20.先代大精霊は視た③
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『ですが、無理に手柄を立てさせずとも、どのみち神成したアルシオ様が愛息にも神格を与えていたのではありませんか?』
《その通りだろうが、シルファールがあの時点で真っ当に振る舞っていれば、まず大精霊を経験させてやってから神成させていたかもしれない。我が子の悲願が自身の跡を継いで大精霊になることだと知っていたのだからな》
アルシオは神成後にミスティーナを愛し子にし、その足でシルファールも神成させようとしていた。それは、我が子がこの数年間ですっかり変わってしまい、使役界での居場所と未来を失いつつあったからだ。ゆえにこそ、息子を救うため、さっさと神に上げようとした。
だが、そうでなければ。シルファールが本来の彼のままでいれば、元来から神童だと言われていた評判はますます輝きを増し、次期大精霊としての立場を堅固にしていただろう。シルファール自身もその実現を目指して一層励んでいたはずだ。さっさと講習を終え、他の上級神使と肩を並べて第一線に出ていたかもしれない。
その状況であったならば、アルシオは我が子の望みに配慮し、神格を与える時期を延ばした可能性がある。大精霊になって望みを叶えてから頃合いを見て……と。それでは困るのだ。
《当時の状況下に限定すれば、大精霊に適していたのはアーディエンスだった。シルファールがなってしまっては計画が狂うのだよ。だから強硬策を取ってでも確実に使役界から脱させた。ああして追い詰めておけば、万が一神のお眼鏡に叶わなかったとしても、アルシオが即座に神成させてやっていただろうしな》
《随分とシルファール様が大精霊に就くことに消極的だったのですね》
《シルファールはあまりに綺麗で清廉だ。光が強すぎる。アルシオの系譜を継ぐ正統な大精霊にはなれても、負の念への対処には向かないだろう》
『ああ……アレはドロドロしていますからね。正の光と清浄が強ければ強いほど、裏側の負は濃くなります』
首肯するウォーロックは、すっかり負の念の性質に詳しくなっている。
《シルファールが光よりも輝く光ならば、アーディエンスは光よりも輝く闇。どちらも甲乙付け難く素晴らしいが、輝きの種類も方向性も異なる。そして闇要素がなければ負の念への対応は難しい》
サラリと告げられた言葉に、黙って聴いていたアーディエンスは息を呑んだ。先ほどはこちらを散々にこき下ろした腐れ爺が、原初の精霊が、自分をシルファールにも劣らないと認めてくれていた。その事実が胸に沁みる。
《己が身を以って闇を知り、かつそれを手懐けられる者に大精霊になってもらう必要があった。もう猶予は無かった。イーネストが使役の長となった時点から》
そもそも従来の大精霊選では、明らかにその地位に不適切な者が選出されることはなかった。派閥や策謀、損得、時には裏金も含んだ思惑が飛び交うとはいえ、下手な者を選んでは神々の不興を買いかねない。そうなれば選んだ者たちの責任も問われかねないのだ。
ゆえに、最低限の適正と品性を備えた者を選び出して来たのだが……イーネストが盛大に暗躍した時は様子が違った。
脅迫や賄賂を含む様々な事情や要因が絡み合った果てにイーネストが選ばれ、使役界に君臨して不合理を敷き始めた。それにより負の念が激増し、ずっと汚穢を受けていた同志の一体が耐え切れず一抜けした。ラグドールたちは、これは本気で使役界の闇をどうにかしなければならないと思ったそうだ。今までのような対症療法による発散ではなく、根本から。
その思いで、イーネストが大精霊となってから千年以上、その方法と機会を着々と窺っていた。若輩から見れば何をチンタラしているのかと思う年月だが、久遠を在る最古級の精霊たちの感覚では、たった千年など一呼吸する間にも満たない。
そして、いよいよ最適な好機が近付いて来た。アルシオとウォーロック、アーディエンスというメンバーがそろい、フレイムが焔神となった時を皮切りに。ゆえに、これを逃すまいと最後の大賭博の計画を考え、失敗しないよう年月をかけて練り上げていった。
それから200年ほどが経った頃、計画の骨子が決まり、利用すると決めたウォーロックの精神に干渉を開始した。金剛神の命を受けたミスティーナの邪魔をさせたのは、操り糸の御稜威をウォーロックに馴染ませておくための種まきの一つだった。いずれ機が熟した時、よりスムーズにウォーロックを動かせるよう、一度実際に操作しておいたのだ。
むろん、それにより損失を被るミスティーナが厳しい処罰を受けないことや、実は当時からミスティーナに惚れていたアルシオが彼女を守るであろうこと、後にラグドールたちの関与が明らかになればミスティーナは被害者として救済されることなども、全て見込んだ上で。
《だが、いよいよ千載一遇の好機が来た時にはシルファールが生まれていた。これは当初の予定にはなかったことだ。ゆえに計画の一部を変更し、お前を通して使役界から退場してもらった。もしシルファールが生まれていなければ、お前には別の形で動いてもらう予定だった》
『そうだったのですか。元々の計画では、僕はどのタイミングでどんな形で操作される予定だったのですか……とは聞かないでおきます。何だか怖いですし』
《それで良い、聞かなくて良い。ボツになった内容をわざわざ知ることはない》
『では話を戻します。負の念に対応できるのはアーディエンスの方、というご意見には賛成です。アーディエンスとシルファール様は共に逸材ですが、性格や適性が違いすぎますから』
《ああ。加えて、大精霊と副大精霊としてシルファールとアーディエンスを組ませれば、反目あるいは遠慮し合って互いの長所を打ち消してしまうとも判断した。シルファールは優秀だが、アーディエンスの良さを引き出しながら御すことは難しい。それができるのはお前しかいなかった。ゆえ、大精霊補佐に専念して欲しかった。副大精霊という肩書きは邪魔だ》
副大精霊の主要な務めは大精霊の補助だが、それだけが仕事ではない。全使役の副統括として多忙となる身でもある。それよりは明確に大精霊の補佐役専従に就いてもらった方が好都合だったという。
それを踏まえて見れば、結果はラグドールが配置したかった通りになったのだ。彼はアーディエンスを含む使役たちの意思や、神々の采配までも的確に読み切った。
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