表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/57

光の帝国

「どこまで行く?」

 トーコが、ミユキに聞いた。

「ホテルまで行きましょ」

 ミユキは、ディスプレイから目を離さずに答えた。

「例の場所、行くんですか?」

 イツキはミユキに尋ねた。

「それはまだ無理ね。今回は大河にウイルスを見せるつもりよ」


 東高情報技術部の基地から、大河たちのABSをトラックに乗せて出発する。

「すげえな、ABSで車に乗るのか」

 大河は自分のディスプレイに、走行するトラックを見下ろし視点で映して眺めている。

「ちょっと歩いて行くには遠いからね。キャリアがないと行動範囲がかなり狭くなるんだ」

 イツキが言った。


 東高情報技術部のキャリアは、いわゆる荷台のついたトラック型である。サイズ的には小型トラックくらいであり、ABSは荷台に最大五機ほど載せられる。

 こういったトラック型のキャリアは、シンプルかつ安価で故障し難い反面、基本的には輸送用であり戦闘用ではないこともあって、攻撃を受けるとあっという間に破壊されてしまうことも多い。

 しかし、サイズの割に載せられるABSや荷物が多く、IFV(歩兵戦闘車)やAPC(装甲兵員輸送車)タイプが主流になっている現在でも、数多く運用されている。特に彼らのような学生には汎用トラック型が安価で便利だった。

 トラックに乗せている間、大河たちのABSは待機状態にある。別に稼動状態でも構わないが、稼働したままだとジェネレーターが作動し続けることになり、少量でもエネルギーを消費し続けることになる。無駄な浪費を避けるためにも、不要な時は待機させておくのだ。


「なるほど、楽なもんだな。……おっ、山道になってきた」

 大河は椅子の背もたれに深くもたれかかると、部室の大型モニターをぼんやりと眺めた。

 部室モニターには、キャリアの視点からの映像が表示されている。人工物が大半だった映像は、もう鬱蒼とした樹々に占領されつつあった。森の中を走っている印象だ。

「もう少し行ったところで脇道に入るんだよ」

 イツキはタブレットパネルに周辺の地図を表示させて、大河に見せた。

「へえ、その先がさっき言ってたホテルなのか?」

「そうさ。そこが目的地だよ」

「なあ、だったらこの道を真っ直ぐ行った先はどうなってんの?」

「その先は「ゲート」よ」

 ミユキが言う。

「ゲート? ゲートって……ワールド同士を繋いでいるっているアレ?」

「そうよ。でもね、そのゲートは開いていないのよ」

「なんで?」

「どこかにそれを開くスイッチがあるはずなんだけどね。それはゲートの近くにある場合もあるし、結構離れた場所にある場合もある。そのゲートは後者の方ね。困ったことに」

「場所わかってんの?」

「それがわかったら苦労はないわ――って言いたいところだけど、どうやらそのスイッチが、これから行く場所にあるという噂ね」

「じゃあ、そのスイッチを探しに行くのか?」

「違うわよ。今回は、あんたの経験値を稼ぎに行くのよ」

「経験値? もしかしてまた訓練……」

 大河は嫌な顔をした。

「当然でしょ。大河、ウイルスと戦うことは、とても大変なことなのよ。前から言ってるけど、やり直しはきかない。奴らも私たちを潰しにくるのよ」


 しばらく進むと、横に一本脇道が見えてきた。イツキは早速、大河に説明を始める。

「ここだよ。この道からずっと先にホテルがあるんだ」

「へぇ、そうなのか。……なあ、この辺にはウイルスは出てこないのか?」

「この辺は昔はそこら中に徘徊していたっていうけど、今はもう僕たち人間側が勢力を回復しているから、ほぼ排除できたっていうね」

 実際、この真夜中峠の周辺ではウイルスを見かける機会はとても少ない。現在はウイルスが発生するのは、大河たちの目的地であるホテルに限られているようだ。

 大河は部室のモニターを見ていて、ふと周辺の様子がおかしいことに気がついた。

「あれ、夜になったのか? なんかやたらに暗いけど」

「このホテル周辺は、夜みたいに暗いんだ」

「大河、フェンリルの視点で空を見てみなさい」ミユキが言った。

「うん? どういうことだ……あっ、空が……青い。ということは、別に夜じゃあないのか」

 大河は驚いた。見上げた空は晴天だった。しかし、目線を水平に持ってくると、森の中は完全に夜の森だ。キャリアはヘッドライトを照らして走行している。

「そうなんだ。森が深すぎて、昼間なのに夜に見えるんだ」

 樹々があまりにも深く茂っているため、空は青いのに、真夜中としか思えないほどに暗い。この場所が「真夜中峠」と呼ばれているのは、こういった特徴から名付けられた通称だった。

 ちなみに、暗いのはこの辺だけではなく、ゲートなどの方でも同様の状態にあるという。

「もう少しよ。……ほら、あれを見て」

 ミユキは、部室の大型モニターに映し出される深い森の道の、その向こうにわずかに見える小さな何かを指差した。

 さらに進むと森の向こうに見えるものが、次第にはっきりとしてきた。

「なんだあれ。建物か何か……?」

「そうよ」

 ミユキがそう言った後、急に視界が開けた。その前方には、大きな建物が建っていた。

「な、なあ……あれ、もしかして、あれが言ってた……」

「そうよ。あれが今回の目的地、『光の帝国ホテル』よ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ