52.発露した本音は
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『こ、ここから挽回できるでしょうか。使役界全体を危機に晒してしまったのに……』
『知らねーよ、お前次第だろ』
おずおずと尋ねるフィーラスに、すっぱり言ったのはアーディエンスだ。
『真摯な姿勢を見せることで、上級使役やボルネッタたち、使役全体の心象が良くなってりゃ、箔付けの神格持ちとして不適格とまでは判定されねーかもしれねえ』
そうなれば、大精霊からは降ろされたとしても、箔付けの神性をキープできる別のポジションへの異動で済むかもしれなかった。それはフィーラス自身も望む結末だろう。何せ、本来はイバリスに投票し、自分は副大精霊に留まるつもりだったのだから。
『俺ら神側の方でも、手柄を上げられそうな仕事があればお前に回してやるよ。お前の回復状況とか状態を見ながらだが……お前は素地や地力自体はちゃんとあるんだからな』
『アーディエンス様ぁぁ』
可愛らしい容貌がくしゃりと歪む。大きな双眸からキラキラと零れ落ちる、真珠のような涙滴。
『どうして、どうして神成しちゃったんですか。頼りにしてたのに。あなたの下にいれば楽だったのに。優秀で統率力と責任感があって、仕事もさっさかやってくれて、何だかんだで世話焼きで部下に負担をかけない……そんなあなたの下で責任軽く仕事しながら、副大精霊の権限を振るう状態が最高だったのに、どうして……』
俯いて伏せられた顔から嘆きが漏れる。思わず溢れてしまったというような独白。
『――イーネストの息子が神成なんてできるはずないから、ずっと使役側にいると思ってたのに』
『…………!』
アーディエンスが目を見開いた。ウォーロックとイルーナが困惑顔を浮かべ、ミスティーナとシルファールが面差しを変える。アルシオもまた、己の眉がはね上がったことを自覚していた。
『お、本心が出たのぅ。今のは紛う方なき本音じゃろ。悪神の茶で精神が歪められ、心にもないことを言ってしまったわけではない。お前の性根はそういう奴だと分かっておったぞ、泣き虫腹黒ドジっ娘』
『アーディエンスには神成など無理だと、すっかり油断しておったわけじゃ。自分が現役の間はずっとしがみ付き、後ろに隠れているつもりだったのだろう』
『何かあった時に助けてくれ、かつ責任を取ってくれる有能な者が近くにいれば、安心して実力を発揮できるタイプだからな』
『だが、いざ自分が責任者に就けば、尻込みして脆くなる。やはり追い込まれると本音が出るものだ。いや、茶の効果で普段は隠している黒い本音が出やすくなっておるのかな』
小川のせせらぎのように流れる、先達たちの会話。永きに渡って使役たちを観察し、その根っこまで知り尽くして来た彼らの言葉には、不思議な信憑性があった。聞いていたアーディエンスが、不意に愕然としたようにラーグを見た。
『……体良く利用……賢しい依存、ってまさか――』
ラーグはシレッとした顔で宙を見ており、何も応えない。アーディエンスが何を言っているのかは分からないが、今はフィーラスへの対応が先だ。アルシオは口を開いた。唇を割って飛び出したのは、自身が思っていたよりずっと低い声だった。
『追加の神命を下す。此度の経緯を踏まえ、フィーラスの臨時指導役として元大精霊バルロッサを付ける。合同会議まで前述の任務に邁進しつつ、その甘ったれた根性を叩き直してもらえ』
『ひいいい!?』
フィーラスの顔面から色が抜け落ちた。元大精霊バルロッサ。歴代でも屈指に厳格であったと恐れられる、指導の鬼だ。その手腕は調教神オーアにも匹敵すると言われている。
『その他者頼りの姿勢を改善しなければ、合同会議で弾かれる。十中八九、神格持ちとして不適格だと見なされる。神性を喪失したいのか?』
『い、いやです!』
『ならばバルロッサの指南を請え。中途半端な者を付けては、お前はきっと甘えてしまう。かといって、長く時間をかけてじっくり姿勢を変えていく余裕はない。副大精霊たちの療養はそこまで長期にはならないだろう。短期で改善するならばバルロッサしかいない。あるいは全てを諦め、楽だが神格を喪う可能性が高い道を進むかだ』
広くは神族に含まれる大精霊は、神々から準身内として目をかけられる。ゆえに、相当の不興を買わない限りは見限られない。しかし、同じく広義の同胞である副大精霊や元大精霊、元副大精霊たちも含めた上級使役たちが、総意として罷免を決めれば、それを無下にはしないだろう。おそらく、合同会議で切られれば終わりだ。
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