12.先代大精霊は聴いた②
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《ようございました。御身も御母君も永劫に安泰でございますね》
回想に浸っていた思考を、軽やかな声が呼び戻す。アーディエンスはハッと意識を引き上げた。ついでに、春霞のように己を覆っている眠気の名残も飛ばそうと試みる。だが、気を抜けば重い瞼が下がって来そうになる。
《アーディエンス様におかれましては、未だ幾ばくかの眠気がお残りのご様子。今少しお休みになられてもよろしいのではございませんか?》
『いえ、行くところがあるので。眠いのはもうすぐ消えるでしょう。ちなみに母はまだ眠っています。ウォーロック様の仰せでは、ずっと伏せっていて魂が弱っている分、眠りが少し長くなるのではないかとのことでした』
《私も同様に思います》
本当はイルーナが起きるまで側に付いていたかった。だが、アーディエンスにはやることがある。自分の後任の件だ。アーディエンスが神成した以上、使役界は次の大精霊を決めなければならない。
アーディエンスが眠っている間に、ウォーロックが現在の副大精霊に念話で事情を説明し、大精霊選の段取りを整えるよう伝えてくれたそうだ。現在は副大精霊が臨時で大精霊の代理役に就いており、使役界は支障なく回っているという。
とはいえ、こうして目覚めた以上は後任選定の進捗状況などを確認しに行くべきだろう。その一心で、まだ尾を引く睡魔を振り払いながら、イルーナをウォーロックに任せて出て来た。
……正確に言えば、その前にウォーロックも共に最高神の従神になってくれるよう懇願し、互いに譲らぬ攻防があったのだが。
夢の中で最高神たちの従神として――しかも筆頭に近い上位従神として――スカウトされ、それを受けたアーディエンスはより上の神格を与えられ、神威が星雲の煌めきを帯びた。
枕元に付いてくれていたウォーロックはそれを察し、アーディエンスが目覚めた後に祝いの言葉をかけたのだ。自分も神成してからずっと同じ打診をされてるけどもちろん断り続けてるよ、と言いながら。
それを聞いたアーディエンスは、ぜひ引き受けて一緒に従神になりましょうと必死で誘い、自分にその資格はないとゴネるウォーロックを説得しまくり、どうにか粘り勝ちで頷いてもらった。そして、渋々ながら最高神に念話して承諾を伝えたウォーロックの神威も、無事に星雲の光を宿したのを確認してから出立した。
そして、いざ副大精霊の元に行こうとしていたところに、思念のままウロチョロしているラグドールが声をかけて来て現在に至るわけだった。
アーディエンスは足を止め、しばし宙を睨んでから口を動かした。
『……あなたに一つ聞きたい』
《お答えできることならば何なりと》
飄々と述べる声に顔をしかめつつ、続ける。
『俺を助けておきながら、俺とよく似た境遇にいたガレーンのことは助けなかったのは何故です。やはり俺が使える駒だったからですか?』
《ガレーン? ああ、確かガルーンの息子でしたか》
『彼のことは知っているはずだ。5年ほど前、ガレーンに徴が出て死後は神使として昇天するとかどうとかの連絡が入った時、あなたたちも思念として俺の側にいたんだから』
幼いフルードを散々に虐げた男、ガルーン・シャルディ。レシスの神罰に見出されるほどの残忍性と拷問癖を持っていた化け物。ガレーンはその実子だが、残虐の限りを尽くした父親が断罪された頃、彼はまだ乳飲み子だった。
どうにか縁座を免れ施設に入れられて育ったガレーンだが、ひょんなことから徴を発現してしまい、死後は天に昇って神使になる線が濃厚になった。だが、実父の所業が非道すぎたことで、同胞たるフルードを愛する神々から疎まれており、天に彼の居場所はなかった。
非常に複雑な立場にあるガレーンが、将来天に昇って使役となるかもしれない。その情報を内々に知らされた時、アーディエンスはアルシオの後任として大精霊の地位に着任したばかりだった。使役の長だからこそ事前に教えられたのだ。
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