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真夜中峠

「先輩、マヨナカトーゲって?」

 大河は知らない言葉だ。すぐに聞き返した。

「ワールド内にある、特定のエリア名……いわゆる場所の名前よ」

 ワールドには様々な場所がある。現実の世界と同様に、多種多様な地形や建物などがあり、摩訶不思議な世界が広がっている場所もある。

 しかしワールドは、現実と違って一つの大きな世界が広がっている訳ではなく、一定の広さの空間で区切られている。それらのワールドはゲートで繋がっており、ワールドから別のワールドに移動するにはゲートを通らないと行くことができない。

 また、ワールドにも必ずしもすべての場所に行けるわけではなくて、別のワールドからゲートを通ってしか侵入することができないような場所もある。

 何にせよ、ゲートを解放すると、繋がったワールド間のネットワークが高速化したり安定化したり、メリットが大きい。

 ミユキは、部室の壁に備えてある大型モニターに、東高AP周辺の俯瞰マップを表示させた。東高APの周辺は住宅街になっていて、様々な住宅が所狭しと密集している。よく見たら、最近練習で使っている公園も東高APの近くに見える。

「ここってこんなに街中なのか?」

「そうよ。この東高AP周辺は、現実に割合似たイメージになっているわね。それに地形の起伏も小さいから活動しやすいわ」

「へぇ……本当だ。よくできてるな」

 大河は物珍しそうに大型モニターを見ている。なかなか目が離せないようだ。

「まあね。それから、これから行く場所はこっち。ずっとこの山の方」

 目立つ大通りをずっと辿って見て行くと、確かに途中から樹々が多い茂っている地形に続いていた。見れば坂道になっていて、どんどん山を登って行くように見える。

 イツキが大通りの先を指差して、ミユキの説明を引き継いだ。

「すごい森の中なんだ。そこに一本の道が続いている。その先――峠の一番高いところにゲートがあるんだよ」

 ――真夜中峠……そこは東高APのある辺りから東方面にある。

 東高APの周辺は説明の通り住宅街のような場所で、大通りから西には大きな川があって、橋がかかっている。反対に東は山が連なり、この住宅街から一本の道が続いているようだ。真夜中峠はその道の先にあるらしい。

 ミユキは大型モニターの表示を消すと、自分の机を片付けながら言った。

「詳しくは明日、移動しながらも説明するわ。今日はこれで終わり。イツキ、鍵を忘れないでね」

「あ、はい」

「それじゃ、お疲れさま」



 翌日、放課後がやってくると、大河はイツキを引っ張ってすぐに部室に向かった。今日はいつもの練習ではなく、真夜中峠と呼ばれる場所に向かうことになる。

「ちょ、ちょっと! 大河くん――そんなに引っ張らなくても、わっわぁっ!」

 無理に引っ張っていかれたせいで、階段手前にあったわずかな段差で足を引っ掛けて転びそうになった。いや、寸前で持ちこたえようとしたがダメだった。

「あいたた……」

「おい、大丈夫かよ」

 大河は呆れた顔で尻餅ついているイツキに手を伸ばした。

「急ぎすぎだよ。そんなに慌てなくても」

「何言ってんだ。今日はあの真ん中峠だったかいうのに行くんだろ。俺楽しみでさぁ」

「真ん中……いや、真夜中だよ。マ・ヨ・ナ・カ峠」

「へへっ、そうだっけ。まあ、なんでもいいや。早く行こうぜ!」

「あっ、ちょっと! わっ!」

 再び大河に腕を引っ張られて、イツキは転びそうになりながら部室に向かった。


 部室にやってくると、すでにトーコが来ていた。自分の席に座って何か作業している。

「今日はトーコちゃんも参加?」イツキが言った。

「うん。今日は久しぶりに峠に向かうってことは、攻略再開?」

 トーコはディスプレイから目を離さない。

「だろうね。でも多分攻略よりも、大河くんに経験積ませるためかも」

「なるほど」

 トーコは初めてディスプレイから目を離すと、大河の顔を見てニヤリとした。

「な、何だ? 文句あんのかよ」

「ベぇつにぃ……怖くなって腰抜かさないようにね」

「なっ――抜かすわけねえだろっ! そんなもん!」

 ふと後ろから、部室の引き戸が開く音がした。振り向くとミユキが入ってきた。

「あら、早いわね」

 大河はすぐに反応する。やる気満々の表情で答えた。

「当たり前だろ。真ん中行くぜ。楽しみなんだ」

「真ん中? 真夜中でしょ」

 ミユキは訂正した。しかし、そんなことを大河は気にしない。

「まあ、なんでもいいじゃん。やろうぜ!」

 大河はすでにログインを済ませて、基地内にフェンリルを待機させている。待ち遠しくてしょうがないようだ。

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