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第11話 『力』

 乙矢達に『力』の使い方を教えると言った玉藻に、紅蓮もまぁ妥当かなと言って最初は『力』の概念について教えてもらう事になった。


「まず『力』について教える。乙矢ちゃんと菖蒲ちゃんは『力』ってどんなモノだと思うかな?」


 紅蓮の問いに乙矢は、何となく漠然としたモノだとしか思わない。

 悩んでいる乙矢の隣にいる菖蒲が自信なさげに声を上げた。


「えっと、魔力とかRPGに出てくるMPの事だと思ってたんですけど、あってますか?」


 その菖蒲の言葉に紅蓮は微笑み、頷いた。


「そうだね、後は妖力とか霊力とか場所によって様々な呼び方があるけど正解だよ」


 そう言って紅蓮は微笑み、話を続けた。


「じゃあ早速『力』の使い方の基礎の基礎から教えていこう。まず、『力』は本来誰もが持つモノだったんだ。でも時が経つにつれ次第に信仰心、『力』を信じなくなっていって徐々に失われていったんだよ。まぁ、中には君達みたいに『力』を持つ人もいるが、大きな『力』を持つ人は本当に稀にしかいない」


 『力』を信じないから失われたなら、信じれば『力』を使えるのかと乙矢は思った。


「だから、『力』を使うには一片の曇も無く信じる事、俗に無我の境地とかトランスとか言われているけど、信じる思いこそが『力』を使う為に大事な事だよ」


 信じる事が大事か。今まで『力』を知らずにいた乙矢は、以外に難しい事かもしれないと顔をしかめた。


「そして『力』とは、今現在常識になっている物理法則を無視して世界に超自然的な干渉をする事が出来る」


 世界に干渉とはどういう事だろう。

 乙矢には良くイメージを掴めなかった。


「えっと、無から有を作る事も可能だと言う事ですか?」


 菖蒲の言葉に乙矢さ、ますますわからなくなっていた。

 無から有なんて無理だろう。

 その疑問には玉藻が答えた。


「無から有は作れん。全ては『力』を媒介にしておるからな。火を着けると言う一つの事を取ってもまず、着火したい場所の空気に『力』を混ぜ、火を着けると言う思いによって発火するのじゃ。混ぜる『力』の質、量によって炎の温度や大きさなどが変化するがの」


 つまり『力』を代価に現象を引き起こしているのか。

 乙矢がそう思っていると紅蓮が実際に『力』を練ってみようと言った。


「まず、利き手に『力』を集中してみようか。やり方はそうだね、掌に体中の熱を集めるつもりで集中してみるといいかな」


 彼女達は言われた通りに利き手に集中しているが、やはりそう簡単にはいかない。

 乙矢が悪戦苦闘していると、隣で薄ぼんやりと菖蒲の手が明滅している。

 菖蒲はさっそくコツを掴んだようだ、私も頑張らないと。

 乙矢がそう思っていると玉藻が口を開いた。


「余計な事は考えるな。ただ『力』を集中する事だけを考えよ」


 乙矢が、玉藻に言われた通りに『力』を集める事だけを考えているとほんのりと、本当に微かに光を放ち始めた。

 薄い緑の光が徐々に強まると一瞬強く輝いて消えた。光が消えると、乙矢の体を物凄い虚脱感が襲った。

 ふらふらと倒れそうになる乙矢を紅蓮が支えた。


「大丈夫かい、あんなに一気に『力』を垂れ流すのは駄目だよ。『力』はその場に留めないとね。でもまさか、いきなりあんなに『力』を引き出すとは思ってなかったな。恐らく乙矢ちゃんには凄い才能があるよ」


 朦朧とする意識の中で乙矢は、誉められている事だけは理解した。

 そこで乙矢は意識を手放した。



 鬱蒼と木が生い茂る深い森の中にいる。その森をどんどん奥まで進むと、急に開けた場所に出た。

 その場所には純白のローブを羽織った人がいる。体格から女性だと推測出来るが年齢はわからない。

 その女性は乙矢を見ると、傍までやって来た。


「あなたがここに来るのはまだ早いわ。心配している人もいる事だし早く目覚めなさい」


 直接頭に響く声でそう言った女性は、話を終えると振り返り去っていった。

 乙矢はその女性を追いかけ様としたが体が動かない。



「乙矢、乙矢いい加減に起きんか!」

 頭に衝撃を感じ、乙矢は目を覚ました。

 気を失っていたみたいだ。

 何か夢を見た気がするが頭に靄がかかったように思い出せない。

 時計を確認すると、そんなに長い時間気を失っていた訳ではないようだ。


「漸く目覚めよったか。気分はどうじゃ?」


 玉藻に言われて乙矢は自分の状態を確認するが悪くない。むしろさっきまでより良いくらいだ。


「大丈夫。何かね、今なら『力』を上手く使える気がするし、すこぶる好調だよ」


 乙矢の言葉を聞いた玉藻はならばやってみせよと言った。

 乙矢は玉藻に言われた通りに『力』を掌に集める。気絶する前とは違い、どんどん自分の中に沈んでいく感覚がする。

 すると、さっきまでとは桁違いに安定した光が彼女の掌に渦巻いていた。


「凄い!」


 それを見て菖蒲が驚いているが、誰よりも乙矢が一番驚いた。


「安定しておるか。しかし切欠は何じゃ?」


 そんな事を玉藻が言っているが乙矢にも理解出来ない。

 それに菖蒲は最初から、乙矢と同じくらい安定している。

 そんな事を乙矢が考えていると紅蓮が、もう止めていいと言った。


「二人ともちゃんと出来たね。それじゃあ次は身を守る術、防護結界を教えるよ」


 結界か、これで彼女達は自分の身を守る事が出来るのか。


「では、結界だけどこれは少し難しいかもしれない。さっき掌に『力』を集めた要領で体の周りに薄く『力』の膜を巡らせるんだけど、これは自分が円の中心にいるつもりでその円に沿って『力』を流す。慣れるまでは、一度掌に『力』を集めてから流すといいよ」

 乙矢は紅蓮に言われた通りにやってみた。

 掌に『力』を集める、ここまでは大丈夫だ。

 次に自分を中心に円形に『力』を流す。

 すると乙矢の周りに『力』が広がる前に霧散していった。

 二度、三度と繰り返すが上手くいかない。

 乙矢が少し離れた所で練習している菖蒲を見てみると、合掌した手に『力』を集め、その手をいっぱいに伸ばして体の真横に広げた。

 するとその勢いのまま『力』が円を描き菖蒲の体を覆った。

 しかし、十秒程形を保っていたが徐々に崩れて形を保てなくなった。

 それは乙矢にとってヒントだった。

 菖蒲の真似をしてやってみると、円形にはなったが二、三秒程で形を保てなくなった。

 乙矢は何度も何度もトライして漸く形を留める事が出来るようになった。


「よし、何とか形になってきたね。次はその形をそうだね…… 十分間保てるようになろうか」


 鬼だ。ニコニコ笑いながらそんなこと言うなんて士道さんは絶対にSに違いない。

 乙矢は紅蓮に言われた通りに十分間形を保とうとするが、途中で集中が途切れてしまうが、菖蒲は順調に形を保てる時間が伸びている。

 何度も失敗を繰り返す乙矢を不憫に思ったのかシルヴィアがアドバイスをした。


「無理に形を保とうとするのではなくて、一度結界を作ったら後は『力』を込める量にだけ集中しなさい。あなた筋は良いのだからコツさえ掴めば出来るはずよ」


 誉められた! 筋が良いと言われた。その言葉だけでやる気が湧き上がってくる。

 乙矢はシルヴィアのアドバイス通り、形を作った後は『力』の分量にだけ集中した。

 始めの内は『力』を込め過ぎたり、逆に少な過ぎたりして失敗していたが、徐々に時間が伸びていった。

 何度かやっていると体に余計な力も入らなくなり、形を保てる時間が伸びた。

 乙矢が何とか十分間形を保てるようになった頃には菖蒲は三十分も続けていた。

 それを見ていた玉藻が不味いのうと呟いていた。


「菖蒲、少し良いか。ぬしは普段からボーッとしてはおらんか? もししておるのであればこれからは自分を保つようにせよ。持って行かれても知らんぞ」


 玉藻の言葉を聞き、菖蒲と乙矢は顔を見合わせた。玉藻が何を言いたいのかわからない。

 その後も反復練習だと紅蓮に言われ、乙矢達は何度も何度も消しては作り、作っては消すと言った事を繰り返した。


「もういいかな。次は攻撃だけど、何か使える武器とかないかな?」


 何度繰り返しただろう。乙矢達が疲れ切ってバテていると、漸く次に進むことになった。

 紅蓮の質問を受けて菖蒲は、薙刀を少しやっていましたと言った。


「薙刀か。ならば、妾がぬしにやった腕輪に『力』を込めて薙刀を思い浮かべよ」

 玉藻にそう言われた菖蒲は言われた通りミサンガに『力』を込めた。

 すると、ミサンガが粒子状になって菖蒲の手に収まり薙刀になった。

 凄いと乙矢が驚いていると、菖蒲も相当驚いていた。


「その腕輪は妾の髪で編んだ物じゃ。『力』の通りが良く、使いやすいじゃろ」


 まだ驚いている菖蒲を気にもせず、玉藻は胸を張って言った。


「じゃあ次は乙矢ちゃんの武器だね。どんな武器がいい」 


「特にないです。小さい頃空手はやってましたけど武器は使えないです」


 そう言った乙矢に紅蓮は、明日までに何らかの得物を用意しておくと言った。


「今日はもう遅いからそろそろ家に帰った方がいいよ」


 そう言われ乙矢が時間を確認すると、午後七時を過ぎていた。

 乙矢達は帰り支度をして『幻想堂』を後にした。

 駅前に着き、明日も駅前のコンビニで十時に待ち合わせをし、それぞれ帰路に着いた。

 明日私にはどんな武器が用意してあるんだろうか。

 乙矢は楽しみが胸に溢れて、家に着くまで終始ニコニコしていた。




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