44.全部お任せしてました
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『……はぁ?』
アーディエンスが地を這うような声を絞り出した。ひぇっと肩を竦めたフィーラスが弁明する。
『いや、その、干す日数を短縮するには特殊な技術と専門知識が必要なんだって言われたんです。迂闊に言い触らして、断片的な情報だけを聞いた他の使役が、通常でも一日干しで大丈夫だって勘違いしちゃったら困るから、外には漏らさないで欲しいと言われまして』
『――じゃあ、その短縮方法とやらの詳細を資料に残させて、後で検証できるように記録化したりはしてたか?』
『し、してないです〜、全部ミーシャ様にお任せ状態でした!』
『お前なぁぁ!』
『ひー!』
怒号を上げたアーディエンスに、フィーラスが頭を抱えて体を丸める。
『アーディエンス、落ち着いて。僕はミーシャがわざわざ干し時間変更のことをフィーラスに伝えた点も疑問だよ。自分が茶葉を管理しているのだから、何も言わずこっそり短縮して、フィーラスには黙っている方が安全なのに』
『さ、最初は私も知らなかったんですぅ。でもある時、明後日の会議でお茶を出したいから干しておいてと頼んで、翌日に急用ができてミーシャ様の所に行ったらちょうど茶葉を取り込んでたんですね。それで早すぎるんじゃないかと聞いてみたら、一日干しで十分だって言われまして……』
茶葉を干すタイミングは、茶として淹れる直前から三日前まででなければならない。それ以上の日が経つと、葉自体が壊死してしまうのだ。ゆえに、茶を淹れるであろう日を予測し、必要な分量や日数を逆算して都度の下処理をしなければならない。色々と制約が多いが、その分きちんと処理をした上で摂取すれば効果は絶大だ。
『最初は秘しておくつもりだったが、早期に取り込む場面を見られたので口止めしつつ適当な言い訳をして取り繕ったのか。大精霊選の日にも飲んだと言っていたな。その際の茶葉も、事前に干すよう指示しておいたのか?』
アルシオが問うと、フィーラスは若干緊張した顔付きになった。凍れる大精霊と呼ばれていたアルシオは、烈火と称されたアーディエンスとは別の意味で使役たちの畏怖の対象だった。
『はい……あ、いえ、正確には違いますね。本当は大精霊選の後に飲むつもりで、二日前から準備してもらってたんです。きっと気を張って疲れるだろうから、お茶を回復薬の代わりにしたいと伝えていました。でも、よく考えたら事前に飲んで元気をチャージしておいた方が良いのかなって思い直して、急遽投票前に淹れて飲みました』
『その場にミーシャはいたのか?』
『いいえ、あの時は用事で席を外していました。でも茶葉はもう干し終わった物を渡してもらっていましたから、自分で淹れて飲みました』
腕組みしたアーディエンスが、指先でトントンと二の腕を叩きながら唸る。
『時系列がこんがらがってややこしいが、段々分かって来たぞ。いったん整理した方が良いな。まず俺が神成して大精霊選が開かれることになり、候補者を吟味して事前投票を行い、お前とイバリアの決選投票になった。いよいよの時期が近付いたことでビビったお前は、ミーシャに補佐役を打診した』
仮にイバリアが大精霊になったとしても、彼は優秀だがアルシオのような統率力やアーディエンスのような火力はない。彼も彼で補佐役を置くかもしれないが、それでも副大精霊たるフィーラスの存在が重要性を増すだろう。それもあり、フィーラスは自分を支えてくれる者を欲していた。
『それがホーセルの神成と同時期だったんだな。今まで道端の雑草にも等しかった妹に抜かされ、存在自体を総スカンされたミーシャは、きっと内心は嫉妬で煮えくりかえる思いだったんじゃねーか』
神成した者が出た際、使役界に充満する祝福と賞賛、嫉妬と焦燥。吐き気を催すほどに濃厚なそれらには、アルシオもうんざりするほど覚えがあった。
きっと周囲の使役たちは、口々にホーセルを称賛した。中にはミーシャに近付き、ホーセルに口利きして自分にも神格をくれるよう頼んでくれと願う者たちもいただろう。掌を返してこっそりとミーシャの陰口を言う者もいたかもしれない。今まで歯牙にもかけなかった妹に完敗し、無視されている姉だと。
いずれにしても、生来の上級精霊として使役界では上位にいたミーシャにとって、堪え難い屈辱であったはずだ。
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