第二章:奈落の底へ 新しい能力
第二話です!
第三話も面白いので、しっかり覚えて楽しんで読んであげて下さい!
シンは右も左もわからず、奈落の奥底へと突き進んでいく。依然として両足は失われたままだ。凍りついた傷口から感覚が消え失せていく。
手に入れたA級の力を定着させ、この奈落を生き抜くためには、まずこの肉体を五体満足に戻さねばならない。
「動け……動けッ!」
シンは新たに得た【影潜伏】を使い、自らの身体を影へと沈み込ませた。地面を這うようにして暗闇を進むシンの前に、奈落のさらなる深淵から、禍々しいプレッシャーを放つ影が立ちはだかる。
それは、奈落の劣悪な環境に適応し、いかなる打撃をも無効化する巨大な半透明の漆黒粘体――『奈落スライム』。
いや、それだけではない。その粘体はドロドロと形を変え、シンの目の前で全く同じ姿をした三体へと「増殖」したのだ。
通常の物理攻撃を完全に透過する肉体。それが複数に分かれ、意思を持つようにうねりながら一斉に襲いかかってきた。
「――舐めるなッ!」
シンは【神速】を発動。視界が引き伸ばされ、世界が静止したかのような錯覚の中、両足の無い身体を感じさせない速度で、突進してくる粘体の隙間をすり抜ける。魔獣にはそれぞれ位置が違えど、『核』が存在する。その核を壊すと魔獣は消滅する。背後の影へと【影潜伏】で飛び込み、一体の奈落スライムの死角である真後ろから飛び出した。シャドウ・ウルフの爪の如く鋭く研ぎ澄まされた拳が、その中心にある魔核を狙って深く突き刺さる。
だが――。
「チッ、手応えがない……!?」
拳は粘液を捉えたものの、抉られたはずの肉体が一瞬で編み上がり、傷跡すら残さず完全に元通りに『再生』していく。それどころか、シンの拳に削ぎ落とされたはずの破片が蠢き、四体目のスライムとして新たに『増殖』を始めた。
あらゆる打撃を無効化する『再生』と『増殖』の絶望的な無限ループ。
「ならば、増えるよりも早く、再生が追いつかないほどに破壊するまでだ!」
そこからは、文字通り死闘だった。
シンは【神速】で限界を超えた速度の連撃を繰り出し、【影潜伏】でスライムたちの猛攻を紙一重でかわし続ける。しかし、どれほど肉を削ぎ、核を狙っても、流動する悪魔の粘体は即座に再生し、その数を増やしていく。四体、五体、六体……。徐々にシンの体力と魔力が底を突き始め、焦りが生じる。
(クソ、これだけの速度で動いても、奴らの再生と増殖の連携に捕まればジリ貧だ……。一瞬で、すべての個体を制御している『真の核』を抉る決定打が必要だ!)
スライムから触手のように伸びた鋭い打突がシンの肩をかすめ、鮮血が舞う。だが、シンはその痛みを無視して前へ踏み込んだ。否、踏み込む足は無い。影の力で強引に自らの身体を前進させたのだ。
増殖した何百体もの奈落スライムたちが勝ちを確信し、シンの全身を押し潰さんと一斉に覆いかぶさってくる。
その瞬間、シンは【影潜伏】で自身の身体を空間ごと影化させ、その質量攻撃をすべて透過。一瞬の隙を突き、スライムたちの包囲網の、その中心へと完全に潜り込んだ。
すべての個体が影の粘液で繋がっている――その中心、最も深い闇の底に、歪に脈打つ巨大な「真核」が見えた。
「――喰らえ」
シンは【神速】を一点に集中させ、鋭く尖らせた右腕を、奈落スライムの真核へと突き立てた。
パリィィィンッ!
結晶の砕ける鮮烈な音が響く。真核を破壊され、初めて再生と増殖が完全停止したスライムたちが、形を保てずにドロドロと崩れ落ちていく。
「お前たちのその能力……俺の肉体の一部になれ」
シンは機能を失いかけたスライムの核を、迷わず口へと放り込み、次々と貪り喰っていった。
――『捕食』、発動。
『個体名:奈落スライムの捕食を確認。固有スキル【再生】【細胞増殖】【物理耐性】を獲得しました』
アナウンスが脳内に響いた直後、シンの全身を強烈な熱量が突き抜けた。
凍りついていた両足の傷口から、ドクドクと禍々しい魔力が噴き出す。骨が瞬く間に伸長し、筋肉が【細胞増殖】によって爆発的に編み上げられ、【再生】の力で皮膚が滑らかに覆っていく。
わずか数秒。失われたはずの両足が完璧な形で、以前よりも遥かに強靭な肉体となって新生した。
ゆっくりと立ち上がり、新しく生え変わった足で力強く地面を踏みしめる。
ウルフの【神速】、そして奈落スライムから奪った【再生】と【増殖】。かつて「ゴミスキル」と嘲笑された能力は、奈落の怪物を喰らうことで、文字通り神の領域へと進化し始めていた。
シンは、己の影の奥底で息を潜める魔獣たちの気配を感じながら、暗闇のさらに奥を見据えた。
「待ってろよ、黄金の獅子……。俺をハイエナと呼んだこと、骨の髄まで後悔させてやる」
最底辺の捕食者が、ついに牙を剥いた。ここからシンの、世界を揺るがす孤独な逆襲劇が始まる。
――だが、ふとシンの脳裏に、ある奇妙な違和感がよぎった。
スライムの身体を維持し、再生と増殖を司っていた、あの明確な結晶――『核』。
では、なぜ最初に倒したシャドウ・ウルフには、そんなものは無かったのだろうか。同じ奈落の魔獣でありながら、喉笛を噛みちぎっただけのあの狼には、なぜ壊すべき『核』が存在しなかったのか。
その疑問の答えを探るように、シンの視線はさらに深い奈落の闇へと引き込まれていった。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
第三話で展開ガラッと変わります!
次回の更新予定もお楽しみにしてて下さい♪
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