第二十二話「終わりし暗殺」
「お、お前は!」
「晃様?」
晃の突然の叫びに、シーナは首を傾げる。やはり、シーナにはこの声は聞こえていないようだ。
『久しぶりだなぁ。まあ、俺は、ずーっとお前のことを見ていたから、久しぶりでもねぇんだけどなぁ』
『……どういうことだ?』
『さっきのことか? そのままの意味だよ。あの時も言っただろ? 俺は与える存在。お前が、今望む力を与えてやろうってことだよ。あの少女を……助けたいんだろ?』
どうやら、直接言葉にしなくとも脳内で会話ができるようだ。
「晃様。来ます!」
だが、脳内会話をしている場合ではない。暴走したマナは、待ってくれないのだから。
『苦しそうだよなぁ。助けたいよなぁ?』
マナの攻撃を回避しながたも、謎の声は晃に語り続ける。
『なあ? お前も、今の力じゃ助けきれないって思ってんだろ? だったら……受け入れろ。新たな力を』
彼女を。マナを助けるために……。謎の声は、敵なのか味方なのか今もわからない。だが、今のところは力を与えてくれる存在。
この血を操る力を与えてからも、何をするでもなく。ただただ晃のことを見守っていたようだ。
「くっ!?」
「晃様! どうなされたのですか!」
様子のおかしい晃に気づき、シーナも行動に入らない。晃が、集中していなければこの作戦は成功しないとわかっているからだ。
マナだって、このまま放置していれば体がどんどん壊れていく。
だったら……。
『わかった』
『お?』
『マナを救えるなら……新たな力を、俺は受け入れる!! さあ、よこせ! 彼女を救う力を!!』
『いいぜ。俺は与える存在。お前が望むなら……与えてやるよ! 力を!!』
体に、何かが入ってくる。
駆け巡る。
熱い……湧き上がってくる。これが、新たな力。
「……シーナ!」
「わかりました」
マナを救うべく、晃達は暴走した力を抑え、体内にある暴走の元を取り出すために連携している。
暴走は激しく、辺りかまわず、破壊している。このままでは、街にまで被害が及んでしまう。そうならない内に、終わらせなくてはならない。
ようやく下った晃の指示に、シーナは空間より鎖を出現させマナの動きを封じる。
「アアアッ!!」
「くっ!」
だが、暴走しているマナには一瞬にして鎖を破壊されてしまった。
「だめです。暴走状態の彼女は、私の鎖を簡単に砕いてしまいます。耐えても、十秒が限界です」
「十秒か……」
それだけあれば、まだ希望はある。 そう思った矢先、マナが怒涛の攻めが襲う。晃は、集中力を高めその攻撃をぎりぎりのところで回避していく。
今は、一人のために別のことを気にせずに回避ができているが、攻撃の速度が増し、パターンもめちゃくちゃでどう攻撃してくるのか読みきれない。
「くっ!」
顔を掠り。肩を掠りと、徐々に傷を負っていく。
幸い、致命傷になるような攻撃は受けていないが。このまま、長引かせてもマナが苦しむだけ。そして、時期に晃もシーナも限界が来る。
「これで!!」
ごめんマナ。
晃は、攻撃を回避しマナの右腕を取る。そして、そのまま関節技を決め身動きを封じるために腕の関節を……外した。
(これで、攻撃は……!?)
「アアあアッ!!」
「晃様!」
危機一髪だった。
間接を外し、もう右腕では攻撃はしてこないだろうと思っていたところに予想外の攻撃が。右腕以外に集中していたところに、間接を外した右腕で攻撃をしてきたのだ。
なんとか回避したものの、やはり理性がため攻撃が狂乱している。
「どうやら、間接を外したぐらいではなんともないようです」
「そう、みたいだな」
今の、マナは理性や痛みすらも忘れている。間接を外したぐらいでは、怯みもしない。外した右腕で攻撃をしてくるぐらいだ。
「晃様。今から、私の全力でマナ様を束縛します。それにより、束縛する時間が十秒から三十秒に増えますので」
「……やってみる」
それで、無理なら……この身に捨ててでも。
「では、いきます。空間を旅せし金色の鎖。現象せよ、運命を絡め取る力を、今ここに」
詠唱に入るシーナ。通常の鎖ならば、詠唱なしで瞬時に出せるが、強度の高い鎖を出すには詠唱が必要なのだ。これは、昔見たことがあるから、その強度は知っている。
「アアアアアアッ!!」
「こっちだ!」
詠唱中は、晃が相手の気を引く。暴走により、破壊の能力がさらに上がり、避けた先にある壁に大きな穴が空いた。そこからは、夜風が入り込み体に染み渡る。
「我が眼前に映りし、敵を束縛せよっ!」
刹那。
空間が歪み、黄金の鎖がマナの周りから出現。それは、体に巻きつき先端に付いているアンカーは空間へと深く食い込んだ。
「今です、晃様!」
「ああ!」
三十秒。
鎖が破壊されるまでのこの時間。
―――やってやるさ!
「グガアアアアッ!!」
鎖を無理やり引き千切ろうと暴れるマナだったが、そう簡単には引き千切れはしない。シーナのサポートで、顔を天井に向けている。
晃は、そのまま彼女の体に触れ、能力を発動させる。
「マナ! 今、お前をその苦しみから解放してやるからな!」
「ガアアああアッ!!」
能力が発動。
天井を破壊し、破壊物が落ちてくるも、シーナのサポートで阻止。
月光が差し込む。
室内の明かりはすっかり消え、月光が光るとシーナを照らす。
(急ぐんだ……! マナの体内を蝕むものを、取り除くんだ!)
ギチギチ……と鎖が壊れかけているのが音でわかる。
残り時間は少ない。晃は、マナの血の中を探し回り……見つけた。瞬時に、それだけを取り除くように血を操り……体内で破壊していく。
かなり濃いものだが、新たな力を得た今の晃ならば。
「アアアアアアアアアアッ!!!」
「ごめん! マナ! もう少し、もう少しだから……! 暴れないでくれ!!」
痛々しい姿。
だが、新たな力がなければ、もっと痛々しい姿になっていただろう。最初の予定では、体内に入っている異物を血液と共に噴出させるつもりだったのだ。
だが、新たなチアからを得たことで、血液の中にある異物を的確に破壊することができるようになったのだ。
だが、それでも量が凄まじい。しかも、異物を破壊する毎に、マナが苦しむように暴れている。
異物だけを取り除くような高度な技術。
まだ新しい能力に慣れていないのもあり、緊張感が晃を苦しめる。だが、出来る! 出来るさ、きっと! と自分に暗示をかけるように内心で言いながら、取り除いていく。
しかし、時間をかけ過ぎたのか。マナの肌から血が噴出し始める。そして、シーナのほうも相当きつそうな表情をしている。
「晃様! もう……! 限界、です……!」
鎖も今にも砕けそうだ。
「くそっ! 後ちょっとだって言うのに!!」
晃は、取り除くのを中止し、即座に止血を開始する。それと同時に、鎖は千切れマナは意識が飛んだかのように、静かになる。
先ほどまでの狂暴化のような殺気は……もうない。
「あ……あぁ……あ、れ? わ、たし……」
まさか意識が? 小さな嵐が通り去った後のような部屋は静寂に包まれ、マナの乾い声が聞こえた。
「おそらく完全ではないとはいえ、狂暴化の元である薬物を取り除いたことで、微かに意識を取り戻したのではないかと。ですが、油断はできません」
完全に取り除いていないため、また暴走するかもしれない。それは晃もわかっている。そのうえで、晃はマナへと静かに話しかける。
「わかってる。……マナ。聞こえるか? 俺だ。晃だ」
あまり、刺激させないように穏やかな声で語りかける。その声に、マナは反応しゆっくりと顔を上げてこちらを見る。
「ひ、かるさん? どう、して……私。どうなって……いる、んですか?」
瞳のハイライトがない。おそらく視界は真っ暗だろう。かろうじて耳は聞こえているようだが。困惑している彼女を、早く休ませるために晃は近づいていきながら声をかけ続けた。
「……君は、悪い夢を見ているんだ。大丈夫。そのままゆっくり目を閉じるんだ」
ふらついているマナを抱きしめ、耳元で囁く。
「夢?」
「ああ。次に、目が覚めれば俺が傍に居る。いつもの暗い牢屋のような部屋じゃなくて……もっと、明るくて陽気な気分になれる部屋だ」
そうだ。もう、マナを閉じ込めるようなことはさせない。彼女には、もっと光ある世界で暮らして欲しい。
「本当、ですか?」
まだ不安なのか。マナは、問いかける。
「本当だ。そして、目を覚ましたらまた一緒にご飯を食べよう。今度は、もっと大勢で、な?」
「……はい。それ、は……たのし、みですね。それじゃあ……ゆっくり、おや、すみ……します」
「おやすみ、マナ。また明日な?」
「えへっ」
安心したようにマナは、穏やかな笑みを浮かべ……眠りについた。晃は、倒れるマナを受け止め優しく頭を撫でた。
「これで、終わったのか?」
「はい。まだ、彼女を蝕んでいるものは残っていますが、相当取り除いたので大丈夫でしょう。後は、彼女が回復し目覚めてから、こちらで色々と対処しすることになりそうですが」
「そうだな。約束もしちゃったしな……」
「それは、晃様の責任ですので。晃様で何とかしてください」
「ああ、そのつもりだ」
彼女を救うことが出来てよかった。……だが、晃にはまだやることがある。すぐ気を引き締め直し、眠っているマナを抱き上げた。
「シーナ。彼女を頼む」
「はい」
そしてマナを、アーニャに預け、晃はその場を後にする。本来の目的はイツーナの暗殺だ。今頃イツーナは、どこか遠くへと逃げている頃だろうが、絶対逃がしはしない。
マナをあんな目に遭わせ、苦しめ、利用した。あの外道を生かしておくわけにはいかない。
(どこまでも追いかけて必ず……殺してやる)
・・・・・★
マナを暴走させ、早々に逃走したイツーナ。もうマナは使い物にならない。
だが、他にも研究材料はある。
このまま逃げ延び、次の研究を進めなくてはと、考えながら逃げていたところに、一人の少年が目の前に立ちはだかった。
「よう、じいさん。なーに、にやけた顔しているんだ?」
「貴様は」
氷のような透き通った髪の毛に、ルビー色の瞳。
飄々とした表情は、何を考えているのかわからない。月光に照らされ、果実を片手にイツーナの目の前に現れたのはクルスだった。
晃よりも先にここへと潜入したクルスは、今まで何をしていたのか? イツーナの暗殺であるのなら、晃が潜入する前に出来ていたはず。
だが、彼は何もしていない。ただ騒ぎを起こしただけ。
「俺は、あんたの持っている”あるもの”を狙ってここに潜入したんだ。けど、それだけじゃつまらなくなっちまったんだよ」
「ほう? 貴様も暗殺者のようだな。その容姿。そして私の豪邸で騒ぎになっている氷付けの戦士。貴様が【ブリザード・プリンス】だな?」
「知っているなら話が早い。さっさと、死んでくれないか? じいさん」
果実を平らげ、にやりと笑い殺気を飛ばす。それだけで、イツーナは冷や汗を流してしまう。だが、イツーナは怯みつつも懐に手を突っ込み何かを取り出した。
「んあ? 何をする気だ?」
「ふっ。これは、私の研究の産物。効果は薄いが、身体能力を向上させるものだよ。本当は、研究材料に使うものだが。私は、生き延びなくてはならないのでね。貴様を倒すために、これを私自身に使う!!」
言葉の通り、取り出した注射器を自分の腕に突き刺し中にある薬物を注入させる。
すると、イツーナな体は老人とは思えないほど筋肉が膨れ上がり、体は一回りも、二回りも大きくなった。
自分の体の変化を、確かめるイツーナ。近くにある壁に拳を当てる。壁は簡単に砕け、巨大な穴が開いた。
「ふっふっふ。良い感じではないか」
「はぁ~。ずいぶんと大きくなったもんだな。力も上がっているようだし」
「さあ、始めようか? 今の私ならば、君など一捻りだよ」
「面白いこと言うなじいさん。御託はいいから……来いよ」
余裕の表情で、イツーナを挑発するクルス。
「いいだろう、お望みどおりに貴様を殺してやる!!」
動き出したイツーナ。その巨体からは信じられない速度で、一気にクルスに近づき拳を振り下ろす。
「おっと」
最小限の動きで、回避するクルス。だが、イツーナの猛攻は止まらない。そのまま連続で拳を振り下ろすことで、攻撃する隙を与えないようにする。
「よっ! ほっ! おっとと」
「いつまでもかわしきれるかな!!」
イツーナの猛攻にかわすことしかしないクルス。だが、これは別に押されているからではない。楽しんでいるのだ。
その証拠に、両手をポケットに入れたままヒョイヒョイとかわしている。
それに、気がついた時には相当攻撃をした後だった。
「どうしたんだ? じいさん。もう終わったのか?」
「貴様。楽しんでいるのか?」
「ああ、そうだ。だってよぉ、一瞬で終わったらつまらないだろ? さっき戦った……あー。名前を忘れたおっさんなんて一瞬だったからな。じいさんぐらいは、ちょっと楽しんでみたいって思っていたんだけど」
「む?」
にやっと、怪しく笑うと周りの空気が変わった。
重くなったもあるが、冷たくなってきている。周りの空気が、まるで冬のように寒くなってきている。
周りをよく見ると、凍り付いている。イツーナは、その異変に気づき困惑。
「目的のものは手に入れたし。もう楽しめるようなものはここにはないことがわかったからな。さっさと、退散するぜ」
「ぬぐっ!? な、なんだこれは……!?」
足音から、どんどん凍てついていく。
壊しても壊しても、その氷は離れない。進行速度が速まり、すでに下半身を全て凍てつかせた。
「あんたも、あのおっさん剣士のように氷像にしてやるよ!」
「ま、待ってくれ! わ、私はこんなところで死ぬわけにいかんないのだ!」
「そんなこと知るか。てめぇが、死んだところで俺には何のデメリットもねぇからな。命乞いをしても無駄無駄。それに、ここで逃してもあんたは必ず殺されるぜ?」
「な、なにぃ?」
「まあそういうことだから……もう死ねよ」
「や、やめろおおおおおっ!!!」
叫びは虚しくも届かず。イツーナは、氷付けになってしまった。
だが、まだ死んだわけではない。ただ、動けなくなっただけ。心臓はまだ動いているが、このままだと時期に心臓は停止してしまうだろう。
ダーブのように、氷の槍で殺してしまおうか? そう思ったところで、クルスはとある気配に気づいた。
くるっと、踵を返すと、そこには二つの影が。
「おやおや? 気配を消さないとは。珍しいじゃないですか? アリア、そしてギルヴァード」
「まあね。今日は、お前に用事があって来ただけだもん」
「私は、その付き添いだ」
「ふーん。で? 用事って?」
一つは、晃の師匠でもあり暗殺者の中でもトップクラスの腕を持つ少女アリア。もうひとつは、人間にして魔物の能力を持った暗殺者ギルヴァード。
月光で、その美しい髪の毛は輝き、いつもの子供らしい表情から一変。真剣な表情で、クルスへと問いかける。
それを知っていても、クルスはいつものように飄々とした態度で、二人を見詰めている。
「クルス。お前はいったい何をしようとしているの? 物を盗みに潜入するなんて」
「さあね。企業秘密ってことで」
「私からも一つ。君は暗殺者か? それとも……別の何かか?」
「今のところは、暗殺者なんじゃねぇの?」
二人の質問に、考えもしないでスイスイ答えていくクルス。
その言葉に、偽りが無いことを見たアリアは、眉を顰め目を瞑る。
「……そう。ならいいよ。これ以上は、何も言わない」
「随分と引きが良いじゃねぇか? もっとバシバシ来ると思っていたんだけどなぁ」
質問を終えたアリアは、いつもの子供らしい表情になった。
「だって、愛弟子が来ちゃったからね。これ以上の会話はなしなし! もうお前なんかに興味なんてないもんね!!」
「あれ? アリア師匠にギルヴァードさん? それに……クルス」
「やあ、晃」
「遅いじゃねぇか。お前のターゲットは、俺が逃がさないようにしておいてやったぞ? ほれ、トドメを刺せよ」
そこへ、ボロボロの晃が到着。三人が居ることに驚いた晃だったが。焦った様子で、いきなりアリアが目の前に来たことで別の意味で驚いてしまう。
「ど、どどどうしたの!? 晃!! こんなにボロボロに……わっ!? 仮面まで無くなっちゃってる! 止血はちゃんとしたの? 痛くない? シーナはどうしたの? あの双子はっ!?」
晃がボロボロになっていることを心配するアリアは、師匠というよりもまるで母親のようにあわあわと晃の全身を確認していた。
それを見たクルスは、うわーっと飽きれ。ギルヴァードは微笑ましそうに見守っていた。
「し、師匠。大丈夫ですから。止血もちゃんとしましたし、大した怪我じゃありません。それにシーナもちゃんと来てくれました。今は、救助をした女の子を預けています。ルルカとロロカは……わかりません」
「え? わからない? どういうこと?」
双子のことはわからない。その言葉を聞いた瞬間、声色が少し変わる。
「はい。助けてくれたのは、わかるんですが。その後は会っていません。でも、あの二人のことですからきっと無事だと思います」
「うーん……出来る限りサポートをするようにって言っておいたのに。何をやっているんだ! あの双子は!!」
むすっと、怒るアリア。
っと、そこへ噂の双子の暗殺者ルルカとロロカが楽しそうな表情で現れた。
《やっほー!》
「やっほーじゃない! 今まで、何をしていたの!」
今にも噛み付きそうな睨みで、双子を威嚇するアリア。幻覚か。獣耳や尻尾が生えている。
《探検!》
「探検? そんなことをする余裕があるならもっと晃のサポートをすべきだよ!」
過保護なアリアの言葉に、ルルカとロロカはくすくすと笑いながら手を繋ぐ。
「大丈夫だって。晃は」
「うんうん。大丈夫だよ晃は」
「それに、傷ついている晃を見ているとちょっとぞくぞくしちゃう!」
「ぞくぞく! ぞくぞく!」
《きゃはははははっ!!!》
もう我慢の限界のようだ。アリアは、静かなる怒りのオーラを身に纏わせ。
「この……変態双子がぁ!!」
《きゃああ!! アリアが怒った~! 逃げろ~!!》
いつものパターンになってしまった。先ほどのシリアスな空気が一変し、それを見たクルスはため息をを漏らし、その場を去ろうとする。
それを見た晃は、クルスを呼び止めた。
「待て! クルス!」
「なんだよ」
背を向けたままクルスは立ち止まる。
「お前。本当に、何がしたいんだ? お前の目的はイツーナの暗殺だったのか? それとも」
「こいつはただのお遊びで殺っただけだ。つっても、まだ生きているけどな。トドメはお前に譲る。本当の目的は他にあるが……説明は出来ない。まあ、いずれわかるだろ。いずれな」
そう言い残し、去って行くクルス。その場で立ち尽くす晃にギルヴァードは近づき、肩に手を置く。
「晃。クルスのことが気になるかな?」
「そう、ですね。気になると言えば、気になります。でも、今のあいつはまだ大丈夫だと思うんです」
「……そうか。では、私達も戻るとしようじゃないか」
晃の言葉を聞き、小さく笑うギルヴァード。
「はい」
「こらこら、三人とも。少しは落ち着きなさい」
ギルヴァードはアリアとルルカにロロカを止めに行く。そんな中、晃は氷付けになったイツーナを見つめ近づいていく。
氷付けになったイツーナを見詰め、そっと手をかざす。
「……」
能力を発動。
己の血を刃と化し、イツーナの心臓を貫いた。
(これで、依頼は完了だ……)
あの少女も。そして、マナも。これで少しは救われるだろう。これ以上、被害を出せないためにも、イツーナは殺しておいた方が良かったんだ。
「晃」
「アリア師匠……皆」
いつの間にか、満面な笑顔で晃の隣に立っていたアリア。ギルヴァードとルルカにロロカ。そして、マナを抱えたシーナが晃を見詰めている。
「帰ろっか?」
ぎゅっと、晃の手を握り締めるアリア。その温もりは、最初に出会ったあの頃を思い出す。この温もりが、晃を支えてくれていた。
「……はいっ」
手を握り返し、晃はアリアと共に歩んでいく。
こうして、短いようで、長い依頼は本当に終わった。突然、破壊神の能力に目覚めた少女マナは、苦しみから解放され後に、またいつもの……いや、もっと明るくも楽しい生活を送るだろう。
「すう……すう……」
「いい寝顔だね。すごく、安心してるってわかる」
「そうですね」
気持ち良さそうに眠っている彼女の寝顔を見た晃は、静かに髪を撫でた。




