51.失態も成果も大精霊として立てろ
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『へ……?』
『大精霊の複体配置か。前例がないわけではないな』
言われたことがすぐには飲み込めないのか、フリーズするフィーラス。対して、抑揚のない声で呟くラーグに驚きは見られない。
『また、元副大精霊ダイオン、レライラ、ローベルト、フェリシェスも同様に暫定復帰させ、第二大精霊の補佐に付ける』
ボルネッタは過去に引退した元大精霊で、箔付けの神格を賜ったまま一線を退いた使役だ。神成に至らず、そうなる者の方が圧倒的に多い。ダイオン以下4名も同様だが、こちらは元副大精霊だ。
彼らは現役ではないため、フィーラスから茶を供されていない。正確には以前に少しずつ茶葉が贈られたのだが、それは初めて下賜されてからすぐのこと――まだアーディエンスが大精霊だった頃の話だ。つまり、届けられたのはきちんと下処理がなされた物だったため、悪い影響を受けていない。
『第一大精霊は自身の回復に努めつつ、副大精霊並びに現役の上級使役の容態把握及び治療を行え。それが完了するまで、使役業務の遂行及び使役界の運営は、第二大精霊及び補佐役4名が主となって行うものとする』
喫緊に行うことはミーシャの捕縛と使役たちへの事の次第の説明、上級使役たちの療養。さらに、茶葉を干して正しい下処理をし、上級使役に毎日摂取させて少しでも早く悪影響を消していく。
また、神々付きの使役になった際にいただいた神器などがあれば、それらを用いた回復もかける。自動的な振り分けではなく、神ないしその代理が見出した使役には、期待の証として神器が下賜されることが多い。
ただし、悪神の飲食物を取り込み続けたことで精神の奥まで侵食が進んでいるため、神器を使ったとしても即座の完治は期待できない。正規の神自身が手ずから治癒するならば別だが、そうではない以上、治癒には一定期間かかると見ておいた方が良い。
アルシオは、そういったことを細々と伝えた。パニックモード全開中の今のフィーラスには、具体的に何をどうするかの指示を出しておかなければ不安だからだ。ラーグはボルネッタたちの名が出た瞬間、僅かに眉を上げたものの、口を挟むことなく見守ってくれている。
『また、第一大精霊は前述の行為と並行して第二大精霊らと連携し、引き続き使役界の統治に励め。さらに、第二大精霊らと共にミーシャ並びに神器調整担当者の処分を検討し、各々の事情を踏まえた上で適切な措置を行え。副大精霊たちが回復するまでは万事の言動において第二大精霊らの助言を受け、独断での行動や決定は慎むように』
焦るあまり勝手に暴走するな、と釘を刺しておく。
『これは臨時の措置であり、現職者が全快次第、従来の役職体制に戻ることとする。ただし、その前に第二大精霊らと副大精霊たちによる合同会議を開き、一連の事後対応も踏まえた上でのフィーラスの処遇を検討するものとする』
『あの、それって……』
『不調にさせてしまった上級精霊たちの回復に貢献して、必死に使役界のために働いて、ミーシャの処罰もきちんとして、少しでもマイナスを取り返しなさいということだよ。大精霊としてやらかした失態は大精霊として軽減しなさい』
ウォーロックが要約して説明してくれた。涙でぐしょぐしょに濡れた桃色の双眸が、優しいトパーズを見る。
『ウォーロック様……』
『だからこの場で君の大精霊の任を解かず、ボルネッタと並べての複体配置にしたんだ。君が大精霊のまま成果を出せるように』
本当は大精霊選をやり直すべきだ。フィーラスがセルフ投票してしまった直近の選挙においても茶の影響があったことが明らかになった今ならば、あの時は無効にできなかった彼女の投票を、遡及で取り消し扱いにすることも可能かもしれない。
だがそうしてしまえば、フィーラスが汚名返上する機会がなくなってしまう。それどころか、大精霊としても駄目、選挙時点の副大精霊としても駄目という点が浮き彫りになってしまい、本当に箔付けの神性を喪う恐れが高まってしまうのだ。
それを回避するためにも、当面はどうにか大精霊のポジションに居座ったままで成果を重ね、それらのプラスを引っさげて合同会議に臨み、大精霊の再選も含む温情判定を期待するしかない。
また、多方面において大きな落ち度はあったものの、フィーラスもまたミーシャに利用され、茶により平常な心身を損なわされた被害者でもある。その事実を上手く活用して立ち回れれば、イバリアやボルネッタたちの態度も多少は軟化するかもしれなかった。
そういったことを、ウォーロックは丁寧に説明した。
ありがとうございました。




