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第8話 宵闇の巫女

 ノアルが先に目を覚まして準備をしていると、ほどなくしてユアナも起きてきた。


 二人は軽い朝食を済ませ、今はテーブルを挟んで向かい合って座っている。


 「俺はダンジョンに行くけど、ユアナは家で待っていてくれる?」


 とりあえず手がかりが見つかるまでは家にいれば安心だろう。


 「わたしもダンジョンに行ってみたい」


 「ダンジョンはモンスターがいるから危ないよ。最悪死んでしまうこともある」


 「それでも……。私はダンジョンに行きたい」


 ユアナは頑なに同行を申し出ている。


 表情は普段と変わらないが、その口調からは強い意思が感じられた。


 彼女がダンジョンにいたことと何か関係があるのだろうか。


 このまま家に残して勝手にダンジョンに行かれても困る。


 「わかった。ベルさんに相談してみようか」


 「うん。ありがとう」


 準備を終えると二人は家を出た。


 …………。


 冒険者ギルドに行くとノアルたちを見つけたベルが声をかけてきた。


 「おはよう。ノアル君、ユアナちゃん。今日も一緒なのね」


 少しだけからかうような口調だった。


 「おはよう。やめてよベルさん」


 「ごめんごめん。今日はどうするの?」


 「ユアナがダンジョンに行きたいって言うんだけど、ベルさんどう思う?」


 ベルがユアナに視線を移す。


 「ユアナちゃんが? そうね、とりあえず『見極めの水晶』を使ってみたら?」

 

 「そっか。それもそうだね!」


 『見極めの水晶』で適正がなければユアナも諦めるかもしれない。


 ダンジョンの攻略に向いてない人が『見極めの水晶』を使うとクラス「なし」と表示される。


 「じゃあ奥の部屋に行きましょうか」


 ノアルたち3人は、カウンターの横にある小部屋に入っていった。


 部屋の中には小さなテーブルが置かれているだけで、他に目立つ物はない。


 ベルは奥の鍵付きのキャビネットから水晶球を持ってくると、テーブルの上に置いた。


 「さあ『見極めの水晶』よ。昨日のノアル君はみんなの前で使っていたけど、本当は周りの人に見られないようにこの部屋で使うの」


 昨日の行動を暗に非難されたノアルは照れ笑いでごまかしている。


 「さあ、手をかざしてみて」


 「うん」


 ユアナが水晶球に手を当てると、上空に半透明のパネルが浮かび上がった。


  クラス 宵闇の巫女

 

  レベル 1


  スキル ヒール シールド


 そこには見慣れないクラス名が記載されていた。


 「宵闇の巫女……? ベルさん知ってる?」


 「いいえ。巫女なら知っているけど、宵闇の巫女っていうクラスは知らないわ……」


 驚いたような表情でベルは言った。


 「巫女なんてクラスがあるんだ?」


 「ええ。巫女は結構レアなクラスだから知らないのも無理はないわ。神官が回復に特化したクラスなら巫女は回復と補助の両方を使いこなすクラスね。「シールド」は巫女のスキルで一定の攻撃を防ぐ防御壁を張る魔法よ。ただ、本来、レベル5のスキルだったと思うけど……」


 「わたし何か変?」


 手をかざしながらユアナが問いかける。


 「そ、そんなことないわよ。まあ、冒険者ギルドが知らないクラスが見つかったっていう報告も極まれにあるし、ユアナも稀少クラスだっていうことかな」


 「稀少クラスかー。いいなあ、俺なんて雑魚専の魔技士なのに……」


 「そんなこと言わないの。それでもミノタウルスを倒せたんでしょう」


 「そうだね。ごめん」


 ベルの言葉にノアルは素直に反省の弁を述べた。


 「わたしはダンジョンに行けそう?」


 ユアナのクラスに驚いていたノアルとベルは当初の目的を忘れていた。


 「そうね……。スキルは巫女と同じみたいだし、後ろでノアル君のサポートをするくらいなら大丈夫じゃないかしら」


 「本当? 良かった」


 ユアナは安堵したような表情を見せた。


 彼女をダンジョンに連れていくことに不安はあるが、ベルが言うなら大丈夫だろう。


 後衛にいる限りそこまで危険はないか。俺が守ればいい。


 「でも、今の服装のままじゃダメね。そんな薄い生地の服じゃ火の粉一つ防げないわよ」


 ユアナは昨日と同じ白のワンピースを着ている。ベルの言うとおり防御力は一切感じられない。


 「ちゃんとした装備を持っているの? 買い揃えるお金はある?」


 「いえ……装備はないですし、お金もほとんどないです……」


 母の装備はあの日に母と共に失われている。高価な装備を揃える資金など到底持っていない。


 「はあー……。しょうがないわね。ちょっと出てくるから待っていてくれる?」


 ベルは深いため息をつくと、部屋を出ていった。


 「わたしはダンジョンに行けないの?」


 ユアナの言葉が胸に刺さる。お金さえあれば……。


 「ベルさんが何か考えてくれたようだから、少し待とう」


 「うん……。わかった」


 …………。


 どれだけ待ったのだろうか。重苦しい空気の中、長いような短いような時間が流れ、ベルが戻ってきた。 


 「お待たせ。良いものを持ってきたわよ」


 ベルはさっきまでは持っていなかった大きな袋を携えている。


 「良いものって?」


 ベルは微笑むと、袋の中身をテーブルの上に広げた。


 「え、これって……」


 それは、女性冒険者用の装備一式だった。使い古されたように見えるが、丁寧に保管されていたのか綺麗なままだ。


 「昔、私が冒険者をしていた時の装備よ。あなたたちにあげるわ」


 「もらってもいいの。ベルの大切なものじゃないの」


 ユアナにも目の前の物が持つ意味がわかったらしい。


 「そうだよ。こんな大事なものもらえないよ」


 「いいのよ。私はもう冒険者じゃないし。それに5年前のあの日、街を救ってくれたあなたの両親へのお礼でもあるわ。だから使ってくれると嬉しいな」


 ベルさんは父さんと母さんを今も慕ってくれている。


 それはノアルにとっても嬉しいことだった。ベルがノアルの両親とどのような関係だったのかは知る由もないが、そう言われてしまっては断ることはできない。


 「わかったよ。ありがとうベルさん。大事に使わせてもらうね。いいよねユアナ」


 「うん。ありがとう、ベル。大事に使うね」


 ユアナはベルに向かって軽く頭を下げた。


 「じゃあ、早速着替えましょうか。少し大きいかもしれないから着せながら調整していくわね」


 ベルはそう言うと、テーブルの装備を手に取り、ユアナの体に当てだした。


 その様子をぼーっと見ていたノアルに、ベルが強い口調で声をかける。


 「ちょっとノアル君、どういうつもり。このまま着替えを見ていくのかしら?」


 「す、すみませんーー!」


 ベルの言葉にハッとしたノアルは急いで部屋を出ていった。

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