31.大精霊選での珍事②
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受け取ったアルシオがボードを撫でると、表面が輝き、細かな文字や数値の羅列と霊紋が浮かび上がる。画面に触れて操作している間に、ウォーロックは箱の中の札から一枚を摘み上げた。
『フィーラスの札は?』
『こちらです。彼女の気の残滓を感じますから』
『個別番号』
『663–3864-CYです』
『60番台のタイプCYか。最新式だな』
タブレット型の管理霊具に番号を入力すると、画面が切り替わる。
『ステータスは使用済みか。当然だな。リセットナンバーは?』
『4482-7930です』
即答するウォーロックは、フィーラスの札に刻印されている情報を片手に兄とやり取りしつつ、新たな大精霊に引き継がせるために置かれていた丸鏡型の霊具を起動させている。虚空に投影されたのは、使役界で管理しているあらゆる物品の一覧だ。大量のリストの中から、兄に渡した管理霊具を雷のような速さで見付け出し、内部の情報を表示している。
一方、札の初期化番号を入力したアルシオは、予想通りの結果に嘆息した。
『やはり無理だな。札が使用登録されている大精霊選が開催中の間はリセットできない。ならばステータスの変更申請をしてみる』
『申請画面のパスコードは79*381です』
ウォーロックもこの結果を分かっていたのだろう。顔色一つ変えぬまま、映し出した管理霊具のデータを確認し、必要な番号を的確に述べる。なお、パスコードは一定期間ごとあるいは一回ごとに変わるため、現行の番号を知りたければ都度確認する必要がある。
『経緯が経緯だ。通常申請では駄目だな。手動で入力する』
『今、最新の申請様式を送ったところです』
丸鏡型の霊具から呼び出した申請書式が、ボード型の霊具に転送される。中空に何枚もの画像が展開された。
『こちらでも札の再発行などができないか試みてみます』
『ああ』
周囲に広がった幾重もの資料に刹那で目を通し、タブレット画面に指を走らせるアルシオを、シルファールとアーディエンスが眺めている。シルファールは誇らしげながらも少しだけ寂しそうに、アーディエンスは嫉妬の眼差しで悔しげに。
『お父様と叔父様は息がピッタリですね』
『……まあ兄弟だからな』
かつては私的な会話や交流がほぼ無かったアルシオとウォーロックだが、業務上では普通に連携を取っていた。ゆえに、今回も反射的に体が動いたのだ。神成した現在ならば、わざわざ霊具を引っ張り出して確認や操作をせずとも、神威を用いれば一発なのだが、以前の癖が身に染み付いていた。
『おぉ〜』
『相変わらず呼吸が抜群じゃ』
『アルシオとウォーロックはどちらも優秀だからのう』
能天気な感想を漏らすのは過去視をしている先達たちだ。そして、サラリと言う。
『色々と頑張ったようだが、徒労だったじゃろ?』
『――はい』
アルシオは苦い顔で首肯した。ウォーロックも肩を落としている。永く経験を積んだ先駆者たちには一目で分かるだろう。これがどうにかしてやれる状態か否か。
『……駄目か』
果たして、過去視の映像の中にいるかつてのアルシオが呟いた。
『霊具の自律判定で申請が却下された。そうなってしまうとは思っていたが。かといって虚偽の理由を打ち込むわけにもいかない。そのような不正行為などやるつもりはないし、露見した際のリスクも大きすぎる』
『書き方や表現方法を工夫して、こじつけでも何とか理由をひねり出せ……ないですね。詳細記述欄がありますから、結局は総合的に判定されてしまいます』
『あなた、ウォーロック様、上手くいかなかったのですか?』
『ああ。投票者自身の落ち度が原因の入れ間違いではな。自己責任ゆえやり直しは不可と出た』
床が滑りやすくなっていて……などの擁護も無理だ。大精霊選に使用される部屋は、事前の清掃や確認が徹底れ、不備がない状態になったことを上級使役も含めた複数の使役が確認してサインしている。室内状況を理由にすれば、彼らの責任になってしまいかねない。
『僕も札の出し直しや新規か追加での発行ができないかやってみたけど、無理だね。不正があったわけではないから、投票自体を無効にもできないし。箱も札も不正防止の機能が組み込まれているから、時間の巻き戻しとかも受け付けない』
ウォーロックも多重画面を見ながら困ったように眉を下げた。使役の長を選定するために使う大切な霊具は、過去の大精霊や副大精霊が神威を注いで強化しているため、フィーラスの力でも防御機能の突破は困難だろう。
『かと言って札を発行し直そうとすれば、あらかじめ登録してある大精霊選の参加数と合わなくなるから、エラーになるんだ。トラブルによる臨時発行として申請を行ったとしても、やっぱり理由の部分で弾かれてしまう』
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