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第9話 帰らざる坑道1

 ノアルは部屋を追い出された後、扉の正面にある壁に寄りかかり着替えが終わるのを待っていた。


 その間、部屋の中からは、ベルがユアナを着せ替え人形にして楽しんでいる声が聞こえてくる。


 「終わったわよ。さあ、入って」


 しばらくしてベルに呼ばれ小部屋に入ると、すぐに先ほどの装備に身を包んだユアナに目を奪われた。


 首元から肩のラインを露出させた白のオフショルダーのふわりとしたトップス、それを腰のダークブラウンのコルセットがキュッと引き締め、露出した肩のすぐ下からは瑠璃色のマントが翻っている。

 下半身はひざ丈の翡翠色のフレアスカートが揺れ、足元は脛丈のダークブラウンのショートブーツで固めていた。


 これなら冒険者に見える。


 「どう? 似合っているでしょう?」


 両手を腰に当て、誇らしくベルが話しかける。


 「うん! とても似合っているよ! ユアナの感想は?」


 「動きやすいからダンジョンでも問題なさそう」


 「ユアナちゃんはダンジョンのことしか興味ないみたいね。せっかくこんなに可愛いのに」


 ベルの言うとおり、先ほどからノアルの目はユアナに釘付けになっている。


 「あとは、絡まったり、掴まれたりするから髪の毛も短くした方がいいんだけど、ユアナちゃんどう?」


 「髪……。髪はこのままでいい」


 少し考えた後、ユアナは答えた。


 「そうよね。髪の毛は女の子の命だもんね。自分で言ってなんだけどこんなに綺麗な髪の毛を切るなんてもったいないわ」


 小部屋の窓から差し込む陽の光が、ユアナの髪に乱反射しキラキラと光り輝いている。


 「じゃあ、これで準備は終わりね。武器はないけど巫女だしその分ヘイトも減るから大丈夫だわ。ノアル君もいつまでも見とれていないで準備はできているの?」


 ベルに言われて、さっきからずっとユアナに見とれていたことに気づいた。

 

 「そ、そんなことないよ。俺の準備は大丈夫さ。でも、ベルさんも昔は可愛い服着ていたんだね」


 仕返しとばかりにベルをからかうノアル。


 「ふん! 私だって昔はユアナちゃんみたいに可愛かったのよ! ユアナちゃんの冒険者登録の準備はしておくから行ってらっしゃい。と、そういえば今日はどこのダンジョンに行くの?」


 ユアナの隣に立つ、ノアルがはっきりとした口調で言った。


 「『帰らざる坑道』さ」


 …………。


 …………。


 それはクーリアの街の正門を出て街道沿いに南下した後、道を外れた森の中をしばらく進んだ先の断崖で口を開けている。


 距離でいえば『微睡みの廃殿』に比べれば幾らか街に近いだろうか。


 『赤月の行進ブラッディマーチ』以降、このダンジョンからモンスターが溢れ出てきたことはなく、ダンジョンが成長しているような様子もない。

 

 そのダンジョンの入り口にノアルたち二人は立っていた。


 「ユアナ。シールドを使ってみてほしいんだけど、お願いできる?」


 ベルはシールドを一定の攻撃を防ぐ防御障壁だと言っていた。


 攻撃手段を持たないユアナの安全のためにも効果を確認しておきたい。


 「うん。やってみる……」


 ユアナは目を閉じ、ゆっくりと両手を胸の前で合わせた。その姿は何かに祈っているように見える。


 「……シールド」


 ユアナの言葉に応えるように、二人の頭上から足元へと半透明の球形の膜が張られ、そして消えた。


 「これがシールド……。ありがとうユアナ!」


 シールドの膜は消えて見えなくなったが、確かに周囲に存在することが感じられる。


 ユアナは初めてスキルを使ったはずだが、特に感慨などはないようだった。 


 「じゃあ、行こうか。ユアナは俺の後ろから離れないで、危なくなったらすぐ逃げること。いいね」


 「うん。わかった」

 

 ユアナの返事を確認し、ダンジョン内の入り口をくぐった。


 ……内部はいつ誰が設置したのかもわからない腐敗した木製の支保工が各所を支えていた。壁には空のランプの灯火が揺らめいているが、先の方は暗く何があるか見ることができない。


 入り口から少し進んだところで、奥の方からガチャガチャとした音が聞こえてきた。


 「ユアナ気を付けて。モンスターが来る」


 ゆっくりと暗闇から姿を現したのは、徘徊する人骨『ソードスケルトン』。その右手にはボロボロに刃こぼれした長剣が握られており、こちらを見つけたのかゆっくりと歩いてきている。


 いつも倒していたレベル2のこいつなら負ける気はしない。少し危ないかもしれないけど試してみるか。


 ノアルはソードスケルトンの進路を遮るように前に出る。


 それを見たソードスケルトンは長剣を両手で握ると頭上に振り上げ。


 《い゛っどう゛りゃうだん》


 不気味な声と共に力のままノアルに向かって振り下ろした。


 それは特に速い攻撃ではない。『ダッシュ』を使わなくても、今のノアルなら難なく避けることが可能……のはずだが、彼は微動だにしない。


 長剣が頭部に届く瞬間……。


 ……バチッッ!  

 

 剣先に半透明の膜が現れ、ソードスケルトンの腕ごと長剣を弾き返した。


 ノアルは微動だにせず、正面を見据えている。


 「やっぱりだ……。こいつ程度の攻撃ならシールドが防いでくれる!」 


 彼はユアナのシールドの強度を試していた。一歩間違えば、大怪我をするような状況において。


 「次はこっちの番だ!」


 ノアルは腰に差した剣を抜くと、ソードスケルトンを袈裟懸けに斬りつけた。


 刃が対象を斬り裂く鋭い音に続いて、ガラガラと崩れ落ちる骨の音が響き渡ると、ソードスケルトンは光の粒となって消えていった。

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