところで、休憩にしようと紅蓮がサンドイッチと紅茶を用意していた。

 食事を終えると、次は対人戦闘の練習だと紅蓮に言われた。


「じゃあ、最初は乙矢ちゃんからでいいかな。菖蒲ちゃんは見ているんだよ。相手は僕がするから」


 紅蓮は乙矢から五m程離れた場所に丸腰で立った。

 乙矢はナイフに炎を纏わせて紅蓮に向けて一気に駆け出した。

 上段からの振り下ろしを紅蓮は体を左に半歩ずらしてかわす。振り下ろしたナイフを紅蓮に向けて振り抜くも、腕を押さえて止められた。そのままの勢いで右足に炎を纏わせて蹴り込んだが紅蓮の体に触れる前に止まった。障壁か。

 止められた足を引き戻し乙矢は二、三歩バックステップして紅蓮から距離をとる。

 一瞬乙矢を見たかと思うと紅蓮は両腕に炎を纏わせ、距離を詰めワンツーを放った。

 乙矢が大きくバックステップをして距離を離すが再び距離を詰められ、ボディー狙いの右回し蹴りが紅蓮から放たれた。

 乙矢はその蹴りを左腕に『力』を纏って受けたが、三m程蹴り飛ばされた。

 あの細身のどこに其処までの力があるんだ?

 三度距離を詰めようとしてきた紅蓮に乙矢は、ナイフに更なる『力』を込めて炎で刀身を1m程に伸ばして一振りし歩みを止めた。

 今度は先程までとは逆に紅蓮が距離をとり、炎を飛ばしてきた。

 飛んで来る炎をかわし、時にはナイフで弾いていると、不意に乙矢は身体が軽くなったように感じた。炎が見える。

 不思議な現象だが、今はこれで良い。

 乙矢は有らん限りの力を使い、飛んで来る炎をかわして紅蓮に突っ込んだ。

 一瞬、紅蓮は驚いた様な顔をしたが乙矢が気付いた時には両腕をキメられていた。


「はい、お終いだね。最後のはかなり驚いたよ」


 最後に何かしたかな? ただ突っ込んだだけなのに。

 乙矢には紅蓮の言っている事がわからなかった。


「上出来だね。いくら空手をしてたからって実戦経験が無いなんて信じられない程凄かったよ。次は菖蒲ちゃんだ、おいで」


 そんなに凄かったのか?

 乙矢が皆の所に戻ると菖蒲に凄かったですと尊敬の眼差しで見られた。誉められ慣れていないのか、乙矢は先程までの高揚と混ざって不思議な気分だった。

 菖蒲は紅蓮の前に行くと、よろしくお願いしますと言い、薙刀を上段に構えた。

 最初に菖蒲が動いた。上段からの振り下ろし、突き、薙払い。

 紅蓮は全てを難なくかわして、反撃に出た。

 右手に纏った炎の形を変えて剣のように細長くした。紅蓮はその剣で唐竹、袈裟、胴と流れる様に斬り込んだ。

 辛うじて紅蓮の攻撃を防いだ菖蒲は薙刀に風を纏わせて斬りかかった。轟風の様な菖蒲の斬撃をバックステップでかわした紅蓮は乙矢の時の様に炎を飛ばした。

 菖蒲はその炎をかわし、防ぎ、時には風を撃ち込んで反撃している。

 暫くそんな攻防を繰り広げていると菖蒲が肩で息をして膝を着いた。どうやらスタミナ切れみたいだ。


「じゃあ終わりだね。二人共かなりやるね。正直出鱈目な才能だよ」


 紅蓮はそんな事を言っているが、乙矢には凄い事をした自覚などなく、お世辞だろうと思った。


「本当に驚いたわ。あなた達本当に人間なのかしら?」


 微妙に失礼なシルヴィアの声も二人に聞こえてきた。


「そうじゃのう。今のままでもそれなりの戦闘は出来そうじゃな、馬鹿げておるわ。特に乙矢の最後の動き、あれはただの人間に出来る動きではないのう」


 玉藻までもが凄い事だと言ってる。


「別に可笑しな事はしてないんだけどな。ただ見えたから避けて突っ込んだだけだし」


「それが異常なのじゃ。頭の何処かが切れてでもおらねば突撃なぞせんわ」


 切れてないとって……流石にそんな事ないと思うんだけどな?


「まあ、二人共才能があるんだから良いんじゃないかな。正直予想外の実力だったしね。このまま鍛えていけば十天くらいにはなるんじゃないかな」


「流石にそれはのぅ」


「言い過ぎではないかしら」


 シルヴィアと玉藻は揃って言っているがとりあえず乙矢達は誉められているのだろうか?

 その後も何度か紅蓮と実戦形式で相手をしてもらった。


「あの、玉藻ちゃんとシルヴィアさんには相手してもらえないんですか?」


 乙矢が疑問に思った事を聞くと紅蓮は、二人がもうちょっと強くなったら相手してもらってもいいかもねと苦笑いを浮かべた。


「あの二人は手加減しないからなぁ。いや、手加減しても出鱈目に強いから乙矢ちゃん達が自信なくすまで徹底的にやるだろうしね。それでも良ければ相手してもらうのもいいと思うよ」


 乙矢は冷や汗を流しながら、遠慮しますと言った。

 その後も二人が練習を続けていると、天音が焦った様子でやってきた。


「紅蓮の旦那大変っす! 昨日聞いた奴を隣の県で見たってのがいたんすけど」


 その言葉を聞いた紅蓮とシルヴィアの様子が変わった。


「詳しく教えてくれ」


 紅蓮はそう言って天音に水を渡した。

 その水を一口飲んで天音は話だした。


「昨日の夕方の話らしいんすけど、餌を探してカラスが飛んでたら血だまりがあって、そこから去っていく灰色の髪の大柄な男を見たって話っす」


 その話を聞いて紅蓮が表情を険しい物に変えた。


「そう、とうとう来たのね」


 シルヴィアはそう呟いて溜め息を一つ吐いた。

 玉藻は特に気にした様子もないが確実にこの場の雰囲気は重苦しい物に変わった。




 乙矢は才能はありますが決してチートではありません。

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