35.霊具修繕①
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『おっと』
『危ない危ない』
口笛を吹きながら取り零しをキャッチし、正の念に浄化してくれたのは先達たちだ。視線で謝意を示したウォーロックが、霊具に注いでいた視線を上向けた。音も気配もなく眼前に近付いていたラーグを見上げる。あわや落下しかかっていた玉を、間一髪で搦め捕ってくれた長兄を。
『やはり破損しています。たったこれだけの量を捕捉できないはずがないですから。修復と正常化をしなくてはなりません』
『そうだな』
首肯するラーグの紫眼が玉を一瞥した。彼もウォーロックと共に、この霊具を開発したと聞いている。
『――修復』
呟いたウォーロックから御稜威が立ち昇り、手のひらに乗せた玉の下に神紋が出現する。神の力を持ってすれば霊具の復元ごときに手こずることはないが、これは悪神に中身を献上する特殊な物だ。ダイレクトに神と、それも悪神と関わることを前提に創った物なので、構造がかなり複雑である。しかもフィーラスの神威が最深部まで絡んでいるので、この状態で基盤を触るのは神経を使うようだった。
『まずフィーラスの力を外して……今回のような事態は滅多に起こらないと思いますが、念のため内部の防衛機能を強化しておきます。自動修復機能も付与すれば安心でしょうか。そうなると悪神と接触する特殊部分との兼ね合いを考慮し、機能の配分を組み直す必要があります。これは半複合型の霊具ですから』
喋りながら、ウォーロックが微細に御稜威を調整している。この玉は神威を注いだ神器ではなく霊具なので、中身を構成するのは複数の効能を宿す霊威だ。その割合を操作している。
『これまでは、収集、貯蔵、献上、その他防御機能等で2:3:4:1の比率でした。防御を独立させ、修復を追加して、1.5:2:3.5:1.25:1.25:0.5ではどうでしょうか? それぞれ収集、貯蔵、献上、防御、修復、その他です』
『惜しいな、貯蔵がやや少ない。悪神に献上できる量を貯めるにはもう少し容量が必要だ』
長兄から静かな指摘を受け、ウォーロックが柔和な美貌を曇らせた。
『どこを削りましょうか。献上は最も繊細かつ負荷がかかる部分なので、これ以上削減できません。かと言って収集を減らせば念の取り零しが増えます』
『自己修復を平時は使わない機能として圧縮すれば良い。緊急時のみ容量を使うようにする。その際は収集を一部停止し、浮いた空き容量を防御ないし修復に回すよう設計してごらん』
『では1.5:2.5:3.5:1.25:圧縮0.75:0.5を標準状態とし、緊急時は収集から0.5分を修復へ回すようにします。一時的とはいえ収集能力が落ちますから、その間は別途で作成した負の念を正の念に変換する霊具を補助的に併用した方が良いですね』
『ああ。あちらはそれほど効率が良い物ではないがな』
負の念は瞬発的に起こる天災とは違い、膨大な数の使役が日々絶え間なく垂れ流し続けるものだ。しかも箔付けの神格持ちの――神族に半身を突っ込んでいる使役たちの念まで含まれている。そんな強烈な代物を全く違う性質の念に変換しようと思えば、常時強大な力が必要になり、どうしても燃費が悪くなってしまうのだ。
『それでも、暫定的に補助として使う分には足しになるだろう』
『ではその旨を、霊具に内蔵している仕様書のトラブル欄にも追記しておきます』
『そうしなさい』
ラーグが穏やかに同意した。きっとこの霊具を開発する際も、こうして弟を支え導いて来たのだろう。無造作に手をかざすと、彼の神紋も玉の上部に展開された。修復の補佐をしてやっているのだ。ウォーロックの紋と合わせて霊具を上下から挟むようにしている。
例えるなら、柔い花びらに精緻な刺繍を施すような繊細な技巧。荒神であるがゆえか元々の特性なのか、ラーグは相当に器用なようだ。
『やっぱり専用のブースト霊具を追加作成して取り付けるべきかなぁ。そうしたら本体の全容量を拡張できるわけだし。アルシオ兄さんはどう思う?』
ありがとうございました。




