46.慕わしい者でも疑え
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『で、イバリアとか他の上級精霊にも狙いを定めた。会議の時とかに茶を出すよう指示されたから、これ幸いと時間短縮した物を出して不調を引き起こさせた。もちろん神々が不審に思わねー程度にだ。そんで、本来のパフォーマンスが発揮できねー奴らを自分がカバーする』
おそらく、こちらも最初から冒険はせず、徐々に時間調整を行なっていたのではないか。もしかしたら、動物などを使って効果を実験していた可能性もある。そう続けたアーディエンスが辟易した吐息を漏らす。アルシオの胸にも不快な気持ちがわだかまる。他者を落として自分を上げる、陰険な策だと。
『けどその途中で、お前に処理時間が短いことに気付かれた。だから、専門知識があれば一日干しでも大丈夫だって誤魔化したんだよ。他の奴らには言うなって口止めした上で。他の奴らは摂取量がお前より少ない分、短縮時間もちょっと多めにしてたのかもな。だから慢性的に自覚症状が出てたんだ』
『か、会議では私も同じお茶を飲んでましたが、その日だけ大きく不調が出ることはなかったですよ……』
『お前の茶葉だけ別に用意しといて、他の上級使役の茶とは分けてたのかもな。補佐役だしミーシャが茶を出してたんだろ』
会議でのお茶出しは、あらかじめ茶を入れたカップをカートにセットして持っていく。カップには適温と品質を維持する霊具が取り付けられているので、事前に注いでも温度や風味、質が下がることはない。フィーラスに出すカップがどれか分かるようにしておけば、使う茶葉を分けることは可能だったはずだ。
『でも、ミーシャ様も補佐ではなく上級精霊として会議に参加したこともありました。その時のお茶出しは下級使役にさせていましたけど』
『だったらその日は無理せず通常の日数で干した茶を渡したか、他の方法を使うかしたんじゃねーか? 手段なんか幾らでもあんだろ。本来の二日干しした茶葉をちょびっと用意しといて、会議の日のお前の朝食に仕込むとか、朝の茶に混ぜるとか。そしたら正規の手順通りに発現した滋養強壮作用で、お前は不調をかなり中和できる』
ミーシャ自身の対策はもっと簡単だ。何しろ、彼女が茶葉を握っているのだから。あらかじめ規定通りに干した葉を適量用意しておき、会議の前後に摂取すれば、会議時の茶の副作用を打ち消せる。
『これは想像だが、会議の時に悪神の茶を出すのは最初の一杯だけにしようとか言われてたんじゃね?』
『え、何で分かるんですか!?』
『あー、やっぱそうなのか』
『はい……神から賜った茶葉は貴重だから、大事に使っていった方が良いと提案されまして。二杯目以降のお代わりは、普通の茶葉とかお茶以外の別の飲み物を出す形にしてました』
『それもミーシャの作戦の内だろうな。事前に準備できる最初の一杯はともかく、二杯目以降となるといつどのタイミングで誰が所望するかコントロールし切れねーから、悪神の茶は最初だけにしたんだ』
話が弾んだり会議が長引いたりして、何回もお代わりする参加者が出れば、その者だけ摂取量が多くなり不調も強く出てしまう。それを防ぐため、悪神からの茶葉を使うのは一律で初めの一杯だけにそろえたのだ。神の下賜品が貴重なことは事実であるし、マンネリ化防止で二杯目以降を違う飲み物にすることも珍しくないので、誰も気にしない。
すげなく言い切ったアーディエンスが、ふと痛みを堪えるような表情になった。
『……ミーシャを信じたいのも庇いたいのも分かる。お前にとって大切な存在なんだろ。だが今はこの状況なんだ、腹をくくって疑え。その前提でちゃんと考えろ』
きっと彼は分かっている。フィーラスにミーシャを疑えということは、アーディエンスにウォーロックを疑えということに通ずるのだと。それがどれだけ困難で辛いことかも、我が事のように感じ取れるはずだ。
『お前、神器のメンテナンス担当にも茶を出したつってたろ。それはミーシャに伝えてたか? ミーシャが茶を用意したのか?』
『……いいえ、何も言っていませんでした。ミーシャ様はメンテナンスが終わるのを見届けて席を外していましたし、あの時は労いの意味も込めて私が自分で淹れて出しました』
『ならどうやって茶を用意したんだ。茶葉はミーシャが管理してるんだろ?』
『元々私が飲みたくて所望していた茶葉を使いました。好きな時間に淹れて飲めるように、干し終わった状態の物を少しだけ渡してもらっていたんです。ミーシャ様がいなくなった後でそれを思い出して、ちょうど良いと思って使うことにしました』
『お前用の茶葉なら短縮時間は緩めにしてあるから、そんなに大きな症状は出ないと思うんだが。メンテ担当は中級の使役だったな。初めての摂取だから反応が大きく出たのか、茶の効果を受け付けやすい体質だったのか、霊威が弱い分耐性も低くて効果が強く出たのか……?』
『そ、そういえばお茶を淹れる時に茶葉の分量を間違えました。半量を使う予定が、うっかり手が滑って全部茶器に入れちゃって。これじゃ濃くなるって焦ってたら、メンテナンス担当の子が恐縮しちゃって、そのままで大丈夫ですって言って飲んでました』
『それじゃねーか!』
並の使役にとっては雲の上の存在である大精霊が手ずから淹れてくれた、神からの下賜品だ。ケチを付けるなどという選択肢はなく、茶葉が多くなろうが濃くなろうが有り難くいただいただろう。
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