43.ミーシャとホーセル
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手柄となった一件はこうだ。鈴の神の兄である鐘神から贈られた愛玩用の小型霊獣が、世話係の使役の目を逃れて神苑の奥の森に入り込んでしまい、野良の霊獣に襲われた。
追いかけていた世話役たちは、凶暴な野良霊獣を前に立ち竦むばかりだった。だが、応援で駆け付けたホーセルは一体で果敢に立ち向かい、大怪我を負いながら愛玩獣を守り抜いた。
ちょうど兄神の神域へ赴いていた鈴神は、帰ってよりそのことを知った。愛する兄神からいただいた愛玩獣を大切にしていたこと、自身の過去視によりホーセルが身命を賭して主の飼い獣を死守する光景を視認したこと、ホーセルは数千年以上の時を真摯に自分に仕え続けていること、などを考慮し、褒賞として神性を下賜した。
『ミーシャ様の方は、変わらず上級精霊として多くの部下を統率しながら、使役界の上層部の一員としてご活躍されています』
『ここまで話したらピンと来ねーか? 姉妹の身位も序列も完全に逆転しただろ。もう同じ枠内に入れて比較することから間違ってるほどの、絶対的な差が開いちまった』
『え? あ……』
片や下位であってもれっきとした正規の神。片や上級とはいえ箔付けの神格すら得ていない一使役。主と臣、仕えられる者と仕える者。上位者の姉と底辺の妹であったはずの関係は、見事なまでに反転していた。
『ミーシャとホーセルの仲が悪かったって話は聞かねーが、逆に仲良しだった感じでもなさそうだ。精霊は家族でもドライな関係だったりするし、あんま交流が無かったんだろーな』
興味がなさそうに言ったアーディエンスが、チラとウォーロック、アルシオ、そしてラーグを見る。
『けど、家族をめちゃくちゃ大事にする精霊もいるから、そこは生まれた大元とか親の要素とか、当事者の性格とかも関係あるんだろ。少なくともミーシャとホーセルの間にそういう絆は無かったっぽいが』
使役にとって絶対的な存在になったホーセル。彼女は、今までの意趣返しとばかりにミーシャに対して高慢になる……ことはなく、だが逆に手を差し伸べて神格を与えることもなかった。ただ、ごく自然に姉を無視して神々の列に溶け込んでいった。
そんな妹の姿を、ミーシャはどう受け取っていたのだろうか。
『あの、今の話がどこに繋がるんですか?』
『はぁ? お前まだ分かんねーのかよ。自分も神成したかったんだよ、ミーシャは』
しょーがねーな、とばかりに答えを開示するアーディエンス。
『だけど天界の裏にある使役界を取りまとめる担当じゃ、表にいる神の目に留まりにくい。だから同じタイミングで舞い込んだお前からの打診を受けたんだ。補佐になれば、大精霊や副大精霊の名代で神々の御前に出る回数が増えるからな』
『そこで悪神の茶葉のことを知って、一計を案じたのではないかな』
続けて推測を述べたのはウォーロックだ。彼もかつてはアーディエンスの補佐だった。ただし彼の場合、自責の念から神々の前に出ることはほぼ無かったと聞いている。それはアーディエンスも承知の上で、ウォーロックを自身の代理にすることは稀だったそうだ。しかし、そういった事情がない限り、補佐役が名代をこなすことは多い。
『ミーシャは知識が豊富だから、悪神の飲食物が摂取者に与える影響や、症状に対する認識や違和感が歪められることを知っていてもおかしくない。それも込みで動いたのかもしれないよ』
『ですが、茶葉を干す時間を変えたことを、フィーラスが同輩に吹聴していたらどうするつもりだったのでしょうか』
疑問を挟んだのはシルファールだ。母譲りの夜空の瞳で、アーディエンスの後塵を拝した者を見据えている。
『イバリアを含む他の上級使役がその事実を知れば、本当に大丈夫なのかと疑問を抱かれてもおかしくなかったはず』
当然の疑問に応じたのは、ウォーロックではなくミーシャだった。
『あ、いえ、誰にも言うなとミーシャ様に言われていたので、周りには内緒にしてました〜。今は神である皆様から聞かれたので正直に答えましたけど』
ありがとうございました。




