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第二十一話「操られし少女」

「この先だな」


 ルルカとロロカのサポートもあり、晃は現在イツーナの自室前へとやってきた。中からは三人の気配がする。一人はイツーナ、二人目はマナだとして。三人目はあの黒服の男か? その程度なら、確実に殺せるが。

 なんだろう。この嫌な予感は。

 悪寒。まるで、鼠が蛇に睨まれているかのような感覚。この中に、晃が恐怖するような強敵が居ると言うのか?


(殺気!?)


 ドアの奥からの殺気に気がつき、一度距離をとってしまった。

 しかし、何も起こらない。


「そこに居るのはわかっている。遠慮せずに入ってきたらどうだね? 暗殺者君」


 気配に気づいた? イツーナは、それほど訓練を積んでいるということ……ではなさそうだ。おそらく、この中にいる者が晃の気配に気づいたのだろう。

 晃は、慎重にドアへと近づきゆっくりと開ける。光が差し込み、その先には。


「ようこそ、暗殺者君。君は、見たところ巷で有名な【ブラッド】だね?」

「知っているのか」

「ああ。私は、情報通でね。色々な情報を耳にするんだよ」


 豪華なベッドにテーブルや椅子などの家具。シャンデリアのようなものが天井にぶら下がっており、まさに金持ちの部屋といった感じだ。

 椅子には白髪の老人で白衣を着込んでいるイツーナ。

 その隣に、あの黒服の男に……マナが居た。マナは、まるで魂が抜けたように虚ろな目をしている。

 何かをされたことは、確かだな。


「それで? 今回のターゲットは、私というわけか?」

「そうだ。貴様を殺して欲しいという依頼主が居たからな。……だが殺す前に、一つ聞きたいことがある」

「何かね?」


 チラッと、マナを見た後、再びイツーナを見る。


「そこの少女に何をした?」

「ほう? これに興味があるのかね?」

(これだと?}


 まるで、物扱いだ。イツーナの言葉に、怒りが込み上げてくる。だが、ここは抑えるところだ。怒りに我を忘れ、冷静さを失うのは暗殺者としてはまだまだ未熟の領域。

 抑えるんだ……。


「情報通なら知っているだろ? 俺は、貴様の研究所から依頼を請け、とあるターゲットを殺した。それに関係しているんじゃないのか?」


 とあるターゲットとは、生物研究所で凶暴化していた魔物のことだ。それを耳にしたイツーナは、知っているという表情で喋り出す。


「あぁ、あの件かね。あれは、実に助かったよ。部下も感謝していた」

「お礼を言ってほしいわけじゃない。いいから、答えるんだ」

「……関係あるとも。ただし、あの魔物に使ったものとは違い。完全なるものを使っている。それに、これは普通の人間じゃない。……化け物だ」


 そう言って、隣に立っているマナを軽く叩くイツーナ。

 ……まだだ。まだ冷静さを保つんだ…。


「化け物だと? どういう意味だ」

「そのままの意味だ。知っているかな? 太古の昔、世界を破壊しようと地上に降り立った神の話を。その神は、この地上に破壊を齎した。絶対なる破壊の力だ。破壊神は、己の力を思うがままに振るった。このまま世界は破壊されてしまうのではと人類は絶望した。……しかしながら、破壊神は殺された。他の神々によってね。これで地上には平和が戻った……人類はそう思っていたのだ」


 熱く語りながら、椅子から立ち上がる。


「だが! 破壊神は生きていた! 体は死したが、その破壊の能力だけが転生したのだ!」


 興奮した様子でマナの紅い瞳を指差し叫ぶイツーナ。その話が本当ならば、あの不可解な死に方をした男の説明がつくが……まさか破壊神の力とは、予想外だった。


「そして、そのことに気づいた私は独自にその能力を最大限に引き出し、自由自在に操る術を思考し、完成させた! これの血液の中には今、その薬物が徐々に浸透している。体中に浸透した時……こいつは私の言うことをしか聞かない破壊兵器となるのだよ!! 素晴らしいとは思わないかね!!!」


 ……もう限界だ。ここまで、性根が腐っていたとは。無理やり薬物で操り、その能力を使って兵器として扱う? そんなことが許されるはずが無い。


(いや、俺が許さない)


 晃は、静かな殺意をイツーナに向ける。それに気づいたのか。イツーナは、笑みを浮かべた。


「そんなことはさせない。貴様を殺し、その少女を救う」

「出来るのかね? 殺すことしか能の無い暗殺者に?」

「出来るさ」

「ほう? 自信満々だね? だったら、時間が無いぞ? 薬物が体中に浸透しきったら、もう元には戻せない。どうやって救うのかは知らないが、解毒薬のようなものは一切無いのだよ?」


 そんなものは要らない。イツーナは、先ほど”血液の中”と言っていた。血液に混じりながら血管を通り体中に浸透していく。

 つまりは、その血液の中にある薬物を取り除けば良いだけ。

 晃の能力なら、血を操る能力なら出来るはずだ。やったことは一度も無いが、直接マナに触れることで血液の中からその薬物だけを取り除く。

 やってやる。それにはまず、マナをイツーナから奪わなければならない。


「いくぞ!」


 時間が無い。

 晃は、一気に駆け抜けマナへと近づいていく。


「ふっ。無駄なことを……やれ」

「なっ!?」


 イツーナの一言で……マナが動いた。マナは、予想もつかない素早さで晃に近づき、蹴り飛ばした。

 まだ、薬物は浸透しきっていなかったんじゃなかったのか? イツーナは、不敵に笑みを浮かべながら蹴り飛ばされた晃へと説明する。


「何の対策もなしに私が、無防備に姿をさらすと思っていたのかね? 残念ながら、すでに一時的なものだが私の言うことを聞くように調教はしてあるのだよ。まあ最終実験が成功すれば、完全に私の言うことしか聞けなくなるのだけどね!! 見たまえ! 今の状態だと、こんなことをしても何も反応を示さない!」


 そう言って、横に立っているマナの胸を鷲掴みにし、晃に見せ付けるように揉む。イツーナの言うように、マナは無反応だった。


「外道が……!」

「そんな口を利いていいと思っているのかな?」


 パチン! と指を鳴らすと突然マナの紅い瞳が輝きだす。

 やばい! そう直感した晃は即座に身を転がし、距離をとった。案の定、先ほどまで居た場所は軽いクレーターのようなものが出来上がっていた。

 どうやら、仮面にそれが掠ったらしく外れてしまっている。


「それが、君の素顔か。随分と若いじゃないか。まだ、酒の味も知らないんじゃないのかね?」

「お前は!?」


 仮面がなくなったことで、素顔を見られてしまった。

 それにより、黒服の男が反応。

 イツーナは、黒服の反応を見て「どうした?」と問いかける。


「あの男です! 実験体と一緒に居た男は!!」

「ふむ。その話が本当なら、君は私の暗殺をする名目で貴重な実験体を助けに来たということかな?」

「……」

「無言か。そう簡単には、話してはくれないとか。さすがは、プロだ。だが、その余裕がいつまで続くかな! やれ!!」


 命令が下り、マナが動く。晃は、最小限の動きでなんとか攻撃を回避するが。あの能力が厄介だ。発動するタイミングがあるからまだ避けるのは簡単だが、食らったらアウトだ。


「マナ! 目を覚ますんだ! お前は、こんなことを望んでいるわけじゃないだろ!?」

「……」

「お前は、もっと心優しい人間だ! 破壊神でも、化け物でも、兵器でもない!!」

「ははははは!! 無駄だよ、無駄! 今のそれには、君の言葉など聞こえはしない。いや……聞こえているが言うことを聞かない! 今は、私の命令を忠実に従う破壊兵器として君を殺そうとしているのだよ!!」


 どうしたらいい? ここは、捨て身で試してみるか? いや、血液に混ざっているなら確実に動きを封じてからじっくりやらないとだめだ。

 そうでないと、こっちがやるまえに殺られるか。ミスをしたら、最悪マナの命を奪ってしまう恐れがある。だが、動きを封じようにも、今のマナを手加減なしに封じることは至難の業。

 一撃を見事に回避し、背後へと回り込む。いくらなんでも、後ろにまではあの目の力は届くまい。そう見越した晃は、動きを封じるべく攻撃をしようとするが、イツーナは笑う。


「甘いな」


 あの黒服の男が動いていた。ただの付き人じゃないとは思ってはいたが。完全に背後を取られてしまった。


「ちっ!?」


 脇腹に、強烈な蹴りが入った。晃は、吹き飛ばされせっかくのチャンスが無駄になった。痛む脇腹を押さえながら体勢を立て直すも、すでにマナは目の前まで来ていた。

 これを危なっかしく回避し、横へ跳ぶ。しかし、横から黒服が現れ拳を振りかざす。


「はっ!」


 受け流しそのまま投げ飛ばす。黒服を遠くへ飛ばすが、マナが追撃してくる。

 何とか回避するも、やはり二人係では分が悪い。黒服だけならば、容易い。マナだけでも容易い。だが、そこに集中力のいるものが加わると、途端に難しくなる。


「余所見をしている場合か?」


 拳を一発貰い、体勢が崩れる。そこへ、マナが容赦なく飛び込み目を輝かせる。


「しまっ!?」

「残念ですが……乱入させていただきます」


 やられた。そう思った。一瞬、あの裏路地で死体となっていた男のようになってしまうんじゃないだろうか? と思ってしまった。

 しかし、突然マナが横にズレていったのだ。よく見ると、手足に鎖が巻き付いている。

 それも何も無いところから。まるで空間から飛び出ているようだ。

 あの鎖……そして、さっきの声は。


「ブラッド様。アリア様の命により不肖ながら、サポート役として参上いたしました」


 いつものように無表情ながらも、丁寧な言葉遣いで登場したのはアリアのメイドであるシーナだった。

 さすがにイツーナも黒服の男もシーナの登場には驚いているようだ。

 特に、マナを封じている鎖に。


「やっぱり、あの鎖はお前のだったのか」

「はい。私の能力はサポートとしては役立つことかと思います。主様から大体のことはお聞きしています。あの少女の血液の中に入っている薬物を取り除くために、私が動きを封じさせていただきます」

「なんで、そのことを?」

「説明をしている暇はありません。どうやら、私の鎖でもそう長くは持たないようです」


 見ると、動きを封じられていたマナが破壊の能力を使って鎖を壊していた。

 やっぱり、目の届く範囲だとだめのようだな。

 アリアが、どうしてマナのことを。晃がやろうとしていることを知っているのか、気になるところだが。ここは、ことを片付けることに専念するとしよう。


「まずは、あの黒服から片付ける。俺が、マナの相手をしている間に、あいつを片付けてくれ。頼めるか?」

「了解です。その後の命令は?」

「マナの能力はあの目だ。あの目が届かない範囲。つまり背後を取って動きを封じれば大丈夫なはずだ」

「……では、作戦を実行します」

「ああ」


 同時に動く。晃はマナへと。シーナは、黒服の男へと向かう。


「貴様!」

「あなたの相手は私が。あまり時間をかけられないので、一瞬で終わらせていただきます」

「なめるな!!」


 あっちの戦いが始まった。晃は、なるべくマナの視界に入らないように素早く動きながら戦う。


「そこだ!」


 背後を取り、押し倒すようにマナを地面へ伏せ体に手を置く。マナは何とか振り払おうと動くが、それを晃は無理やり押さえつけ能力を使おうとする。


「ぐっ!?」


 失敗だった。隠しナイフを取り出し、無理やり腕を曲げて光るに攻撃を仕掛けてきた。ぎりぎり腹部を掠ったが、この程度なら問題ないと再び行動に移る。


「くそ!! なんだ、この鎖は!! どこから出てきているんだ!?」

「残念ですが説明すると長くなるので、亜空間からとだけ」

「信じられるか!」

「……では、失礼」


 全身に巻きついた鎖は、一気に黒服の体を締め上げ……命を奪った。

 その後、鎖は消えその巨体は崩れ落ちる。


「ええい!! 何をやっているんだ!! ……こうなったら、仕方ない。まだ、実験不足だが。戻って来い!!」


 イツーナの声に、光るから振り切りイツーナの下へ戻るマナ。

 いったい何をする気なんだ?


「もう一本だ。どうなるのかは……お楽しみだ!!」


 取り出したのは、注射器。

 まさか!? と動くも。


「やめろ!!」

「もう遅い!」


 注射器を首に突き刺し、それを……注入した。

 刹那。

 マナの体は振るえ。


「アアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

「ま、マナッ!!!」


 絶叫し、今までに無い輝きをする紅い瞳。

 目だけではなく、体中から紅いオーラが溢れ出ていた。


「さあ! もう止められない! 二本目を注入したのは、これが初めてだ! 徐々に浸透させるのが一番だったが。この際仕方の無いこと! さあ、破壊神ガダルオの転生体よ!! 全てを破壊しつくせ!!!」


 言うだけ言って、やるだけやって背後にあった隠し通路から、勝ち誇った表情で去っていく。

 まだチャンスはあったっていうのに。二本目を注入されたことで完全に暴走している! 


「晃様」

「……わかってる。俺は、暗殺者だ。ターゲットを殺すのが俺の仕事。だから……俺は、彼女を苦しめるものを必ず殺す!!」


 そうだ。自分は暗殺者だ。だったら、彼女を苦しめているものを殺して……解放するんだ。

 やってやるさ。

 自分の力を信じるんだ。


「破壊! 破壊!! 全てを……破壊する!!!」


 だが、どうする? 今の能力では力不足。

 そう思った刹那。


『だったら、与えてやろうか? 力を』


 懐かしの声が脳内に響き渡った。


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