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第10話 ヴァンパイア


「サイラスってあの第六の使徒、人喰いサイラスの事か?」


 普段とは違い荒い口調で紅蓮はシルヴィアに確認するかのように聞いている。 乙矢と菖蒲は何事かと訝しんだ。

 物騒な言葉、人喰いとか聞こえたが、一体何の事だろう。

 玉藻もあまり理解していないのか、どこか難しい顔で話を聞いている。


「ええ、そのサイラスよ」


 シルヴィアが紅蓮の言葉を肯定した。

 とても珍しい事に、紅蓮は更に険しい顔になって−−クソッ、何て事だ、と一人悪態をついていた。


「シルヴィア、奴の狙いはなんだ?」


 そう問われたシルヴィアは軽く溜め息を吐いて答えた。


「恐らくは紅蓮が予想している通りよ。第一使徒の提唱したゲーム、真祖狩り」


 真祖狩りという言葉の響きからすると、恐らくさっき説明を受けた真祖を狙っているのだろう。

 乙矢の隣で菖蒲も考え込んでいるが、さっきまで理解していなさそうだった玉藻んは納得した様な顔をしていた。


「つまり狙いはシルヴィア、君か。奴はもうこの街に入っているのか?」


 シルヴィアが狙い。

 つまりシルヴィアさんは吸血鬼、それも真祖だったのだ。

 乙矢達は驚いたように息を呑んでいた。


「さあ、流石にそこまでは分からないわ。一応街中を精査してみたのだけれど、使徒クラスの気配は感じなかったから、恐らくまだ街には入ってないとは思うわよ」


 紅蓮はそれを聞いて安心したように息を一つ吐いた。


「そうか、なら奴に備えて置かないと。シルヴィア、奴の人相は分かるかい」


 シルヴィアはそれに分かると返した。

 それを聞いて立ち上がった紅蓮は、窓を開けて指笛を鳴らした。

 何をしたのだろうか。乙矢がじっと窓の外を眺めていると、黒い影が目に入った。

 最初は豆粒くらいだったその影はどんどんと大きくなっている。すごい速さで『幻想堂』に向かって来ているのだ。

 その影はピタリと窓枠に止まった。その影の正体はカラスだった。


「紅蓮の旦那ぁ、どうかしたっすか?」


 カ、カラスが喋った!

 乙矢が驚き、菖蒲が目をキラキラ輝かせていると、彼女達とカラスの目が合った。

 するとそのカラスは額に脂汗を浮かべた。


「か、かぁ」


「いや、さっき喋ったでしょ! 絶対」


 ごまかす様に小さく鳴いたカラスに思わず乙矢は突っ込みを入れてしまった。

 すると玉藻が呆れた様に溜め息を吐いた。


「大丈夫じゃ天音。こやつらは関係者じゃ」


 そう玉藻に言われたカラスは翼で額を拭った。


「いやぁ、玉藻の姐さん。そう言う事は早く欲しいっすよ。ところで、このままじゃ窮屈なんで普段の姿に戻っていいっすか?」


 それに対して紅蓮がいいよと返すと、カラスは一瞬風に捲かれ、次の瞬間には乙矢達と同じ年頃の黒髪のショートヘアーな女の子に変わっていた。


「それじゃ、自己紹介させてもらうっす。あたしは烏丸天音16歳。ご承知の通り皆のアイドル、烏天狗っす。よろしく」


 天音と名乗った少女は、本人はいたって普通に答えたのだろうが、端から聞くとふざけた事を言ってピースまでしている。

 とても軽く、滅茶苦茶テンションが高い。

 そのテンションの高さに乙矢と菖蒲、それに先程まで黙って成り行きを見ていたシルヴィアが吃驚していると紅蓮が、彼女は情報屋もやってるんだと言った。


「情報屋ね。それでその子を呼んだのね?」


 と、いち早く立ち直っていたシルヴィアが聞いた。


「ああ、彼女はこの辺りの妖怪とカラス達に顔が利く。情報を集めるには都合がいいだろ」


 なんて紅蓮とシルヴィアが話してる間に天音は乙矢達の所に来て更に詳しく自己紹介を始めた。


「あたしは海央高校の一年なんすけど、お二人さんはどこの学校っすか?」


 なんと彼女は女子高生らしい。

 妖怪って学校に通うんだ。

 乙矢が驚いていると、菖蒲が自己紹介をして成錬女子校の1年と2年だと言っていた。

 菖蒲が軽く現実逃避している乙矢の事も紹介し、よろしくと言った。


「あたしのことは天音でいいっすよ」


 なんて言った天音に、乙矢達も呼び捨てでいいと返した。

 そんな感じで彼女達が談笑していると、話を終えた紅蓮達が彼女達の所へやって来た。


「早速だけど、天音に調べてもらいたい事があるんだけど、頼めるかい?」


 そう言った紅蓮に天音は任せてくれと返した。

 

「あなたに頼みたい事なのだけれど、人探しをしてもらいたいの。探してもらいたいのは男。その男の特徴だけど、二m位の身長で体格はがっしりしていて髪は灰色、人気の無い場所をうろついてるはず。昼間は見かけないかもしれないわ。そんな男がいたら紅蓮に知らせて欲しいの。ただ、とても危険な相手だから死にたくなければ絶対に近づかないで」


 聞くからに怪しい男だ、そんな男がいればすぐに見つかるだろう。


「そのサイラスって男は何がそんなに危険なんですか?」


 乙矢は思わず、気になったことを聞いた。

 すると、紅蓮もシルヴィアも少し言い辛そうにしながら互いの顔を見合い、紅蓮が答えた。


「サイラスはヴァンパイアの中でもかなりの変わり種でね、普通ヴァンパイアは吸血行為をするものなんだけど、サイラスは通称人喰いサイラスと呼ばれていて、こいつは血を吸うんじゃなく肉を喰いながら一緒に血も摂取するんだよ。しかも人間だけじゃなく、吸血鬼を含む妖怪まで喰う。そして喰った相手の『力』を得る。だから、ヴァンパイアの中でも完全に異端の存在なんだ」


 言葉もない。というより、それは本当に吸血鬼なのか?

 乙矢達の顔が引きつっている。

 玉藻も同じ事を思ったのか、紅蓮に疑問をぶつけた。


「それではまるで鬼の様じゃのう。それにの、使徒とは何じゃ?」


 鬼か、確かに鬼は人を食べるという話は沢山ある。

 しかし、吸血鬼と言うくらいなのだから鬼の一種なのか?

 使徒がなんなのか乙矢達も理解していないので、黙って説明を聞くことにした。


「使徒とは、強大な『力』を持ったヴァンパイア達がユダを除くキリストの弟子になぞらえて自分達の事を12使徒と呼び始めてね、それ以来ヴァンパイアのトップ12人の事を使徒と呼んでいるんだよ」


「しかしのう、まさか妖怪が聖人の弟子になぞらえて自らを呼称するとはの。それとじゃ、先程第六の使徒と言っておったがそれは序列か?」


 確かに。妖怪がキリストの弟子の呼び名を使うのは皮肉としか思えない。


「序列と言えば序列かもしれないけど、別に強さの順と言う訳じゃない。欠員が出れば補充もあるしね。ただ、第一使徒だけは規格外だね。あれは本当に強いし、恐らくは最古のヴァンパイアだろうしね」


 規格外の存在か、絶対に出会いたくないな。

 そんな事を乙矢が考えていると、何か疑問があったのだろうか、天音が紅蓮に質問した。


「聞きたいんすけど、サイラスって奴はどれくらい強くて危険なんすか?」


 その質問に紅蓮が唸っていると、シルヴィアが答えた。


「そうね、正面切っての強さは使徒の中でもそこまでではないわ。ただし、頭がいい。自身の強さに決して慢心せず、常に最適の行動を取る。他のヴァンパイアなら正面からごり押しするけど、サイラスは慎重に闘うわ。でも危険度はそこまで高くはないわよ。非常に理性的だから話が通じるし交渉の余地もあるわね。ただ残虐さは使徒随一ね。敵対する相手には一切の容赦がないわ」


 話を聞く限り、敵対しなければいいのではないのか?

 再び乙矢がそんな事を考えていると、紅蓮が天音にカラス達や妖怪達に伝えて、もし見かけたらすぐに連絡してくれ、ただし見つけても近づかないようにと言った。


「了解っす。とりあえずカラス達に呼びかけて、警戒網を敷いてもらうっす」


 天音はそう言うと、窓から指笛を吹いて近場にいたカラスを呼び寄せ、今紅蓮達から聞いた話を伝えていた。


「これで、誰かが見かけたらすぐ連絡くるんで、連絡があったらすぐに紅蓮の旦那に伝えるっす。それと、あたしも一旦家に帰って爺ちゃんの伝手にも当たってもらうっす」


 天音は再び乙矢と菖蒲の傍に来て携帯電話を取り出し、メアドを交換しようと言い、乙矢達は天音とメアドを交換した。

 妖怪がケータイって何か間違ってる。

 その後天音はまた窓に行き、『幻想堂』に来た時のようにカラスの姿に代わり、また今度っすと言って飛び出して行った。

 その姿を見送った後、シルヴィアが、色々凄い子だったわねと呟いた。

 確かに色々とすごい子だが、愉快ないい子でもある。


「ぬしらはどうする? 日中ならまだ安全じゃぞ」


 確かに日中なら危険は少ないだろう。しかし、全く危険が無いわけでもないし夜、家にいても安全だとは言えないのだ。

 玉藻に問われた乙矢達は思案していた。


「まだ帰らない。いつどこにいても危険があるのは変わらないんだから、それなら少しでも知識が欲しい」


 そう言った乙矢に玉藻は仕方ない奴じゃのうと言った。


「確かにそうじゃな。最初は知識を蓄えさせようと思っておったが仕方ない。付け焼き刃でも構わんから『力』の使い方を教えてやる」


 乙矢達は一瞬キョトンとして喜んだ。

 乙矢も不謹慎だとは思っているが、自分にも不思議な事が出来るようになるんだと、心の中でやる気を漲らせた。




 毎度同じく今回の吸血鬼についても独自解釈を多分に含んでおります。御了承ください。

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