40.他にもばら撒いちゃいました
お読みいただきありがとうございます。
『母さん、フィーラスの肌を確認してくれませんか』
『メアも頼む』
『え、ええ……』
『分かりました、あなた』
いったんフィーラスから距離を取ったアーディエンスと、追随したアルシオの言葉に、イルーナがおずおずと、ミスティーナがキビキビと動いた。
生え抜きの神は最初から性別を超越した存在なので、男神が女神の裸身を見ても双方共に気にしない。だが使役上がりの神は、雌雄を持つ精霊や人間であった頃の感性が残っているので、こういう時は性差を考慮する。
『少し見せてちょうだい――本当だわ、赤いブツブツがたくさんあるわね』
『背の方にかなり広がっているようです』
フィーラスに断って衣を開いたイルーナが痛ましげに柳眉を寄せ、ミスティーナが冷静に述べた。当代の大精霊が狼狽えたように桃色の目をさ迷わせる。
『本当ですか。ちっとも気が付いてませんでした。どうしてでしょう。入浴の時は腕を見ますし、大規模な儀式で正装する時は、更衣の介添えが付くこともあったのに』
答えたのは先達たちだ。永年の見識と経験を持つ彼らは、生き字引のごとくあらゆる物事に精通している。
『そこは悪神らしい仕様というか、被害者に優しくない仕組みになっておってのぅ。同じ正規の神でもなければ、発疹の存在を認識できんのじゃ』
『あるいは神から発疹が出ていると教えられることで、初めて認知できるようになる。今のお前のようにな』
『痒みや痛みといった症状も出んから、神が気付いて教えてくれるまで、被害者は不調が出ても原因を特定し辛くなるというわけじゃ』
『それにより、なるべく長く苦しませるようになっておるわけだな』
さすがは悪神由来の飲食物と評するべきなのか、厄介な症状を発症させる。
『さぁて誰が最初にこの事実を発見するかのぅと思うておったら、ウォーロックであったか』
『フィーラスに詰め寄る回数が多いアーディエンスが、発疹に気付くかと予想していたが』
『これで賭けをしていたら誰が勝っていただろうな』
『アーディエンス以外は票が割れておったかもなぁ』
ヘラヘラ笑う先駆者たちに、こめかみをヒクつかせたアーディエンスが言う。
『すみませんねぇ、本命の癖に気付けなくて!』
アルシオはラーグを見た。きっと兄も気付いていただろう。喜怒哀楽をすっぽりと抜き取ったような容貌からは何も読み取れないが、そんな気がした。今の兄は、ラグドールであった頃――フードで面を隠していた頃とは異なり、すっかり寡黙で淡々とした態度に変わっている。
と、真っ青になったフィーラスが恐る恐る手を上げた。半脱ぎ状態だった衣は既に整えている。
『あ、あのぅ……悪神様のお茶は賞味期限がないし、滋養強壮の特効薬になるって聞いたから、この200年の間に少しずつ消費してまして。会議でイバリアとか他の上級使役たちにも出してるんです。な、何回も。茶葉を準備する間もない臨時会議とか緊急会議の時は別ですけど、通常の会議は事前に日程が分かってますから……』
『やっぱり。副大精霊たちの体調不良や精神不調も、下処理が不完全なお茶を不定期的にでも飲んでいたからだよ。正規の神の気が原因なら、神格持ちの使役たちにも影響を及ぼせる』
しかも発疹と同様、『箔付けとはいえ神性を持つ自分たちが不調になるのはおかしい』『滋養強壮の神茶を飲んでいるのに不調になるのは変ではないか』という違和感を自覚できなくなる。早期に疑問を持たれて調査されないよう、摂取した者がなるべく長期に苦しむよう、精神を汚染して認識を歪ませてしまうのだ。
『一日だけでも干したことで症状が緩和されているから、神々の前とか仕事中は我慢して平常通りに振る舞えてたんだろうね』
上級精霊全般に、処理が不完全な悪神の茶葉がばら撒かれてしまっている。どうしようかと言わんばかりに、ウォーロックが腕を組んだ。
『どの症状が出るかは個体差がある。多分、フィーラスは精神面に強く出るんだと思う。心が不安定になる作用と、短所としての焦りやすい性格が強調される効能で、大精霊選の時も今日も大パニックになったんだ。マグカップでたくさん飲んだ時は体の方にも影響が出て、お腹を下したんだよ』
ありがとうございました。




