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不器用な辺境伯一家に拾われた7歳の幼女。無自覚な精霊魔法で家族を癒やしたら、絶対に手放さないと溺愛されました  作者: 藤宮かすみ


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第3話「光あふれる部屋と双子の兄」

 大きな窓硝子の奥で朝日がきらきらとした雪原を照らす朝に、リリアは厚い寝巻きと毛布に包まれたまま両手のひらを自分のお腹の上で組み合わせて少しだけ上半身を持ち上げていた。

 目覚めるたびに指先からは失われていた温かな赤い色が戻ってきていることをうかがいしるほど、彼女の体のまわりをめぐる生命の循環というものはこれまではあり得ないほどに順調以上の熱量で回転を早めているようだった。

 重い体調は幾度かの夜明けを迎えることでずいぶんと整い、いまでは首を起こして部屋の空気の中に揺れる暖炉の炎以外の新しい光を楽しむ余裕すら出始めており、彼女は自分の命の行方が良い方角を向いているのだと体の奥から安堵していた。

 分厚い扉が音のないままひょいっとすこし開けられて、外の廊下に広がっていた大勢の声が一気に遮断され二つの小さな靴の音が床の絨毯の深い毛を上へとはわせるように歩き入ってくる。


「おっ、起きてる」


「兄上、そんな大声を出しては。まだ寝込んでおいでなのですよ」


 背の高さまでまったく揃っている十歳前後の同い年に見える二人組が、小さな頭を振り立てあいながら興味津々の様子でリリアの入ったベッドの両脇に向かい合ってそれぞれ足と指先をおろした。

 木漏れ日のような明るい金色の髪の少年・ルカは満々たる好奇の視線を大きく開いて太陽のような白い歯を見せたあと、ベッドの端へ乱暴にならない限界でのぞき込んでリリアの小さな手首へ自らの手でゆっくり触れるかのように上空をなでまわしている。

 その反対側に静かに足をそろえて立った銀色の髪を耳にかける少年・レオは、不器用そうに視線を少し斜めへと落としながらどこか気まずげにして口をしっかりと固く合わせ横に引いていたが、耳元まできちんと赤い熱を持たせ妹に近い存在への隠し切れないほどの好感の色がありありとしていた。


「もうちょっとこっちへ寄るか? 背中をなでてやるよ」


 ルカのほうはさらに大きく体をのり出すと、手の甲を毛布の上に預けてから引きつりがちなリリアの頬へと指の背面からゆっくりとその体温を確認するような形で優しさを乗せてくる。

 周囲の敵意を、いつも顔色で察してきたリリア。

 だが、少年の屈託のない笑顔に見つめられ、身の奥を走ろうとしていた恐怖の糸がふっと緩んでいく。

 肌越しに伝わる小さな手のやさしさは、無邪気な愛情として彼女の心を溶かしていった。

 少し怯えた眼差しを一瞬だけ横へそらしたものの、リリアは小さく唇をほころばせ、ささやかな笑みを浮かべた。


 こくりと細い喉の奥を鳴らして呼吸を少し深く吸いもどすと同時に、彼女の全身からそれに応えるようなやんわりとした安心感が寝室内の空気へ広がり、まるでそれが彼女の魔力のようなきっかけになったかのように不思議で美しい変化がもたらされ始める。

 空間のいたるところで空気が膨張したような音が鳴る。

 ちかちかとした極小の銀色や緑色の粒子が、寝室の天井付近から発生した。

 それはルカやレオの髪につもり落ちるほどの、凄まじい数であった。

 精霊という超常の友との対話はリリアの長きにわたる唯一の寂しさの空きを埋める空耳のごときものであるとかつて思い込まされていたのだが、その光はあまたの数を集めて一つの大きな光の風になりベッドの中心から兄二人を柔らかく包み込んでみせた。

 無重力の羽毛のようにまとわってゆれる精霊たちの命は、リリアが持つ見失いがちであった喜びの表現の具現化そのものでもあり、兄たちになんの敵意もないことを知ると遊ぶようにして兄弟のまつ毛の際に小さな光の花を見事なばかりの色を残して散りさかせる。


 ちょうどそのとき、静かな廊下から足音をしらせながらドアからのぞき顔をいれた辺境伯ヴォルフガングと優しさに満ちた妻のエレノアは、部屋一面に弾けて生長をとげている美しい命たちの祝杯の光景を目にして完全に歩みを止めた。

 巨大な体を壁ぎわへそっと預けたまま片方の手首で唇を押さえた男は息をのむよりほかなく、婦人のほうも両手を胸の中央で丸めて深く長い静かな呼吸を押し出していた。


 ルカは顔の上に降り注ぐその小さなぬくもりを嫌がりもせず、指をつき出してはそれらに触れようと目をきらきらと細めてベッドの横で楽しげに踊るようにはしゃいでいる。

 レオは舞い落ちていく手元を見つめながら口をゆっくりと丸の形にも変形させて魔法の発生の奥深い機微にただ言葉を知らず見惚れるしかなかったらしい。

 冷たい指示も、理不尽な暴力に怯える必要もない。

 そのあたたかさを知ったリリアは、こわばっていた上半身からふっと力を抜いた。

 今まで自らを縛っていた厚い鉄の枷が、音を立てて崩れ去っていくのを感じていた。

 あふれんばかりの精霊たちが、新しい家族への挨拶を終える。

 その頃には、彼女は生まれてはじめて心というものに確かな形が定まるのを感じていた。

 ゆっくりと開かれていく暖かな芽吹きの色に、リリアは満ち溢れていくのだった。

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