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エピローグ

 マナは、暗闇の中に居た。今、自分がどうなっているのか。どうしてこんな暗闇にいるのか。

 どうして、一人なのか……わからない。

 だが、わかることが一つだけある。


(私は、どうして……どうして、こんな力なんかを)


 己の掌を見ると、大量の血が付着している。

 体中にも。

 そして、周りには死体の数々が、ゴミのように転がっている。


(殺した。私が……! この力……殺してしまった……!)


 人殺しになってしまった。この化け物の力で。いつ自分に宿ったのか。いつ発現したのかわからない、全てを破壊する力。

 この力で、自分では意識していない中、たくさんの命を奪った。

 もう、あの日常へは戻れない……。


 ―――あの日常?


(日常ってなんだっけ? 私の日常って……あれ? そういえば、覚えていない。わからない……)


 知っているのは、暗い牢屋での日々。

 度重なる実験。体に投与される時の体を刺す痛み。そして、たまに、外に出られる。不自由に見えて、自由。だけど……やっぱり不自由。


(それが、私の日常? でも、それ以前にもっと違う日常が、あったような……あれ?)


 思い出せない。

 記憶の奥底まで探しても……何も、思い出せない。


 本当に、自分には明るい日常なんてあったのだろうか? それすら、わからなくなってきている。もしかしたら、生まれた頃からあお牢屋で暮らしていたのかもしれない。

 そして、こんな化け物みたいな力を持っていたから……何もかもなくなったんだ。


(どうせ、日常に戻っても……こんな血だらけの手を取ってくれる人なんて)


 いない。

 もう疲れた。このまま、眠ってしまおう。そうすれば全てがなかったことになるかもしれない。そう重いながら、目を閉じようとする。

 しかし。


(あれ? なんだろう……この光?)


 目の前に、眩しいばかりに輝きがマナを照らす。

 どうしてだろう? この光に照らされていると心が落ち着く。今まで、マイナス方向に考えていた思考が、プラスの方向へと導かれる。

 いつの間にか、ゆっくりと手を伸ばしていた。誰かが、誰かが呼んでいるような気がする。


 もしかしたら、この血だらけの手を握ってくれる人が……!


「この先に!!」


 光に手が包み込まれた。

 刹那。

 辺りの闇を照らし、マナの手を誰かが握り返してくれた。それは、とても温かく、頼もしく、いつまでも握っていたい手だ。

 光が空間を照らしつくし、マナはその眩しさに目を瞑ってしまう。

 体を覆っていた闇が、まるで浄化されるかのようだ。


「―――あ、れ?」


 次に目を覚ますと、見知らぬ天井。

 いつもの薄暗い牢屋の天井じゃない。そして、マナは右手に温もりがあることに気づく。

 チラッと、横へ視線を向けると。


「起きたか」

「あっ」


 出会いは、奇妙なものだったが。それでも、自分に優しく親身になってくれたあの人が……手を握っていてくれていた。

 晃だ。


「どうした?」


 固まったまま、反応しないことに首を傾げる晃。

 だが、マナは直ぐにくすっと微笑む。


「いえ。なんだかずっと悪夢を見ていたような気がしまして。その悪夢では、奇妙な力でたくさんの人を……殺していたんです。いっぱい、いっぱい血で汚れてもう、誰も私の手なんか握ってくれないんだろうなって」

「……」

「でも……こうして、握ってくれる人が居ました。私を悪夢から、救ってくれた人が居ました」

「そうか」


 ぎゅっとより強く晃の手を握り締める。


「晃さん」

「ん?」


 天井を見詰め、その左右非対称の瞳が同時に光るを見た。その表情は、穏やかでとても嬉しそうだった。

 もう、あの不気味な輝きは無い。

 美しい宝石のような瞳だ。


「おはようございます。良い、朝ですね」


 窓から差し込む日差しに負けないぐらいの笑顔を、マナは晃へ向けた。


「ああ。おはよう、マナ。まあ、もう昼だけどな」

「え? そ、そうだったんですか?」

「嘘だ」

「か、からかわないでください!」

「すまんすまん。だけど、もう本当に大丈夫みたいだな。安心したよ」

「……はい」




・・・・・★




 マナが目覚めて、次の日。

 晃は、マナを連れて、依頼主である少女ユズ・ナーデルと出会っていた。


「マナ!!」

「ユズ……」


 視界に映る光景は、少女達が抱擁を交わす姿。ユズは、マナに抱きつき涙を零し、マナはなんとも言えない表情でユズの抱擁を受け止めている。

 晃は少し離れたところから観察しているように見詰めていた。【ブラッド】という素性がばれないようにしている。

 今の晃の立場は、マナの付き添い。

 戻ってきたマナは、まだ完全に回復しているわけではないために付き添いが必要となる。

 そこで、現在光るの隠れ家……家で預かっていることになっているということにしておいているため、晃がこうして付き添いをしているわけだ。


「本当に! 本当によかった! あたし、ずっと心配してたんだよ!」

「ご、ごめんなさい。心配かけちゃって」

「ううん! こうして無事に戻ってきてくれて、あたしは嬉しい! それだけで、満足だよ!!」


 良い友達だ。

 これだけ、マナを想っていてくれる友達が居るのは、彼女にとっても嬉しいことだろう。


「あ、あの。ユズ」

「なに?」


 そこで、マナが言い難そうな素振りで、ユズへと問いかけようとしている。

 おそらく自分の能力について。

 ユズの話から、マナは彼女の目の前で無意識にだが、能力を発動させて人を殺した。そんな光景を目の当たりにして、どう思っているのか。

 それが気になっているのだろう。


「その……こ、怖くないんですか? 私はあんな能力を持っているから。えっと……」

「全然!!」

「え?」


 即答だった。

 それは迷い無き答え。曇り無き、嘘偽りの無い素直な答えだった。


「だって、世の中にはもっとすごい能力や魔法なんかがいっぱいあるんだよ? 今更怖くなるとかないない!! それに、親友を怖がるなんて尚更無いから!!」

「本当に、ですか?」

「うん! もち!」

「……ありがとう、ございます!」


 涙が流れる。嬉しさと安心感から、大粒の涙を流すマナ。

 不安だった。

 もし、自分の存在を怖がられたら。記憶を失っているにしろ、相手は親友。親友に、化け物扱いされて、拒否されたらどうしようと。

 しかし、全然問題なかったようだ。これには、晃も嬉しそうに笑みを浮かべる。


「ほらほら。泣かない泣かない」

「うぅ……! す、すみません」


 マナの涙をハンカチで拭った後、ユズは何かを言いたげに、静かになる。


「ねえ、マナ。あの時、言いそびれたことことがあったんだけど。実はあたしね。ギルドに入ったんだ」

「ギルド、ですか?」

「そっ! そんで、なんと! あの【猛火の剛剣士】のパーティーに入れてもらえたんだ!!」


 ……あのガイのパーティーにか。猛火の剛剣士というのは、ガイに与えられし称号のようなもの。ガイは、店の店員でありながたも腕利きの冒険者でもあるのだ。

 あそこは、かなり腕を持った冒険者が集まっているところだ。新人にして、そこに入れるのは本当にすごいことだ。

 誇っても問題はない。


「な、なんだがよくわかりませんけど。す、すごいですね!」

「うん! ずっと、憧れていたあの人の傍に居られるんだから! はぁ……感激だよ!!」


 実力もあり、料理の腕もよく、面倒見もいい。女子からの人気は、かなりのものだ。噂では、ファンクラブなるものもあるとか。


「それでね? ものは相談なんだけど……マナ。あんたもギルドに入らない? そんで、一緒のパーティーで冒険者をするの!!」

「私が冒険者に、ですか?」


 まさかとは、思っていたが、本当に勧誘だったとは。さて、どうする? マナ。


「あんな思いをした後で、言うのも間が悪いと思うんだけど。あたし、マナと一緒に居たいって思っているの! だから……ど、どうかな?」

「えっと」


 迷っている。自分には戦えるだけの能力があるが、まだ完全に制御が出来ていない。そして、たくさん人を殺してきてしまった。

 親友からの勧誘は嬉しい。

 だけど、自分が本当に入ってもいいのか? おそらく、そんな迷いがあるのだろう。


「大丈夫だよ。あたしは、マナの本当の気持ちを知りたいだけ。強制はしない。自分の進む道を言って、マナ」

「私は」


 チラッと、晃を見るマナ。

 そして、何かを決断したのか。

 真剣な表情で……ユズへと告げた。


「ギルドに入るのは、すみません。お断りします。せっかく、誘ってくれたのに……ごめんなさいです」

「……ううん。いいんだよ。それがマナの決断なら。それで……ふむ」

「ん?」


 マナと晃を交互に見てくるユズ。

 どうしたんだろう? と晃もマナも、わからず首を傾げる。


「頑張りなさいよ?」

「え? な、何をですか!?」

「ふっふー。あたしも、頑張るから。マナも、自分の選んだ道。後悔なんかしないで進みなさいね?」

「……はい!!」

「それじゃあね! 今度は、一緒に買い物でもしようね!!」

「わかりました!!」


 そんな約束をし去って行くユズは、途中で、晃のところで止まり頭を下げてくる。


「マナのことを、よろしくお願いします!」

「……ああ」


 それだけ、言って足早に姿を消していった。


「晃さん」

「……あれで、よかったのか?」

「はい。あれで、よかったんです」


 晃の隣に並び、小さくなっていくユズの背中を見詰めたままマナは静かに呟く。


「一応、聞くけど……こっちの世界に来たら、後戻りは出来ないぞ?」


 マナの決断。それがどんなものなのか察していた晃は、あの時。アリアが、自分を誘ってくれた時のように告げる。


「覚悟の上です。それにもう、たくさん人を……殺めてしまいましたから。せめて、その償いと言うのでしょうか? 私のような人が増えないように。私が、この力で……護ってあげたいんです!」


 拳を握って己の決断を告げるマナ。その瞳は、強い意思を感じ取れた。迷いは無いようだ。


「そっか。それじゃあ、これからは同じ仲間同士。仲良くしていこう。これから、よろしくな」

「はい!!」


ギリギリ十万文字、か? とりあえず、いつもの途中完結です。

続きをいつ投稿するかはわかりませんが。

まずは、これで完結です!! ではでは!!

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