36.霊具修繕②
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『私も同じことを考えていた……が、神成した身でそこまでして良いのか?』
黙念と霊具を観察していたアルシオは、束の間考えてから口を開いた。
『今回は言い訳が立つだろう。霊具が破損すれば負の念の献上ができなくなり、悪神への供物が減るので同胞を想って修理に動いた、などと理由を付けられる。だが強化霊具まで作るのは逸脱しているだろう。使役界に肩入れしすぎだと止められるかもしれない。私たちはただの色無しではなく星雲なのだから、尚更だ』
ちなみに、先ほどラーグに動いてもらったことは大丈夫だ。使役界そのものが崩壊寸前というレベルの緊急事態であれば、元同輩への情が捨て切れず、単発かつ臨時で動いてしまったのだろうと大目に見てもらえる。また、ラーグたちの復活は神々側からも喜ばしいことなので、自分たちの慶事でもあるからと許容される目算もあった。
しかし、平時から使役に手を貸し、霊具作りなどに関与するとなれば話が別だ。この玉は使役が管理する使役界の所有物。ウォーロックは創生者ではあるが、神成して使役から脱した時点で、本来はもうこの霊具に手を出すべきではない。
『最悪、私たちではなく使役が罰される』
『だよねぇ』
ウォーロックが分かりやすく肩を落とした。卵の殻に繊細な細工を施すような超絶技巧で霊具を修理している最中とは思えない余裕だ。それだけ技能が高いのだろう。
『この霊具が出来上がった時は、ひとまず様子見しながらブーストとか予備の作成とかも含めて考えていこうと思ってたんだ。でも結局、すぐ神成したからさ。使役界に関われなくなって、この一個が完成形になっちゃったよ。……そうだ、修理中に中の負の念が出そうになったら止めてくれる?』
『ああ』
請われて頷いたものの、ウォーロックならそんなヘマは犯さないだろうと思うアルシオだった。ラーグが補助に付いているので尚更だ。
『私も復元と再配分を手伝おうか。先ほどお前が言った比率で組み直せば良いのだろう?』
『えっ』
親切心から提案すると、弟は何故か驚いたように淡黄色の目を見張った。そしてそろりと視線を揺らす。
『でも、アルシオ兄さんは冒険心旺盛だし、意外とうっかりしてるから……この前一緒にハンバーグを作った時、レシピに無い調味料や食材をどんどん追加して、水もざんざか入れまくって、結局ひき肉のごった煮ができたでしょ』
『……それなりに美味しかったのだから良いではないか』
『他にもあるよ。セーターを編もうとして長さ間違えてマフラーにしちゃったり、犬のぬいぐるみを作ろうとしたら配色とパーツ配置のミスでタヌキになったりとか』
『あれは少し注意力散漫になっていたんだ……』
『僕の神殿に遊びに来てくれた時、神苑の噴水を改良してくれたっていうから行ってみたら、何故か感知センサーと散水機能が追加されてて顔面に水がぶっかかったし』
『放水のオプションを付ければ夏場は涼しくて良いかと……』
段々声が小さくなって行くアルシオ。いつの間にかじーっとこちらを見つめていたトパーズの瞳に押されつつ、どうにか体勢を立て直す。
『だが仕事の時は手順書通りにしている。この霊具もきちんと処置するつもりだ』
『ホントにぃ? ちょっとアレンジしてみようかなとか考えてない?』
『そんなことはない! ……多分!』
『多分!?』
真面目な顔で弟とかけ合うアルシオの鼓膜を、小さな笑声がくすぐった。眼前に意識を戻すと、ラーグが秀麗な面差しを綻ばせている。ずっと無表情だった兄が反応を見せたことに、アルシオの心が温かくなった。ウォーロックも我に返った顔で、アルシオと自分よりも長身の兄を仰いで眉を下げる。
『すみません、ラーグ兄さん。修理はもう終わりますから。アルシオ兄さんもありがとう。でももう終盤だから大丈夫だよ』
ありがとうございました。




