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スピンオフ置き場  作者: 土広 真丘
第1章
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54.弟たちは擬精霊となる

お読みいただきありがとうございます。

『原則は認められない申し出ですが、今回は私たちの故郷が深刻な危機に瀕しているため、どうにか助けたいと懇請しました。聖威師という先例があったことも幸いしたのでしょう、条件付き及び期間限定で超特例による承認が降りました』


 アルシオは表向きの理由と経緯をしゃあしゃあと述べた。むろん建前だ。神成した以上、通常であれば使役界にはそれほど関われない。神から独立した地上とはまた違う形ではあるが、使役界も使役界で自治を有するという扱いになっているからだ。

 それを限定的とはいえ覆してもらえたのは、ウォーロックの交渉あってのことだ。



 ――僕とアルシオ兄さんが呼んだから、ラーグ兄さんを含む先達方が神として復活して、彼らを本当の身内にしたいと求めていたあなた方のお望み通りになったのですよね? すっごく嬉しいですよね? もう踊り上がるくらい嬉しいですよね? だったら彼らを蘇らせた僕とアルシオ兄さんにご褒美を下さい


 ――それからあなた方、僕に一切何も言わず神成させましたよね。本当に何の連絡も確認もないまま全てが完了していて、完全に不意打ちだった僕はそのまま使役界に関われなくなり、負の念を集める霊具のことも込みで全てを放り出して来てしまいました。ちょうど全部の仕事がひと段落したタイミングだったので不都合はなかったとはいえ、今後の改善事項も考えていた身としては些か消化不良な思いを抱えていたのです


 ――だから期間限定で、条件付きで良いのです。ご褒美として、僕とアルシオ兄さんをもう一度使役界に関わらせて下さい。元人間の神も聖威師の状態で故郷のために力を尽くして来たじゃないですか。あなた方もそれを許容して来たじゃないですか。聖威師は後300年ほどで終了となり、以降は即時昇天になりますが、今はまだいますよね。だったら、僕とアルシオ兄さんにも聖威師と同じことをさせて下さい



 ……とまあ、そのような感じのことをツラツラと申し立てたのだ。もちろん実際はもっと丁寧に、謙虚に、婉曲な言い方をしていたが、趣旨を要約するとこうなる。


 最初こそ、最高神を含む神々は大慌てだった。『えー!? えー!? やだやだ、そんなの寂しい! 私たちの側にいて!!』という感じで大反対していたが、ウォーロックが切々と哀願すると、どうにか納得してくれた。

 アルシオとウォーロックがラーグたちを呼び戻してくれたことは事実なので、確かに礼としてお願いの一つくらい聞いてやるべきかもしれない。また、使役界は地上とは違い、天界の表の領域と直に繋がっており、いつでも双方を行き来できる。天地に分かれる神々と聖威師のように、違う次元に引き離されるわけではない。

 他にも理由や思惑は多々あるだろうが、そういった要素も重なったのだろう。渋々承諾をくれた。お前たちの思いのまま、望みのまま、やりたいようにやってごらん、という激励付きで。


『擬似精霊の状態を維持する上限年数は5年。期限の5年を満了した時点で強制的に神に戻ります。その前であっても、私たちの一存でいつでも自由に神性を解放して神に還ることが可能です』


 上限の5年を迎えておらずとも、擬精霊となった目的が全て達成されたと判断するか、未達成であってももう神に戻りたい、あるいは使役界への干渉をやめたいなどとと思えば、随時神格を出して神に戻れる。これは聖威師と同じだ。その権利はいつ何時でも必ず保証される。

 なお、上限年数の延長や、アルシオたち以外の元使役が追加で擬似精霊になることは認められない。時間操作など何らかの手段を用いて、期限をごまかすこともできない。そういう行為をした瞬間、否応なく神格を露出させられ、擬似精霊ではいられなくなる。そこまで許せば際限がなくなるからであり、この点も聖威師と同様だ。


 そういった情報を端的に説明し、アルシオはさらに言葉を継いだ。


『擬似精霊でいる間は、天界の表裏を――神々の領域と使役界を交互に行き来することになります』


 最高神を始めとする神々にきちんと顔を見せるように、というのが、数多付けられた条件の一つなのだ。アルシオとウォーロックが無理をしている、苦しい状況にあると神々が判断すれば、その時点で擬似精霊を止めさせられる。


『また、私たちが使役界にいる間も、私たちの〝特別〟である神は通常の神より関われるとのことです』


 サラリと付け足したこの重要事項もまた、聖威師と同じだ。神は原則地上に関与しないが、自身の〝特別〟のためならば、比較的柔軟な降臨や滞在、干渉が認められている。そして〝特別〟に該当するのは、愛し子や宝玉、伴侶、それに――兄弟を含む家族。


 常に悠然としていた深紫の双眸が、大きく見開かれている。初めて驚愕と動揺を露わにしたラーグを見つめ、アルシオは神性を抑えに抑え、自身の最奥へと押し込めた。同じタイミングで、ウォーロックも同様の行為を実施する。身振りでの合図も、念話での号令も、視線でのタイミング合わせも必要ない。

 天樹から滴った雫が弾けて生まれた双子。元々一つだった存在に相応しく、何を言わずとも動きがそろった。そのまま、久遠の彼方に同じ天樹より出でた存在の前に拝礼して頭を垂れる。神格を抑えた今、天の神である彼は自分たちが膝を折る対象だからだ。


 体が重い。まるで全身が鉛になったかのようだ。精霊の身はこれほど重苦しいものだっただろうか。いや、そんなはずはない。もしや、一度完全な神になってから神格を抑えると、何かが変わるのだろうか。驚きと共にそんなことを思いつつ、アルシオは弟と共に声を合わせた。


『『ラーグ様――我らの大兄(たいけい)。どうか私たちをお守り下さい』』

ありがとうございました。

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