1.ある日、使役界にて
お読みいただきありがとうございます。
第2章までの幕間、全4話です。
このスピンオフの続きとなる第2章は既に書き終えており、全61話あります。
しかし、本編の方で第9章が終われば第10章にして過去編『天地狂乱事件』に入り、『神様に嫌われた神官〜』と『すっぽんじゃなくて〜』の両視点を一日ごとに同時連載していきます。今までスピンオフを投稿していた日に、『すっぽんじゃなくて〜』を投稿する形です。
10章開始のタイミングを両作品で合わせたいので、このスピンオフ投稿は一時休止し、第10章終了後に再開したいと思います。年明け頃の再開になります。
申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
◆◆◆
『あ、あのぅ先代様……また使役界の大気が振動したのですが、大丈夫でしょうか?』
『今んとこは問題ねーよ。こないだ境界がぶっ壊れかかった時、世界自体がグワングワン揺れたろ。その余波だ』
恐る恐る尋ねた使役に、アーディエンスは心配すんなとばかりに頷いた。
ここは天界の裏側。使役界の中を縦横無尽に走るメイン道の一つだ。
広々とした通りを颯爽と歩くアーディエンスたちの邪魔にならぬよう、集まった使役たちは左右に分かれて進路を開けている。皆が頭を下げる中、唯一顔を上げていた青年の精霊が何か言いたそうに口をモゴモゴさせていた。それに気付いたアーディエンスが声をかけて直答を許可し、大気鳴動の話になったのはつい今しがただ。
『空間が何度も揺らめくので怖いのです。また前のように使役界自体が傾ぐのではないかと思うと……』
続けて弱腰な台詞を発したのは、別の使役。珊瑚コーラル色の髪に、暗みがかったラズベリー色の双眸。10代半ば頃の少女の姿をした精霊だ。不安げに俯くと、ふんわりカールしたミディアムヘアが、丸みのある白い頬にかかる。少女の不穏な言葉に、他の使役たちも顔を硬くした。
『あんま心配しすぎんなって。不安定な状態がずっと続くようなら、俺らの方でも何とかできねーか考えてみる。ちょっと様子見してりゃこのまま止まるかもしんねーし』
『はい……』
『収まってくれれば良いのですが……』
小さな声で返事をした少女に被せるように、最初に直答した青年の使役も、懸念が色濃く残る顔で言った。どんよりと暗くなった雰囲気を払拭するように、アーディエンスは青年の使役に向き直ると、軽やかな声で話題を変える。
『それよりお前、今度の上級会議で使う資料の作成担当になったんだろ。準備ちゃんとしてんだろーな? 出来の悪いモン出したら、第二大精霊と補佐たちに小言食らうから気を付けろよ』
青年がうっと詰まる。にわかに緊張を帯びた目が左右に泳いだ。
『や、やっぱり不十分な物であれば注意されますよね。先代様、一度見ていただけますか?』
『はぁ? 何で俺がフライングチェックしなきゃなんねーんだよ。お前はまとめる力が高いんだからちゃんとやってりゃ大丈夫だ、だいじょーぶ。多分だけどな』
『わ、私が手入れした霊具も確認していただけませんか?』
『僕も次の儀式の次第を作っていて――』
『俺はもう、そーゆーのできねーの! 神成したんだからな。お前らも分かってんだろ。今日来たのは父さ……ウォーロック様とアルシオ様の様子確認のためだよ』
ぞんざいに手を払い、ムリムリと首を振るアーディエンスに、使役たちがしゅんと項垂れた。
『お前らは皆よくやってる。大精霊たちの要望を満たす能力もある。そこまでブルうことねーよ』
《コイツら、空間がグラつくのが怖いから俺らの側にいたいんだ。だから資料確認だの何だの理由を付けて引き留めようとしてやがる。最初にその話題を出して水を向けちまった俺も迂闊だったが……しゃーねー奴らだなぁ》
《やむを得ないことかと。使役界が消滅の危機に瀕した日から、そう経っておりません。小さな乱れにも過敏になるのでしょう。神成した私たちは天が潰れても不都合はありませんが、彼らは使役界と運命を共にする立場なのですから》
隣に立つアーディエンスからこっそり念話を受けたシルファールは、冷静にそう返した。その手は、我関せずで先に進もうとするラーグの神衣の袖を引っ張って留めている。
そもそもの話、この場に使役たちがわんさか集まって来たのは、彼を一目見たいからだ。原初の精霊であり一番最初の使役であり初代の大精霊であり、使役界では伝説中の伝説と化している彼を。ラーグ様がいらしてる、という声が呼び水になり、次々に駆け付けて来たかつての同輩たちを、肝心の彼は一瞥もしようとしない。
ありがとうございました。




