34.当代大精霊がやって来た
お読みいただきありがとうございます。
『感謝いたします』
『ありがとうございます!』
『ああ、良かったわ……!』
『ええ、一時はどうなることかと思ったけれど』
アルシオとウォーロックが兄に礼を言い、イルーナとミスティーナが愁眉を開いた。
『後は負の念を集める霊具の修理ですね、アーディエンスさん』
『ああ。霊具はフィーラスに念話して安置状態のまま転送させる。それから、勝手に神器を弄ったメンテナンス担当をふん縛って尋問室に叩き込むよう言っておかねーと……』
だが、シルファールの言葉に応えかけたアーディエンスの言葉が、またも遮られる。使役界に通じる門が、内側からバーンと開いたからだ。
『アーディエンス様ー!』
『フィーラス!?』
声を裏返したフィーラスが、足をもつれさせながら扉を体当たりで押し開けてまろび出て来た。眉が情けなく下がり、全身にぐっしょり汗をかいている。手には何故か大判の布の包みを抱えていた。
『良かったー、使役界直って良かったあぁ! 神器が正常になって変な操作もキャンセルされたみたいです! これでもう大丈夫ですよね!?』
『大丈夫だが何で今出て来た? 神器が直ったと分かったんなら俺たちに念話して現状確認、解決した言質が得られたらそれを使役たちに伝えて落ち着かせる。それが真っ先にやるべきことだろ!』
眦をつり上げるアーディエンスと、ひえぇと縮こまるフィーラス。先達たちが静かに当代大精霊を注視している。
『も、もちろんそのつもりです! でも霊具を持って行くんだし、念話じゃなくて直接確認しても良いかと思ったので』
『は……霊具を持って……?』
『はい、壊れた霊具を持って来ましたっ!』
じゃじゃーんとばかりに、フィーラスが布を開いた。中に包まれていたのは黒い玉だ。一部が欠けて穴が開いている。穴からはブスブスと黒い靄のような煙が立ち上っていた。
『ああああああ!』
平時の温厚さをかなぐり捨てて叫んだのはウォーロックだ。銀河を宿す神威が駆け、靄を玉の中に押し戻す。
『動かさないで、中から負の念が出かかってるから!』
『えええ!?』
驚いてた拍子に手を跳ね上げたフィーラスが、つるりんと玉を落っことした。
『きゃー!』
悲鳴が響く中、目を剥いたアルシオたちが一斉に御稜威を放ち、霊具を確保しようとする。だがそれより早く、最も強い輝きを纏う力が玉を搦め捕った。危機一髪の救助に、全員がホッと肩の力を抜く。
『あっぶねー……何で勝手に持って来た、触らずステイっつっただろーが大馬鹿!』
『ひー、すみません! ……あっ、先達様! アーディエンス様の念話で聞いていましたけど、本当に蘇って下さったんですね! 私、前にチラッとあなた方のお姿をお見かけしたことがあるんです〜』
縮み上がったフィーラスだが、佇む先駆者たちの姿を認めて目を輝かせ、感動の声を上げる。肝心の先達たちはシラッとした顔でそれを眺め、弟たち以外に対しては絶好調で停滞っているままのラーグに至っては視線すらくれない。
『ぶ、ぶつからなくて良かった……ありがとうございます』
礼を言いながら一飛びで駆け寄ったウォーロックが、床に激突する寸前で掬い上げられた玉を掴み取り、慎重に手の上に乗せると見やすい場所に移動した。
『内部に大精霊の神威が入り込んで、基盤を浸食してる……』
『では正常に作動しなくなっているのか?』
アルシオも弟の横に並び、一緒に霊具を観察する。背後で響くのは、何呑気なこと言ってんだとフィーラスを叱責するアーディエンスの怒声と、控えめに彼を宥めるイルーナの声。
ミスティーナとシルファールは開いた門の向こうに見える使役界を覗き込み、未だ混乱状態で右往左往する使役たちに、もう大丈夫だと声をかけている。
『うん。多分、負の念を収集して溜める機能も、それを取り出して悪神へ献上する機能も壊れてる。大精霊は混乱してるから、浸透した神威を制御して消してもらうのは無理だろうね』
呟いたウォーロックが、玉を乗せた両手を胸元に掲げる。開いた門の向こうから、使役たちが発する負の念が引き寄せられ、玉の中に吸い込まれていった。だが、何割かは収められず逃してしまう。
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