23.先代大精霊は視た⑥
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『喜びながら困る、ですか?』
《最後の大賭けにおける私の読みは大方的中したが、アルシオが神成するだけでなく最高神方の上位従神に望まれ、星雲にまで上がったことは予想外だった。いや、考えてみれば当然なのだがな。あの子は誠実で精神性も秀逸、何より努力家だ。高い霊威の上に胡座をかかず、研鑽と向上を怠らない。その真摯な姿勢が神々から認められていたのだろう》
アルシオのことも絶賛するラグドールは、我が事のように誇らしげだった。かつてマーカスとフルードがアルシオの神成を目指して動き出した際も、いち早くその動向を察していたという。アルシオは十中八九合格し、正規の神格を与えられることも予見していた。
そして、それにより遠からず大精霊選が行われる予測が立ったため、千載一遇のタイミングが来たとしてウォーロックを操り、シルファールを神成させて使役界から退場させる行動に踏み切ったという。
当時のシルファールはまだ講習中の身だったが、真に相応しい傑物だと判断されれば、子どもであろうと実践経験が少なかろうと大精霊に選ばれることはある。加えてシルファールは、臨時や単発の補佐で現場に出ていたこともあり、使役の実務経験が全くのゼロというわけではなかった。それらを総合すれば選出される可能性は十分にあったので、先にその芽を潰したのだ。
《私の想定では、神成したアルシオは、下位から中位の神に列せられると思っていた。だが蓋を開けてみれば星雲だ。とても嬉しかったが、少々困惑したよ。星雲は準色持ちの神だ。通常の色無しに比べれば一挙手一投足を慎重にしなければならない。使役に情を持つ神になってくれたとて、満足に動けない》
有色の神として絶対的な御稜威を持つが容易には腰を上げられないフレイムと、力は劣るものの色持ちよりは身軽に動ける色無しのアルシオ。二柱が連携し、神側から使役界に目をかけてくれればというのがラグドールの構想だった。
なお、使役側は負の念込みでアーディエンスが御し、ウォーロックが陰からアーディエンスの手綱を取る。そして数百年以上かけて負の念を処理する方法を編み出していくことを想定していた。
だが蓋を開けてみれば、アルシオは最高神たちから熱烈なアプローチを受け、最高神方の申し出ならば否やはないと承諾したことで、一気に色無しの最高クラスにまで駆け上がった。それはラグドールにとっても読みの範囲外だった。
《さてどうしたものかと思っていれば、お前が活躍してくれた。負の念を根本から処理する方法を閃き、実現のための道を整備した。たった5年でだ。お前の働きと尽力で使役界が救われた。自身を讃えろ、ウォーロック》
だが当事者のウォーロックは、ん〜と間延びした声を上げるばかりだ。ソファの上でぬくぬく神威ぼっこしながら、のんびり目をこすっている。
《御稜威が心地が良いならば少し眠れ。また私が付いていてやる。神成したお前が眠っている数日間も、万一の守護を兼ねてずっと側にいてやったのだからな》
それは魅力的な提案だっただろう。だが、ぽかぽかの神威毛布の中でくつろいでいたウォーロックは首を横に振った。
《僕は今、イルーナを見ていますから》
《イルーナも私に任せておけば良い》
《いえ、アーディエンスと約束したので僕が見ます》
《そうか、分かった。きちんと約束を守るお前は偉い子だ》
ラグドールは何故かご機嫌で返す。きっとウォーロックがどのような返事をしても肯定しただろう。
《この神威、とても暖かくて気持ちが良いので、もう少しかけておいていただけますか?》
《いつまででも、お前が望むだけ》
《ありがとうございます。このままうたた寝しないように本でも読もうかな》
《お前は読書が好きだものな。対話術とサポート技術に長け、誰とでも親しくなれる能力に優れている反面、本当は単独もしくは親しい者と静かに過ごす方を好む》
海千山千の者たちが蠢く使役界で生き残っていくために、誰をも惹き付ける朗らかで闊達な面を押し出していただけで、本来のウォーロックの性格はとても大人しく控えめだ。現在の、遠慮がちで引っ込み思案の方が素であることに、原初の精霊は気付いていたのだ。
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