38話 世の中には変な人とかいるから
洗面台に向かって顔を洗おう……と思ったら、視線を感じた。
振り返るとカトリーさんがじーっと見てる。
「カトリーさん。いいよ、自分のことやってて」
「いいから、いいから。眺めてるだけ。私は暇人なんだから」
気になるけど、まあ……お母さんというのは、そういうものなのかもしれない。
いつもは鏡なんて見なかったけれど、ここには鏡がある。
カトリーさんが嬉しそうに、私の背中を眺めている……のが映っている。
ま、いっか。
それにしても……私って、寝癖立ってるのね……。
いつも寝癖立ってたのかな……なんか、恥ずかしい。
水で濡らせば直るかな。
蛇口を捻って、水を出す。
街では井戸水だったけど、ある程度の設備が整ったところでは蛇口を捻ると水が出る。
だんだんと、街でもそういう風にしていくらしい。
まずは、手で水をすくって顔を洗う。
顔に新鮮な感覚が伝わって来る。
冷たさが気持ちいい。
頭も濡らそう……。
ちょっとずつなんて、面倒くさい。
洗面台に頭を下げて蛇口から直に水を浴びる。
私の髪は短いから大丈夫。
水の冷たさが、私の気持ちを引き締めてくれる。
水の流れが私の心を清めていくようだ。
タオル、タオル……。
洗面台に顔を下げたまま、タオルを探す。
「カトリーさ~ん、タオル~」
「はいはい、タオルはこっちよ」
私が手を伸ばしているのと、逆側からタオルが来て顔に触れる。
「あ、ありがと」
タオルの場所を確認してからにすればよかった。
自分で歩いてこなかったから、調子が狂ったみたい。
それにしても、結構水が飛んだ……。
上着と洗面台の周りに水しぶきが飛んでいた。
上着が冷たい。
ま、いっか。
掃除のおじさんとかが来てくれるし、服は借り物だから脱いでおけば大丈夫。
「カトリーさん。今日は再テストも1個だけだし、家に帰るよ」
私は、残った水滴を顔や頭からタオルで拭いながら言った。
「え? そうなの? じゃあ、私もアパートに帰ろうかな」
アパート……。
マンションの方が高級で、アパートの方が安いんだったかな?
上着は脱いでしまおう。
上半身裸になる。
相変わらず、何もかもぺったんこの身体……3歳だからね。
「カトリーさんって、どこに住んでるの?」
「神界のアパートよ。神殿町326番地、神殿小学校の直ぐそば」
神界の住所言われても……。
「神様の住んでるところだっけ? 私達と同じような部屋?」
制服に着替えながら、話をする。
「うん、フツーよ。私、贅沢しないから」
カトリーさんは、ベッドに座って私の着替える様子を眺めながら答える。
「贅沢はしなそう……。しなそうだけど、その……大丈夫?」
「何が?」
「防犯とか、色々……。神様で夜寝るのってカトリーさんだけなんでしょ?」
カトリーさん美人だから、危ない目に合わなければいいな。
「大丈夫よ。部屋には机とタンスとベッド以外は何もないから、盗られるものないもの」
「そうじゃなくて、女の人が独りで暮らしてたら狙われたりしない?」
他の神様にはカトリーさんより強い人も居るかもしれない。
「あ~、私のことを心配してくれているのね。大丈夫よ、十分なエネルギーで結界もきちんと張ってあるから。それに、私はそんじょそこらの神様よりうんと強いから平気」
カトリーさんは腕まくりして、力こぶをつくって見せる。
それ、全然筋肉出てないから。
「そう? ならいいけど……。世の中には変な人とかいるから」
タナカミノルさんみたいな神様もいるくらいだもの。





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