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スピンオフ置き場  作者: 土広 真丘
第1章
64/73

55.即答

お読みいただきありがとうございます。

『守る』


 いっそ引くくらいの豪速球で応の返事が寄越された。


『当然だ。守るに決まっているだろう。これほど小さくなったお前たちを放っておけるはずがない』


 そう告げるラーグは、アルシオたちの外見ではなく、状態そのものを視ている。神性を抑えたことで、完全な神の基準では絶対的なまでに儚くか弱くなった姿を。ほんの少し力加減を誤れば、容易く踏み潰してしまうほど小さい。


『神格を押し込めたとなれば、お前たちが現状で使えるのは聖威になる。それでは大精霊と副大精霊にも及ぶかどうか。……顔をお上げ』


 思いのほか優しい声が降って来たので、アルシオは面を上げた。自身より深いアメジストの眼差しが、苦笑を孕んで見下ろしている。弟たちに立つよう促し、ラーグは肩を竦めた。


『だから彼らを選んだのだな。ボルネッタにダイオン、レライラ、ローベルト、フェリシェス、あまつさえバルロッサとは。もっと穏健で、かつ実力も引けを取らない者たちもいるのに、何故だろうと思っていた』


 アルシオが臨時の復帰令を出した隠居者たち。彼らはそろいもそろって気が強い。性格的な意味の他に、気配という意味でもだ。とにかく纏う気が刺々しい。かつての嵐神(らんしん)にも匹敵するほどに。当事者たちもその自覚があるので、下位の使役の前では意識して穏やかな態度を取っている。アルシオとウォーロックに対しても丁重に接するはずだ。


 ……だが、ひとたび剣呑な雰囲気になれば、それはもう獰猛な気迫を垂れ流す。近くに非力な一般使役がいれば堪えるだろうが、神格を抑えていても神であるアルシオたちの前では自制も緩むはずだ。必然、アルシオたちは裂帛の気を受けやすい環境に身を置くことになる。そんな状況をラーグが見過ごすはずがない。


『分かった。支える。守る。使役界ではなくお前たちを。お前たちの意向に沿うように。お前たちの家族神である私ならば、関与しやすいからな』


 兄弟神は〝特別〟だ。アルシオとウォーロックが使役界にいる時も関われる。同じ理由で、シルファールとミスティーナ、アーディエンスとイルーナも父あるいは夫を手助けするはずだ。


『お前たちの思いに反しないよう手を貸していれば、間接的に使役界の改善に助力することになる』


 それが狙いなのだろうと、ラーグが困ったように眦を下げた。まるで幼い駄々っ子を見るような目だ。特に苦痛を感じているような様子はなく、アルシオはホッとした。そして、半ば居直って首肯する。


『はい。使役界のことを誰より知るあなたの力をお借りしたいのです』


 シルファールやアーディエンスもいるとはいえ、原初の精霊たるラーグの見識と経験は別格だ。彼の助言と指導を得られれば、使役界は持ち直せるかもしれない、だが、ラーグはもう使役界への愛着と関心を失った。だからこそ、アルシオとウォーロックを経由して助力を請うことにしたのだ。


『お前たちがそれを望むなら』


 果たして、ラーグはあっさりと受諾してくれた。呆気ないほど簡単に成功したことに、アルシオが僅かに肩の力を抜いた時。


『あ、あ、あのっ!』


 裏返った声が割って入る。展開に付いて行けずに固まっていたフィーラスだ。


『先程から気になっていたのですが、先達様ってアルシオ様とウォーロック様のお兄様だったのですか?』


 アルシオたちが、ラーグに対して何度か兄と呼びかけていたので、気になっていたようだ。加えて、アルシオとウォーロックのどちらにも通ずる容姿と合わせれば、パニック状態でも答えは導ける。


『あぁうん、実はそうだったんだ。この方は僕たちの兄だよ』


 超アバウトに結論だけ述べるウォーロック。だがフィーラスはそこを掘り下げる気はなかったらしく、『そうだったんですかぁ〜』と言って話題を変えた。


『そ、それで、アルシオ様とウォーロック様がまた使役界に戻って来て下さるんですか?』

『そうじゃないよ。私たちの所属は変わらず神側だからね。神性を抑えても、神である以上は最低限の関与しかできないし』


 勘違いしてはいけないと釘を刺す弟に、アルシオも同調した。


『言ってみれば、地上と人に肩入れする聖威師のようなものだ。使役界で取れる言動や使える力には、膨大な制約が課せられる。原則、使役のことは使役がやらなければならない。あまり私たちを頼り過ぎれば、擬精霊でいることは許されなくなる』

『それでも今までよりは助けて下さるんですよね!?』


 興奮気味に言った大精霊の顔が明るくなっている。まるで一度喰い付いたら離さないピラニアのようだ。どうやらこちらが本題だったらしい。


『良かったぁ……! アルシオ様がいれば、ボルネッタ様たちも遠慮して大人しくしていますよね。私、あの方々怖いから苦手なんです。あ、バルロッサ様のしごきがキツい時は、ウォーロック様に相談させて下さい!』


 もう開き直ったのか、あからさまにアルシオとウォーロックを盾にしようとしている。現状で堂々とそれができるとは、いっそ感心する図太さだ。

ありがとうございました。

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