27.原初の精霊は異例尽くし
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『『っ……!?』』
アルシオたちは絶句した。虹の神器。それはすなわち――
『クレイルード様は至高神様の一柱であらせられる。とある事情により、その御名はほとんど表に出て来ぬが……時折、天界にもいらっしゃることがあってのう。ラーグ様を殊に可愛がられておいでであった。件の神器は、ラーグ様が箔付けの神格を得た際、祝いと称してお渡しになられた物じゃ』
それは文字通りの別次元にして至高の神器だ。とはいえ、賜ったは良いものの、使役の身でおいそれと使うこともできず、ラーグの身の内でほとんど死蔵状態になっていたという。
『それだけではないぞ。ラーグ様がいつでもご自身と連絡を取れるよう、直通念話経路まで開設して下さった。本当にお気に召されておったのじゃろう』
言葉も出ないほどの高待遇だ。そこまで一線を画した扱いをされていながら、自分は最後の大賭博の咎で神逐されると思っていたラーグの鈍感さは、ウォーロックをも凌駕するかもしれない。
『あんた、どんだけ異例尽くしなんですか』
アーディエンスが呆れたように呟いた。驚きを通り越してただ引いている。
『本当に凄いんですねぇ』
『顔が広すぎでしょう』
『そんなことはない』
応えを返すことなく作業を進めていたラーグだが、続けて感嘆の声を漏らしたウォーロックとアルシオにはすぐに返事を寄越した。
『――あ?』
低い声で唸ったアーディエンスが眉を跳ね上げる。だが、自身の言葉を無視されたからではない。切れ長の目が睨んでいるのは、ラーグではなく中空だ。視線が虚空を揺蕩い、面差しが鋭さを増していく。誰かから念話が入ったのだと悟り、アルシオは無言で様子を窺った。
『……ちょい待て、あの霊具が壊れたって何でそうなった。……うっかり置き場所にぶつかって落っことして欠けたって、お前なぁ! じっとしてろって言っただろーが!』
空気が一気に緊迫した。使役界で何かが起こったらしい。先達たちがアーディエンスに視線を注いでいる。
『……焦っててつい、じゃねーよ! お前はそれでも大精霊か!』
苛立たしげな呻きを聞き、シルファールがウォーロックに囁いた。
『どうやらフィーラスからの連絡のようですね、叔父様』
『そうだね。彼女は力はあるんだけど慌てっぽいから……もったいないよね、アルシオ兄さん』
『ああ。もう少し落ち着きがあれば、見違えるように良くなるはずなのだが』
やり取りを聞いた先達たちが軽く目を見開く。
『ほぉ、当代の大精霊はフィーラスか。あの泣き虫腹黒ドジっ娘に務まるのか?』
『根性を入れ替え、経験を積んで成長した……わけでもなさそうだしな。神威で時間経過を視たが、我らが昇華してからまだ200年程度しか経っておらぬだろう』
『上にしっかりしたトップがいれば安心して本領を発揮するが、自分が最上位に立つとなると難しいぞ、フィーラスは』
『てっきり大精霊選で弾かれたと思うておったが。使役界も思い切った決断をしたものじゃ』
アーディエンスが神成したことで始まった、大精霊選の準備。フィーラスも有力候補ではあったが、普段の実力は高くともいざという時に平静さを保てない性格は致命的だ。選挙への参加権を持つ上級精霊たちの間では、彼女には副大精霊の地位に留まってもらい、大精霊は別の者を選ぼうという方向で決まりかけていた。
その方が良いだろうと賛成していた先達たちは、肝心の決定場面を見ていない。それから一年と少し後にアルシオとウォーロックが和解した場面を見届けて昇華し、その時はまだ候補者選定の途中だったからだ。大精霊選は何十年とかかることもある。トップが不在の間は、長代行のフォーラスと上級使役たちが協力して使役界を切り回していた。
『霊具が壊れたと聞こえました』
『大丈夫かしら』
ミスティーナとイルーナも顔を曇らせている。アルシオも険相を滲ませてアーディエンスの様子を窺った。神器の修復が順調かと思えば、新たな問題発生のようだ。
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