28.冬と兄と春の弟
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『……はぁ? 秋になれなかったとか知るか、季節なんざどーでも良いんだよ! つかお前は梅雨だ梅雨、すぐビーギャー泣きやがって! 泣き言吐いてる暇があったら落ち着け。もーちょい詳しく状況を説明しろ、こっちでできることがあればするから!』
『あ、秋? 梅雨?』
何故か唐突に登場した季節の話題。イルーナが目を白黒させている。母と同じ赤眼を眇めたアーディエンスが頷いた。
『やっぱり私には大精霊なんて無理でした、あなただってそう思ってるんでしょおぉぉって、いきなりヒスり出しました。ホントは副大精霊の頃から自覚してたって。冬のアルシオ様と春のウォーロック様のコンビの後じゃ、自分なんか秋になれない。夏のアーディエンス様の相方には力不足だったとか何とか騒いでます』
『…………』
アルシオは無表情の裏で引き攣った。氷柱のごとき気迫を放つ大精霊アルシオと、麗らかな陽気を纏う副大精霊ウォーロック。自分たち兄弟が使役の長の地位にあった時は、それぞれ冬と春に例えられていたのだ。
そして、アルシオの後を継いだアーディエンスは灼熱の夏だ。ならば、ウォーロックの後釜となった自分は秋として並び立つことを望まれているに違いない……と、フィーラスは勝手に思い込んでいたらしい。
『僕は梅雨も好きだけどなぁ。ちょっと気怠い感じが逆に良いというか。もちろん秋も好きだよ。芋とか焼いて食べたら美味しいしね。アルシオ兄さんは?』
ピントがズレまくっている返しをしたのはウォーロックだ。しかも全く悪気なくアルシオに振って来る。彼としては、比喩ではなく純粋に季節を話題に出しているつもりなのだ。
『……温暖な春は大勢が好むだろう。冬は寒くて凍える。忌避する者も多い』
『え、そうかな。キンと澄んだ空気、僕は良いと思うけど。ねえ?』
目線を逸らして下を向いたアルシオの様子に気付かず、無邪気に同意を求めるウォーロックに、ミスティーナとシルファールが即答した。
『ええ、私は冬が最も好きですわ』
『私も同じです、叔父様』
『つか、冬が寒いってゆーなら夏だってクソ暑いですし』
『でも夏空は爽やかだから私は好きよ』
おそらく脳内でフィーラスから説明の念話を受けているのだろう、渋面を作ったアーディエンスと、おっとり口元を緩めたイルーナも続く。ミスティーナとシルファール、アーディエンスはフォローのつもりで言ったのだろうが、イルーナはウォーロックと同じく単に季節の好みを述べている顔だ。
『老爺は?』
聞いていた先達の一柱がラーグに問うた。アルシオと同じアメジストの色をした瞳がこちらに向けられる。透明度のない深い深い紫が。
『季節にはそれぞれの趣と良さがある。春の野花も冬の雪景色も、同列に素晴らしきものだ』
迷いなく投げられた返し。ですよねぇと言って笑うウォーロックは、長兄の言葉の裏にある真意を察していない。
『あのなフィーラス、どんなモンにもそれぞれの良さがあるんだ。秋になれなかったから何だ、ピーピー泣いてる間があったら梅雨の根性見せてやれ!』
ラーグが春と冬以外は完無視したことには触れず、アーディエンスがよく分からない檄を飛ばした。念話の向こうでフィーラスが号泣している様が脳裏に浮かび、アルシオは額を抑えた。
『とにかく状況は分かった。神器の修復が終わったら、霊具もこっちで直してみる。メイン創生者の父さ……ウォーロック様と、共同創生者の先達様方がいるから多分何とかなる。だからお前は下手に触んな。アレは悪神の気にも馴染むように、特殊な構造になってるからな。何もせず待ってろ。良いな、ステイだぞ』
『えっ?』
述べられた言葉に反応したのはウォーロックだった。淡い黄眼に驚きを込め、恐る恐る尋ねる。
『アーディエンス、その言い方――もしかして壊れたのって、負の念を集める霊具なの!?』
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