28話 もう、何も見えない
「どこにいるの?」
さっきのはカトリーさんの声に間違いない。
「ああ、ごめんごめん。ちょっと、透明になって寝てたから入ってきてたの気付かなかった」
急に現れるカトリーさん。
ベッドの上にカトリーさんが寝てた。
「うわっ。そこにいたの?」
全然気付かなかった。
寝てたって……。
「透明になれば大丈夫かと思って」
透明?
「透明なんてのあるんだ~。それなら、ばれないね」
「うん、これは全然疲れないんだよ。たまに、見えないから驚かれるけど」
「驚かれる?」
見えなくなるだけなのか。
「今日はここで寝てたら、おじさんが掃除に来てさあ。気付かずに私の身体を触ってたんだ」
「掃除のおじさんが?」
「色々変だと思ったんだろうね。ベッドの上に見えないものが横たわっているから。あっちこっち色々触るもんだから、くすぐったくなっちゃってさ」
「どこ触らられたの? ちょっと、想像したくないなあ」
ある意味セクハラ……。
「思わず声を上げたら驚いちゃって……腰を抜かして出て行ったよ。あははは」
それって、おじさんからしたら心霊現象だよね……。
カトリーさんはあっちこっち触られて平気なの?
変なとこに触られちゃったら心身共にショックな気がするんだけどなあ。
私は誰か入ってきた時点で端に寄ると思う……。
めんどくさがり屋なのかな。
カトリーさんの感覚に疑問。
「……」
カトリーさんって、女っていう自覚がなさすぎる。
「今日はこれからどうするの?」
そんな私の思いを全く気にせず、聞いてきた。
「あ、そうだ。ご飯食べなくちゃ。ご飯ご飯」
そう夕飯は食べておかないとだ。
「ああ、そっか。生きてるから食べなくちゃだよね。ここで食べるの?」
それじゃ、カトリーさんが生きていないかのような言い方だ。
「学食行くの。ここの食堂はずっとやってるから、時間は心配ないんだけど、お腹すいた~」
「そういえば、お昼何も持ってなかったわよね? お昼もここの学食で食べたの?」
「うん。そう、昨日も今日も学校の食堂で食べたよ。タダで食べられるんだって~」
国が運営する機関だからね。
そういうところは懐が広い。
「美味しい?」
「う~ん、野菜が多いかな。キノキノ草のスープとスライム料理が多い……美味しくはないなあ」
家で食べたほうがはるかに美味しい。
「美味しかったら、私も食べようかなって思ったんだけどなあ」
「カトリーさんはご飯まだなの?」
「まだっていうか~、神様だから食べなくても平気なのよ」
さっきの言葉の意味がわかった気がする。
「へえ~。つまんなくない?」
「栄養摂取のためには食べないけど、楽しむためには食べるから」
嗜好品なのか。
「じゃあ、一緒に食べることもできるのね。いくらでも食べられて、全く食べなくてもいいんだ~。神様って便利~」
「満腹感はあるって。エネルギー分解して終わりだけど……」
「上限がないのかと思ったのに、それはつまんない。じゃあ、トイレ行かないんだ。アイドルの設定みたいだね」
アイドルはトイレに行かないらしい。
「アイドル? そんなの信じてる人は今時居ないよ~。昭和みたいなこと言うのね。その知識のせいだろうけど」
「……じゃあ、ひとりで食堂に行こうかな。カトリーさん行きたくないみたいだし」
透明で一緒に行けば、なんとかなりそうな気がした。
でも、美味しくない料理なんて食べたくないよね。
席も周りに人がいなければ、一緒にいても大丈夫じゃないかな。
「待って~、私も行くよ。透明になるから端っこの方で二人で食べよ」
「え? 一緒に食べてくれるの? カトリーさんがいてくれると嬉しいな。一人は寂しくて」
「嬉しいこと言ってくれる~。いくらゴブリンが早熟と言ってもまだ、3歳だものね。寂しいわよね……。よしよし」
カトリーさんがまた、抱きしめてくる。
そういう意味じゃなくて、食事をひとりで食べるのは……という意味なんだけど、ま、いっか。
カトリーさんのことが私は好きだし、お母さんだし問題ないと思う。
「じゃあ、透明になって。一緒に行こう」
カトリーさんは透明になった。
もう、何にも見えない。





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