39.悪神からの下賜品
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『へ? お茶ですか?』
『ああ、言葉足らずでごめん。負の念を献上したお返しとして、悪神から下賜された物だよ。悪神から賜る物だから、そのまま摂取すれば心身に悪影響が出る。でも淹れる前に下処理をすれば、とても強い滋養効果を持つ秘薬に早変わりしてくれる。そのやり方は、君とイバリアを含む上級精霊たちに伝えておいたよね?』
『ああ、あれですか。もちろんちゃんとしてますよ。ミーシャ様が……あ、私の補佐役なんですけど……が、もっと良い方法を教えて下さったので、そっちに変更しましたけど』
『『…………!?』』
『はぁぁ!?』
アルシオたちが驚愕の眼差しを浮かべ、アーディエンスが唸り声を上げる。先達たちは肩を竦め、互いに視線を交わしていた。ラーグは表情を崩さない。元の無表情に戻ってしまっている。
『手順を変えた!? 何でそんなことしたんだよ、どこをどうやって変えたんだ!?』
『か、変えたと言ってもちょっとです、ちょっと! 浄化の風に当てて干す時間を、二日間から半分の一日に短縮しただけです』
『どこがちょっとだ、倍も違うじゃねーか!』
『で、でも、この神威濃度なら一日干せば十分だって、ミーシャ様が仰るから……』
『二日ってのは茶葉を下賜した悪神が指定した時間だぞ! モノを授けた当事者がこうしろって言ってるのを守らないでどーする! つーか、まさかそれを飲んだのか!?』
『の、飲みました〜』
『お前なぁ……』
涙目で肯定するフィーラスに、アーディエンスがフラッとよろけた。イルーナが慌てて支えている。ウォーロックが真剣な目でフィーラスを見た。
『さっき悪神の力を出した時、君から同類の気を感じたんだ。すごく微かなものだったから、悪神面を抑えてる状態じゃ気付かなかった。でも大精霊としての神威が悪神化している様子はないし何でだろうって考えて、茶葉のことを思い出した。干す時間はいつから短縮していたの?』
『ええと、ミーシャ様が私の補佐に付いて下さった後からなので……遡っても200年ほど前からだと思います』
『もしかして、大精霊選の決選投票の日にも飲んだ?』
『はい。緊張するだろうから英気を養おうと思って、開始前に大きなマグカップに並々注いで二杯飲みました!』
『そんなに摂取しちゃったんだ……。だからお腹を下したのかな』
遠い眼差しでひとりごちるウォーロックに、気合いで立ち直ったアーディエンスも続く。
『まさか、あの大精霊選でのポンコツ騒動もそれが原因だったのか!?』
『ええっと皆様、さっきから何を仰ってるんですか?』
この期に及んで事態が見えていないフィーラスに、アルシオは頭痛を感じながら唇を動かした。
『茶葉を干す時間が不足していたせいで、下処理が不完全な状態になっている。それを摂取すれば、精神面にも身体面にも悪影響を及ぼすはずだ。一日だけでも干している以上、それなりに緩和されたものにはなるだろうが』
『あ、悪影響って……?』
『精神面では心を不安定にさせる上に自身の短所や欠点を増幅させ、身体面でも痛みや倦怠感、不眠、発熱など様々な弊害を発生させる』
『えぇぇー!?』
『えぇぇーじゃねーよ馬鹿! 引き継ぎの時にちゃんと伝えたろ!』
『そ、そう言えばそんなことも聞いたような……でも処理すればオッケーだって言うから安心して、すっかり忘れちゃってました』
『忘れてんじゃねーよ!』
アーディエンスが全力でツッコんだ。ガーネットの瞳が先達たちを順繰りに突き刺す。
『あなたたちは気付いてましたか?』
『あー、まあな。過去視をした時にのぅ』
『フィーラスの衣の袖がめくれ上がったタイミングがあっただろう。その時に一瞬だけだが、腕に赤い発疹が見えた』
『ちょうどイバリアが謝罪した時であった。お前たちは彼の方を見ておって気付かなんだようだがな』
『花のように広がる形状――あれは悪神の気を帯びた飲食物を摂取した者独特の症状じゃ。二の腕や足裏、腹、背中などに出る。顔や手の甲などに出てくれれば、神にはパッと見で分かるのじゃが』
フィーラスがアルシオたちの力で投票を無効にして欲しいと言い出し、それに喫驚したイバリアが割り込んで陳謝した。今まで黙っていた者が初めて声を上げたため、あの刹那、アルシオたちは全員イバリアに意識を向けたのだ。当時も過去視をした今日も。アルシオたちもあの件に巻き込まれた当事者なので、自然とそうなった。
だが先達たちは、傍観者たる第三者の視点で、フィーラスを含めた全体の光景を客観的に俯瞰していた。ゆえに気付いたのだ。イバリアが発言し、皆の目が彼に向いた瞬間。髪を振り乱して嫌々ポーズを取ったフィーラスの袖がめくれ、露わになった肌に浮かんでいる発疹に。
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