49.秘密の提案①
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『……何か僕まで胃が痛くなって来た。おかしいな、神なのに……。というか大丈夫かな、これからの使役界。すんごい濃度の念が大量に集まって来てる。世界が崩壊しかけたから、皆のパニックが酷いんだ。本当にブースト付けないと不味いよ』
自身の手にある霊具がせっせと負の念を吸い込む様を眺めていたウォーロックが、そっと鳩尾を抑えた。
『私も先程から頭痛がしている。本当に頭が痛んでいるわけではなく、精神面でそう感じているのだろう。何しろ場を収めるべき大精霊はこの有様、副大精霊を始めとする上級使役は大半が心身不調だ。これから誰がどうやって使役界を仕切るのだろう』
額に手を当てたアルシオが同調すると、使役界の方を見ていたラーグが超高速で反応し、弟たちへと顔を向け直した。
『お前たちも調子が悪いのか。ならば神域に戻って休め。私が付いていてやる』
『何言ってるんですかラーグ兄さん、今ほっぽり出して抜けたら余計に悪化しますよ!』
『兄上は使役たちの今後が心配にならないのですか。伝説の大先達であるあなたがただ一言、心配無用と断言して下されば皆は落ち着くはずです』
『私はもう使役ではない。そんなことをしてやる理由も義理もない。使役界にもはや愛着はない。神成した今後は心の赴くまま、お前たちを慈しむことに専念する。今後の使役界で問題が起こったならば、それは現職の使役たちが対処していくことだ』
迷いなく述べられた即答に、アルシオは黙り込んだ。以前はどんな手段を講じてでも、大切な弟たちを使ってでも守って来た世界なのに。今のラーグの姿を、かつてのラグドールが見たらどう思うだろうか。
そう考え、怒ったり嘆いたりはしないだろうと感じた。自分がついに使役界の軛から解放されたことを喜ぶのではないだろうか。だって彼はあんなに疲れていたから。
かくいうアルシオの心も同じように思っている。散々利用された過去の自分たちは何だったのかと恨みを抱くこともない。ただ、永く使役界に捕らわれていた兄が自由になって良かったと感じるだけだ。表情を見る限り、ウォーロックやシルファール、ミスティーナも同様のようだった。
『そうですか、分かりました。でも僕たちはまだ戻りません』
『休むことを強制はしない。お前たちも自身のやりたいようにすれば良い。ただし無理はしないようにしなさい』
『はい』
《先達様方、アルシオ兄さん、シルファール、アーディエンス、ちょっと良いですか? ミスティーナとイルーナも。あ、できるだけ反応しないで下さい。ラーグ兄さんには内緒の念話網なんです》
《どうしたウォーロック》
長兄と話したウォーロックが、こっそり念話して来たのはその時だった。アルシオは務めて無表情を保って返す。イルーナは少し肩を跳ねさせてしまったが、幸いラーグはこちらを見ているので気付いた様子はなかった。んん? という顔をしかかった先達たちも、ひとまず顔には出さないでくれている。
《僕ちょっと考えたんですけど。実は――》
《…………》
弟の話、というか提案を聴き終わったアルシオは、しばし絶句した後で嘆息した。そんな方法、どうやったら出て来るのだろうか。
《ウォーロックはやはり発想が柔軟じゃのう》
《ようそんなこと思い付くわい》
先達たちが苦笑している。シルファールたちは無言だ。おそらくアルシオと同じく呆気に取られているのだろう。
《先達様にも聞いていただいたのは、これがラーグ兄さんに対する脅迫や強制にならないか不安だからです》
ウォーロックは静かに告げた。柔らかだが強靭な意志を宿す声で。
《せっかく自由になったのに、僕たちを盾にしてまた使役の世界に関わらせる。それがラーグ兄さんにとって苦痛になるなら、今お話しした方法はやめます。永年働き続けて疲弊し切って、ようやく解放された兄さんに、またしんどい思いをして欲しくないですから。どうでしょうか?》
《大丈夫、大丈夫!》
《問題ないぞ》
返事は光のように早かった。尋ねたウォーロックでさえ反応が追いつかないほどに。
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