21.先代大精霊は視た④
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『私の処遇も含めてあなたの掌の上だったのですか』
本当に敵わないなぁと言いたげに嘆息したウォーロックに、ラグドールが苦笑を漏らした。もし実体を持っていれば、眉を下げて微笑んでいただろう。
《お前を操作対象に選んだ理由は数え切れないほどある。幾多の要因が絡みに絡み合った結果だった。あらゆることに対して隙のない対応をするアルシオが、冷静さを欠く数少ない対象がお前だったということもある》
他の者を標的にすれば、操っていることに勘付かれていたかもしれない。だがアルシオは、何だかんだで弟を意識し、意固地になって背を向けていた。ゆえに、逆に気付かれないと踏んだ。
《それから……ウォーロック、お前に分かって欲しかった。不用意に相手に対して心を開くことの危険性を。純粋で無邪気すぎるお前を一度心胆から痛い目に合わせることで、警戒心や誰かを疑う心を持ってもらいたかった》
そうでなければ使役界の中で潰されると心配していたと、原初の精霊の想念が語った。一歩間違えば心を壊しかねない行為だが、徹底的にやらなければこの純真さの前では弾かれると思ったため、事前に手厚いケアの仕込みをした上であそこまでやったという。
《残念ながら、それでも効果は無かったがな。お前はすぐに私たちを受け入れ、怒りはあれども警戒心や猜疑心は抱かなかったのだから》
紡ぐ声が切なさを宿す。相変わらず無防備なまま、日向ぼっこならぬ神威ぼっこに浸っているウォーロックは、完全にオープンマインド状態だ。精神の純粋さを損なわず、他者を信じる心も曇らせていない。
《純真や無邪気を通り越して異様な精神だ。だがそれを見て、私は逆に安心したよ。ああ。これは確かに神に愛され、末は神成する器だと。どこかの部分でネジが吹っ飛んだ一面を持っていなければ、神の目に留まらないからな》
『僕にだって暗い面はありますよ。精霊の頃は完璧な存在ではなかったですし。不完全な生き物である以上、完全な真っ白にはなれない。どこかに汚い部分を持っています。事実、誰かを羨ましいと思ったり、苛々やモヤモヤを抱いたりもしていました』
《だがそれは、星の瞬きのように小さく可愛いものだ。一般的な者が抱える嫉妬心や葛藤、屈託よりずっと儚く淡い》
銀河を宿す神威が瞬き、ふわりと風が吹いた。ウォーロックの頭をそっと撫でるかのように。
《私が何故、お前の精神をあれほど大幅に改竄したか分かるか。一つはアルシオたちの敵意が私に、同情がお前に向くようにするためだ。そして今一つは、お前の魂があまりに純粋すぎて、全く違うものに改変しなければ汚い心を貼り付けられなかったからだ》
ウォーロックの精神に、中途半端に手を加えただけでは不十分だ。ラグドールたちが操っていたという真相が発覚しても、アルシオたちは、『操られる取っ掛かりとなった火種はウォーロックの中に元からあったものだ』と認識して強硬な姿勢を崩さないかもしれない。
ゆえに、ウォーロックの心を徹底的に改悪した。その改変具合を知ったアルシオ一家がドン引きし、『あれは本来のウォーロックではなかった。さすがに可哀想だ』と認めざるを得なくなるほど念入りに。
だがそれだけでなく、そもそもウォーロックの心に元から性悪な部分が無かったため、大元から変えるしかなかったという事情もあったのだ。
《……他にも、お前には一度下働きの経験をさせたいという思惑もあった。上級精霊として見学したり、お遊び程度に体験するのではなく、本当にその位置まで下がって低層の世界を実感して欲しかった》
そうした方が、アーディエンスをより適切に補佐できると思ったのだという。
もしもウォーロックが失脚していない状況で、アルシオとシルファールが神成して大精霊選が開かれれば、ウォーロックが大精霊に、アーディエンスが副大精霊となる公算が高かった。
それでもいけるのではないかと悩んだラグドールたちだが、ウォーロックは頂に立つ器もあるがそれ以上にサポート型であることと、やはり下層で働く経験をして欲しかったので、一度落ちてもらうことにした。
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