11.先代大精霊は聴いた①
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時は遡り、アーディエンスが神成した数日後。
『聞きましたよ。俺のことを影からバックアップして下さってたんですって?』
思念となったラグドールたちが、いつものように脳裏に声を届けて来たタイミングで、アーディエンスは聞いた。完全な神となった今、コイツらに丁寧な言葉を用いる必要もないのだが、何故か唇は今まで通りの口調で台詞を紡いだ。
アーディエンスが大精霊となった後、爺共の残留思念が周囲をウロつくようになった。何でだよと思いつつも少しの間は慇懃無礼な態度を保っていたが、次第に面倒臭くなって適当な敬語に崩した。先方もそれを気にした様子はなかった。
《アーディエンス様、御稜威が完全なものになっておられます。神成なされたのですね。誠におめでとうございます》
こちらの質問には答えぬまま、澄まし顔ならぬ澄まし声で寿ぎが返る。これは老害爺共の中でも最古参にして原初の精霊、ラグドールのものだ。いつものごとく、食ってかかる相手をサラリといなすような声。
だが、肝心の姿は見えない。彼はもう想念だけの状態だからだ。意思だけの残り滓となってなお、完全消滅を引き延ばしてこちらの周囲をチョロチョロしているのは何故なのか。さっさと昇華して休めば良いものを。そう思いつつ、アーディエンスは別のことを言った。
『白々しい。神々から聞きましたよ。あなたたちがずっと俺のことを取り成してくれてたって。だから俺は大精霊になれたし、神成もさせてもらえて、最高神の従神にまでしていただけたんだ。知った以上は礼を言うべきなんでしょうね』
《そのようなお心遣いは不要にございます。あなたは私にとって大切な存在。お助けするのは当然のこと》
殊勝に告げる声に、アーディエンスは乾いた笑いを漏らした。
『大切、ね。俺が使役界の負の念をどうにかできそうな有用駒で、利用価値があったからでしょう。だから助けたんだ。それが片付いた後も神成まで手助けしたのは、よくできましたっていうご褒美代わりですか?』
《それも理由でございます》
あっさり認めたラグドールに、やはりそうだったかと思う。コイツらにとって自分は最高の歯車だったのだ。
《ところで、御母君にも神格をお与えになられたのですね》
『当然です。神成した後は、真っ先に母を神に上げましたよ。ウォーロック様の所にも行きましたが、あの方は少し前に神になられておいででした。これで俺が守りたかった者はどちらも救われた』
神使が完全な神に上げられた際は、神格を馴染ませるために激しい眠気に襲われ、数日間ほど眠り込む。アーディエンスは襲い来る睡魔に耐えながらイルーナの元へ駆け付け、伏せっていた母を愛し子にして神成させた。
その場で眠りに落ちたイルーナは、無意識に自身で防御を張ってはいたが、アーディエンスも得たばかりの神威で母を包んで二重に守護した。次いで、遠のく意識を叩き起こしながら向かったのはウォーロックの所だ。彼にも神格を授けるつもりだった。だが、彼は一足先に神になっていた。
――ああアーディエンス、良かった、君も神成できたのだね! 本当に良かった! 私も数日前に神に上げていただいて、眠りに落ちてしまっていたんだ。たった今目覚めたところだよ。君の所に行けなくてごめんね
聞けば、ウォーロック自身も知らない内に正規の神格を与えられ、自覚がないまま自身の部屋の寝台で眠りに付いていたらしい。神成したことは、夢の中に出て来た神々や先達精霊たちが教えてくれたという。
自分には神成する資格などないのに、と喫驚したウォーロックだが、今更ゴネたところで取り消しはできない。受け入れるしかなかったそうだ。
その経緯を聞いたアーディエンスは驚いた。アーディエンスとウォーロックは仕事でもプライベートでも緊密な仲にあるが、それでも毎日欠かさず会っているわけではない。時には顔を見ない日が続くこともある。この数日はウォーロックに会っておらず、神成して眠っていたとは知らなかった。これは本当にめでたいことだ。
――アーディエンスは今神成したばかりなの? ああ、イルーナを神にしてからここに来てくれたんだね。それならとても眠いだろう。私が見ておくから、このまま眠ると良いよ。イルーナもここに連れて来て、君の隣で寝かせておくからね
そう言ってくれたウォーロックの厚意に甘え、アーディエンスは意識を手放した。そして、夢の中で最高神の従神にスカウトされた後、神々から色々なことを教えられた。ウォーロックだけでなくあの先達精霊たちも、アーディエンスのことをずっと庇い立てしてくれており、そのおかげで大罪者の息子というハンデを超えて大精霊と認められ、神成も許されたのだと。
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