関心を得るもの
シュマーユは手始めに自分を厚待遇で迎えよと言った。
これには侶喧やシャーズも図々しいと思ったが、ナイツと李洪は彼女の狙いを見抜く。
「中々の良案かと思われます」
「李洪殿、それは何故でございますか? 私同様に他国の出身者かつ年若い少女を厚遇する事が、豪族達の利点に繋がるとは正直思えませぬ」
飛蓮を頭領に仰ぐ侶喧も、シャーズの様にシュマーユを蔑ろにする物言いではなかった。
ただし、彼女の存在を軽く視てはいる様子。
遠国の出身故に剣合国内での影響力や名声は皆無に等しく、まだ一つの手柄も立てていないのに、重く取り立てるのは筋が通らないといったところだろう。
ナイツは李洪に代わり、涼周にも理解できる様に説明する。
「みんなから顔も名前も知られていないシュマーユだからこそ、都合が良いんだ。名もあり実もある者を厚待遇で召し抱えるだけでは小規模の豪族達は納得しない。「あぁ、あの人が厚遇を約束されたか」「実力のある有名人だから評価されて当然だろう」「これでは自分なんかにチャンスはないだろうな」……そう思えば思う程に豪族達は面白くなくなるよね。強いてはそれが反発の原因にもなる。言ってしまえば、自他共に彼等の存在を底辺と決め付けてしまい、先の無さに嫌気を覚えるんだ。
――でも……遠い他国の、それも仲間になったばかりの無名の女の子が重用されたと知ったら……中には嫉妬も起こるだろうけど、それ以上に何でって思うでしょ?」
「先ずは話題性を以て攻めます。そして豪族達が関心を抱いたところに、私が出向いてこう言うのです。「こんな小娘でも厚遇を受けたんだから、涼周様が貴方々を無視する事はおろか、見捨てる事も絶対に起こり得ない」……と。私がそれを売り文句にしますから、シャーズ様は交渉の場に私を同席させてください。こう見えても向こうでは内政・軍務・外交の補佐官を務めておりましたので、邪魔にはならないと思います」
成る程なと、シャーズを筆頭に皆の理解が及んだ。
(仮に豪族達がシュマーユの素性を深く聞こうとしても、彼女の本当の立場は一部の人間しか知らないから簡単に誤魔化せる。尤もらしく戀王国から派遣された学識者の一人としておけば、いざとなった時に秦恵蘭が合わせてくれるし何とでも説明がつく)
行く行くはシュマーユに豪族達の纏め役を担ってもらう事まで、ナイツは考えた。
後ろ盾がない今のシュマーユだからこそ、話題に上げるにはもってこいな存在である上に、派閥争いの一助を成してきた彼女なら利色の強い諸豪族を難なく統率しそうだからだ。
「承知致しました。ではシュマーユ殿、宜しくお願いします」
無論、シュマーユだけでは面会すら叶わぬ為に、シャーズ等の協力も必要だ。
そして大悪貴族の専横下で人の弱さを知ってきたシャーズ達は、変な蟠りを見せる事なく申し出を快諾する。
そこへ涼周が尋ねる。実際に厚待遇で迎えるにはどうすれば良いのかと、張真から貰った木彫り人形を褒美として与えれば良いのだろうかと。
「いえ、人形は結構です。それは涼周様がお持ちください」
「ぅ! 分かった!」
涼周にとっては宝物であり、それを手放させる事は残酷な所業……もといシュマーユにとっては要らないし何の褒美にもならない。
(それに私……実は木彫り人形たくさん持ってるし……)
戦地から直接剣合国へ渡った為、家に帰る暇がなかったシュマーユ。
彼女の家の一角には、今まで張真が寄越した無数の木彫り人形による常設展示場が併設されており、広く民衆に解放した上でちゃっかり拝観料(子供のお小遣い程度)を頂き、それを政務資金の足しにしている程。やっぱり張真は魏儒の言う通り、その道で名うての名人だったのだ。
然し、シュマーユはそれを言わない。
言えば自分がゲルファン王国出身者である事を知られる為でもあるが、何より四つの人形で一喜一憂する涼周を前にして、「私たくさん持ってますよ」なんて言うのは嫌味極まりないと思ったからだ。最悪、家に連れていけと言われかねない。
「私を厚遇する方法ですが……流石に自分で言うのは気が引けて……」
シュマーユの視線はナイツや李洪、侶喧、シャーズやレモネに向いて游いだ。
すかさず現場監督である侶喧が助け舟を出す。
「では、シュマーユ殿の館を御殿の真横に築きましょう。涼周軍本部兼涼周様の本城の隣に彼女の館が立てば、それだけで重用の証となります。更には警備態勢の強化にも繋がる上、シュマーユ殿は内政・軍務補佐官も務めていたとの事。であれば本拠地統治や軍事運営には欠かせぬ存在である事は間違いなく、円滑な作業を求める上でも館が近くにあれば便利ではないでしょうか?」
「それはいいね。涼周もシュマーユには傍に居てもらいたいでしょ?」
「ぅん。居てほしい。ご飯、一緒に食べる」
侶喧の案に賛同したナイツお兄ちゃんは、一人だけ判断の基準が違う弟に苦笑した。
続いて李洪も提案するが、こちらは涼周に理解できない内容となる。
「それと、シュマーユ殿を確かな要職に就けてはどうでしょうか? 例えば柔巧の内政と涼周軍の補給支援をお任せするべく、彼女を品粮輜官長に任命するなどです」
品粮輜官長とは地方の内政を司り、本軍への補給支援を行う高官。主な人物を挙げるなら淡咲がそうであり、彼女の場合は梅朝守将と兼務している。
ここで言う地方というのが一郡である場合もあれば、広範囲に及ぶ場合でもある。アーカイ州の梅朝、桜上歌、柔巧に加え、キュロ州に含まれる三葉までを淡咲が統治していた様に。
「それもいいね。淡咲の負担が大きく減るだけじゃなく、涼周の軍にも後方支援に特化した人物が稔寧一人だけで大変そうだったし」
明確な任地が定まっていない楽瑜と稔寧は義士城とカイヨーを行き来する事が多く、外の守りは楽瑜が、内の守りは稔寧が務めており、特に稔寧は涼周軍全体の情報管理及び連絡役も務めて多忙だった。
淡咲に関しても言わずもがなで忙しく、彼女曰く「猫の手も借りたいですにゃあ」との事。
そんな折りに現れた後方要員のシュマーユは、正に天の助けと言えた。
方針が定まったナイツ達は早速動き出した。淡咲とナイトに判断を仰ぐ使者を飛ばし、シュマーユ館の設計図を製作するべく大工と打ち合わせも行う。
魏儒にも話の経緯を報告して可否を問うたところ。彼は逸早く賛同の声を上げた。
「にぃににぃに! マーユのお家お花屋さんね! 涼周とおかーさん、花育てる!」
「ふははは…………平和で何よりです。ごめんレモネ、涼周と遊んであげて?」
珍しく軍議に割り込んだ弟の意見を期待した矢先、やっぱり弟は弟だと再認識した兄。
飛び掛かった涼周が手に持つケンタウロスの吹き出し「閃裂轟爆破ァ!!」が後頭部にガツン!! と当たり、想像以上に固い細部の攻撃を受けて涙目になったナイツは、レモネに頼んで涼周をバイカモ鑑賞に出掛けさせたという。




