37.ウォーロックは気付く
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『分かった』
やんわりとした遠慮に、アルシオは素直に首肯した。笑いの残滓を宿す声が降りかかる。
『アルシオ、ウォーロック。お前たちが睦まじくなって良かった。予言は無事に成就したのだな。私の悲願も』
感慨深げに呟く言葉を聞き、アルシオはつと思い出した。兄に予言を授けたのは至高神フェンレイルだと言っていた。そして、ラーグという名を与えたのはまた別の至高神クレイルードだと。だが、前者の尊名は知っているが、後者は記憶にない。クレイルードとはどのような至高神なのだろうか。
『――――』
聞いてみようかと、霊具に目を落としているラーグの様子をこっそり窺う。メインで力を使っているウォーロックがこれだけ余裕でペラペラ喋っているので、補佐の兄に話しかけても良いだろう。だが、唐突に至高神の話題を出すことで、最後の締めにかかっている弟の気を散らしてしまえば申し訳ない。
迷ったアルシオは結局、喉まで出かかっていた声を飲み込んだ。念話もしない。ラーグは蘇ってくれたのだから、これからいつでも聞けることに気が付いたからだ。
ふと兄が目線を上げた。バッチリ目が合ったアルシオは紫眼を揺らす。真っ向から見るラーグの双眸。自分と同じアメジスト色だが、こうして近くで見ると、兄の方が若干深い色をしていることに気付く。感情がない暗い色。だが、その深紫がつと和らぎ、仄かに輝いた。腐れ爺として振る舞っていた頃から、きっと彼はこの目で自分たちを見てくれていた。
『っ……』
『――できました』
反射的に口を開きかけたアルシオに先んじ、ウォーロックが快哉を上げる。霊具の穴は綺麗に塞がり、一粒の靄も漏らしていない。内部に浸透していたフィーラスの力も綺麗に取り除かれていた。
『よくやった、ウォーロック』
『ああ、頑張ったな。良い子だ』
兄から弟へ注意を切り替えたアルシオに続き、ラーグもウォーロックを労う。展開されていた神紋が消えた。
『ちょっと試してみます』
言葉と共に玉を起動させ、使役界から負の念を吸い上げた。今度は取り零しなくスルスルと中に収束していく。
『収集と貯蔵は大丈夫、と。後は献上か』
小首を傾げたウォーロックが、纏う神威を変質させる。顕れるはドス黒い御稜威。キラキラ輝く通常の神威とは対照的に、どこまでも光を通さない。通常は抑えられている悪神の気を、意図的に表出させたのだ。眩い星雲と無明の鈍黒。正反対の明暗を持つ神威が、神秘的な重奏曲と共に重なり合う。
『叔父様、悪神化が進んでしまいます。せっかく進行を止めていただいたのに』
『数瞬出すだけなら大丈夫だよ。悪神に負の念を献上する機能がきちんと働いているか確かめたいんだ』
案じるシルファールに微笑むウォーロックが霊具を操作すると、その指示と悪神の神威を感知した玉が念を放出した。
『うん、美味しい。霊具も正常に動いてる。これで対処完了――』
飛び出した靄をパックンと食べたウォーロックが言い止し、ふと瞬きした。
『あ、れ……?』
整った唇から押し出すように声を漏らし、首を巡らせる。未だアーディエンスにキリキリ詰められていたフィーラスの方へと。
『…………?』
『ウォーロック、どうした。早く悪神の力を消せ。あまり長く出しているのは良くない』
『あ、うん……』
アルシオが声をかける。首を縦に振ったウォーロックが霊具の献上操作を終了させ、鈍黒の御稜威も消す。そして、フィーラスの所に玉を持って行った。
『ほら、直したよ。もう壊したら駄目だよ。今後は十分注意してね』
『は、はいぃ』
『ありがとうございます、父さん』
アーディエンスがフンと鼻を鳴らし、フィーラスから少しだけ身を離す。息子の側でハラハラしていたイルーナがホッと肩の力を抜いた。肝心の当代の大精霊は、べしょっと床に落ちる。
『今回は私が直せたけど、今後も同じように動けるとは限らない。また壊れてしまった時のために、予備を作っておいた方が良いよ。詳細な設計書と仕様書があるから、それを見れば同じ物ができるから』
『むむむ無理ですっ! こんな高度な物創れません! そんな責任重大なことできませんよぉ!』
ありがとうございます。




