第10話 帰らざる坑道2
「ノアル、だいじょうぶ?」
ユアナがノアルの近くに歩み寄る。
「全然問題ないよ! ユアナの『シールド』のおかげさ!」
根拠はないがノアルは『シールド』が破れることはないと確信していた。
今も周囲の見えない膜が自分を守ってくれているように感じる。
「無茶しちゃダメだよ。ダンジョンは危ないんでしょう」
「あはは。ごめんごめん」
痛いところを突かれたノアルが笑ってごまかしていると、ユアナはソードスケルトンがいた辺りの地面を指さした。
「これはなに?」
そこには、小型のナイフほどの大きさのボロボロの骨がある。
「ああ、それは『朽ちた骨』。ソードスケルトンのドロップアイテムだよ」
「何かの役に立つの?」
「冒険者ギルドが買い取ってくれるんだ。ドロップアイテムもいつも落とす訳じゃないし持っていこう」
昨日までノアルはこれを集めて売っていた。格下のソードスケルトンを倒したところで経験値は入らないが、生活のためには仕方がない。
レベルが上がった実感はあまりなかったけど、戦ってみてわかった。俺の力は確実に上がっている。
ノアルはこれまでソードスケルトンを倒すには『一刀両断』を使うしかなかった。だが今は通常の攻撃が1回で十分だった。レベルの上昇に伴い基礎能力が向上している。
彼は『朽ちた骨』を拾い腰のバッグに収納する。
「これでいいかな。一層はこいつしかいないから、まずは二層まで行こう」
しばらく歩くと袋小路の手前でノアルが立ち止まった。
「あれが二層への階段だよ」
二人の目の前には薄闇の中にぽっかりと口を開けた階段がある。
「足元が暗いから気を付けながら進もう」
長い階段を下った先も一層と同じような造りだったが、どこか空気が冷たい気がする。
「二層は一層と違うモンスターが出るから気を付けて」
階段の出口の少し先は正面と左右の三方向に道が分かれていた。ノアルはそのうち右側の道を選んで進んで行く。
「ノアルはここには来たことがあるの?」
「もちろんさ!」
モンスターに勝てず逃げ回っていたのは隠しておこう。ユアナにバレると恥ずかしいし。
実際ノアルは何度も二層に下りている。どうにか一人で格上のモンスターを倒せないか挑んでみたが、どうしても無理だった。だが今は、レベルが大幅に上がり、傍らにはユアナがいる。
「とりあえず辺りを探索してみよう。ここでは倒したいモンスターがいるんだ」
「倒したいモンスター?」
「出会ったときのお楽しみさ」
「ふーん」
地下三層までの『帰らざる坑道』の構造は冒険者たちにより既に解明されている。二層に下りるのがやっとのノアルであったが、いつかレベルが上がった時のためと称し、周囲に嘲笑されながらも、その全てを把握していた。
モンスターが群れていそうな大部屋を避けて探索していると、先の小部屋から何かが跳ねる音が聞こえた。
「見つけた!」
小部屋に向かってノアルが駆けだす。薄闇が開けた先には、ぼろ布を纏った人のようなモンスターと赤い眼に片眼鏡をかけたウサギ型のモンスター。ぼろ布を纏った方には足が見えない。
「出たなモノクルラビッツ! 連れはゴーストか!」
モノクルラビッツ目掛けて距離を詰めるノアル。モノクルラビッツの片眼鏡が一瞬キラリと光ると同時にゴーストが闇に溶け込むように姿を消す。
モノクルラビッツの目の前に迫った瞬間、ノアルは突如、後ろを向き右手を上げた。
「フレイム!」
ノアルが放った炎の球が薄闇からゆらりと現れたゴーストを直撃する。
ゴーストは悲鳴を上げることすらできず消滅していき、後には何かがチリチリと燃える音だけが残った。
「それは何度も見たよ!」
そして剣を抜きながら再度モノクルラビッツの方を振り向き、正面に向かって振り下ろす。
「一刀両断!」
ーーキュィ……。
ノアルが力の限り放った斬撃に切り裂かれたモノクルラビッツは小さな鳴き声を残して消滅していった。
や、やった! 何度逃げ回ったことか……。しかし! もう俺は二層でも通じるんだ!
ノアルは思わず拳を握りしめガッツポーズをしていた。
それを小走りで追いついたユアナが不思議そうに眺めている。
「どうしたの?」
「い、いやなんでもないよ」
照れつつ拳を緩めた瞬間、脳内に無機質な声が響いた。
『スキル「忍び寄る影」、「鑑定」をラーニングしました。
ユアナのレベルが3に上がりました』
頭に響く無機質な声。どうやらパーティーを組んでいると仲間のレベルアップ情報までわかるようだ。
「よし! 鑑定だ! これで今日の目的は達成だ! それにユアナのレベルも上がったね!」
「鑑定?」
小首を傾げるユアナ。
「モノクルラビッツのスキルだよ。アイテムに使うと名前や効果がわかる。そしてモンスターに使うと名前にレベル、使用スキルまでわかるんだ!」
「それは凄いの?」
誇らしげなノアルだったが、ユアナの一言が鼻っ柱を砕いた。
「当たり前さ! これから戦う相手の情報を知ることができるっていうのは、すごく有利になるんだ! 知っていれば対策をすることができるからね」
「そっか。じゃあ凄いスキルなんだね」
「まあ、そうなんだけど……。あれを見て……」
ノアルが示した先には、片眼鏡が落ちている。
「あれはモノクルラビッツのドロップアイテム『識別の片眼鏡』。あれを使えば、「鑑定」のスキルと同じ効果が発動する。しかもモノクルラビッツはどこのダンジョンにもいるから、冒険者は大抵『識別の片眼鏡』を持っているんだよね……」
『識別の片眼鏡』がなければ、魔技士の価値ももっと上だったかもしれないのに……。
「なんだ。じゃあ凄くないんだ」
ユアナの言葉にノアルはガクっと肩を落とした。




