13.先代大精霊は聴いた③
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『ガレーンの件が俺に伝えられた時は、ちょうどあなたたちの思念もいました。大精霊の仕事で分からないことがあれば教えてやるとか何とか言って、俺の周りをフラフラし始めた頃だったでしょう。だからガレーンのことは聞いてたはずです』
《仰せの通りにございます。それが何か?》
『だからさっきの質問ですよ。何で俺のことは助けたのにガレーンは無視してたのかって。……彼のことだって少しくらい助けてやれば良かったのに』
まだ水面下の情報として知らされた事実。だが、神使内定者でもない一神官たるガレーンに、天界にいるアーディエンスが現時点でしてやれることはなく、ただ分かったと聞き流すだけだった。
それでも、ガレーンが神々に疎まれ悪神の神使にされるのではないかと思えば、心がざわめいた。何かが一歩違っていれば、自分とて彼のようになっていたかもしれないのだから。
『もちろん、あなたたちが動いたところで、俺にしたのと同程度のフォローができるわけじゃなかったでしょう。それは分かってます』
天の精霊として天界に在ったアーディエンスと、人間として地上にいるガレーンでは、立場も前提も状況も違う。肝心のラグドールたちとて、既に肉体を喪失し想念だけの状態になっていた。アーディエンスにして来たのと同等な取り成しをガレーンにもしてやれるかと言えば難しかっただろう。だが――
『だがそれでも、少しくらいは何かしてやれたんじゃありませんか。思念状態でも神々とコンタクトできるんだから。なのにやらなかったんですね』
ラグドールたちがガレーンのために何かしたという話は聞いておらず、そのような気配もなかった。
《不躾ながら、逆にお尋ね申し上げます。何故私がガレーンのために動いてやらねばならないのです? 私にとって特別な価値もなく、大切でもない者のために》
ラグドールが問いで返して来た。アーディエンスは眉を顰める。今の台詞、それこそが答えだと思ったのだ。
『つまり、ガレーンはあなたたちの駒としても使役界の歯車としても使い道がない。だから何もしなかった、そういうことですか。あなたたちらしいですね』
《……ふふ》
何かを含んだような笑いが脳裏に木霊した。揶揄いではない。はっきりと嘲りを帯びていた。
《アーディエンス様。先ほどからお伺いしておりますに、もしやあなたは御自身が価値ある者であるがゆえに私たちに大切にされ、神々への手回しもされたとお思いなのですか?》
『そうじゃないんですか? もちろん価値と言っても利用価値だ。あなた方にとって都合良くハマるピースとしての価値があったから、使える道具として保持しておくために動いたんだと……』
だが、アーディエンスの言葉は途中で遮られた。頭の中に響き渡った高らかな哄笑に。唐突な反応に、束の間理解が遅れる。
『何がおかしい――』
《神成したからと言って調子に乗るな、期待外れのガキが》
『は……?』
いきなり口調が変わったラグドールに、アーディエンスの思考が停止した。
《先ほどから価値だの使える駒だのと大言壮語を吐き散らかしているが、勘違いも大概にしておけ。もしやまだ寝ぼけているのか? ならば氷水でもぶっかけてそのザル頭を叩き起こしてやろうか》
『ザ、ザル頭ってあんた……』
今までの丁重な態度から豹変した先達にドン引きした直後、アーディエンスは目を剥いた。透明な輝きが天の川のように広がり、こちらの身を締め上げるように絡み付いたのだ。凍える御稜威の縄に全身を圧迫される。
『これは神威――しかも星雲の……おい、どういうことだよ! 何でっ……』
《我らは思念のままで完全な御稜威を使えるようにしていただいている。全て神々の御温情だ》
『はぁ? あんたらどんだけ別格で気に入られて……いやそれより、そんなの初耳なんですけど! 自分たちはただの意識の残り滓で、箔付けの神威はまだちょっと使えるけど大したことはできないとか言ってたのは嘘っぱちだったんですか!?』
自分の神威で抵抗しながら噛み付くと、全く悪びれない肯定が返って来た。
《うるさい、ピーピー喚くなアンポンタン。最初から本当のことを話せばウォーロックが怖がるから言わなかっただけだ。少しくらい脳足りんの頭を働かせて考えてみろバカタレが》
ありがとうございました。




