41.メンテナンス担当も飲んだ
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『普段はどうにか自制できていても、大きなアクシデントやトラブルがあると崩れてしまうということですか』
シルファールがフィーラスを観察しながら言う。
『多分そうだね。お茶を出したのは上級の使役にだけ?』
『はい。使役はものすごい数がいますから、全員に配布するのは無理ですし、現役の役職者を中心に提供しています。後は大きな手柄を上げた者にもですね。あっ、使役界の境界を作っている神器のメンテナンス担当にも、調整が終わった後に労いの意味で振る舞いました』
『って、そのせいでそいつの精神がグラついて、勝手に境界を弄る凶行に及んだんじゃねーか!?』
目を見開いて指摘したのはアーディエンスだ。もう少し使役界が広くなれば良いのに、という不満が茶のせいで増幅させられ、しかも精神が不安定になって自制心も緩まってしまったとすれば――
『あ、あぁっ……』
愕然としたフィーラスが絶句し、あわわわと顔色を失くしている。
『メンテの担当者は今どこにいる? ちゃんとふん縛ってんだろーな?』
『さ、騒ぎが発生した後で、遠隔で捕縛して隔離してます。取り調べはこれからですけど』
『なら、茶葉の影響も加味して慎重に調査と処分検討をしねーとだな。……いや、それ以前に総指揮を取るべき大精霊と副大精霊も汚染されてんのか。どーすんだよこの状態』
『使役界を切り回す上層部に影響が蔓延しているのは不味いね。解毒させるにしても、大精霊選の頃から摂取していたなら、すぐに回復させるのは難しいかもしれない。僕たちの力ならできるけど、使役界に首突っ込みすぎって止められちゃうかもだし』
うぅんと悩むウォーロックに続き、アルシオも疑問を口にした。
『不審な点もある。茶葉の所持と管理を担っていたのは大精霊だろう。最も多く茶を摂取していたであろう彼女が、普段は問題なく仕事をこなせており、時々しか飲んでいないはずの副大精霊や上級精霊に慢性的に症状が出ているのは何故だ』
『うん、そこも変だよね。大精霊は一番大きな力を持つから、平素は症状を中和できていたのかもしれないけど……それにしてもお茶の摂取量と症状の発生状況が合わない気がする。副大精霊や上級使役の一部だって箔付けの神性を授かってて、大精霊ほどではないにしろ力を持ってるのに』
『いえ、茶葉を管理していたのは私ではなくミーシャ様です。私は忙しいだろうからと、代行で管理を申し出て下さいました。補佐に付いてもらってすぐのことです』
『ミーシャ――』
また補佐役の名が出て来た。脳裏で明滅する嫌な予感が大きくなっていき、アルシオは顔をしかめる。ウォーロックも困った目をしていた。イルーナは俯き、ミスティーナが背をさすっている。シルファールがアーディエンスに双眸を向け、情報を整理するように言葉を放った。
『ミーシャはベテランの上級精霊だったと記憶しています。今まで多くの役回りを歴任し、知識や経験も豊富で、使役界では大きな力を持っているはず。そして……』
嘆息を堪える顔で台詞を途切れさせたシルファールに、同じ表情を浮かべたアーディエンスが言葉を上乗せする。
『直近では使役界内の管理を取り仕切ってたはずだ。昔はフィーラスの講師もやってたと聞いた。補佐役に付けたのはその縁だろ?』
『はい。私が上級使役の講習を受けていた頃、メインの講師を担当して下さった方なので気心が知れていますし、信頼していますので。イバリアたち上級使役が不調な中、それをカバーして熱心に働いて下さっています』
上級精霊は高位神付きになることが多いが、時には共有領域の全体管理や使役界の方の調整、使役たちの取りまとめなどを任されることもある。少し前までのミーシャは、天界の表ではなく裏の使役界で働く者たちのまとめ役を担っており、フィーラスからの要請に応じてポジション変更を行ったそうだ。
『実を言いますと、ミーシャ様には決選投票のちょっと前から補佐役を打診していたんです。私が大精霊か副大精霊のどちらになるにしても、今まで頼りにしていたアーディエンス様とウォーロック様はもういらっしゃらないわけですし……不安癖の強い私を支えて欲しいとお願いして、内々に承諾をいただいてました』
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