表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/13

第5話 差し伸べられた手

 「危ない!」


 ノアルは咄嗟に腕を伸ばした。


 白銀のように輝く白い長髪をふわりとなびかせながら少女はその腕の中にゆっくりと舞い降りる。


 少女の温かな体温と柔らかな感触が腕に伝わっていく。


 「良かった……。この子は一体……」


 腕の中の少女を見ながらつぶやいた直後。

 

 「ん……」


 少女が小さく声を上げた。


 どうやら意識はあるようだ。


 「気が付いた?」


 ゆっくりと目を開けた少女を見てノアルは息を飲んだ。


 切れ長の大きな目に宝石のように輝く瞳、髪と同じく白銀のように輝く白く長い睫毛、雪にも似た白い肌、少女はまるで人形のような美しさを備えていた。


 綺麗だ……。


 思わず見惚れたノアルの心の内など知りようもない少女は、彼を見つめながら話しかける。


 「あなたは……誰……?」


 弱々しいがはっきりとした声色。


 ひとまずは安心してよさそうに思える。


 「俺はノアル。君の名前は?」


 少女は考え込むように天井を見上げた。


 その瞳が何を考えているのかは分からない。


 少し経ち少女が思い出したように口を開いた。


 「わたし……。わたしの名前は……ユアナ……。そう、ユアナ」


 少女ーーユアナは自分に言い聞かせるように話す。


 「ユアナか。いい名前だね。立てるかい?」


 「うん」


 ノアルがユアナをゆっくりと地面に下すと、彼女は少しふらつきながら、弱々しい足取りで立ち上がった。


 身長はノアルより少し低く見える。


 なぜユアナはクリスタルの中に……。


 ノアルがユアナを見つめながら考えていると、彼女は小首を傾げながら不思議そうに尋ねてきた。


 「なに?」


 「ああ! ごめん。ユアナはどうしてこんな場所にいるんだ? クリスタルの中にいたようだけど……」


 「わからない……。ずっと眠っていたような気がする……」


 ユアナは淡々と話している。


 その表情から感情は読み取れない。


 「でも……。声が聞こえたの……。それでわたしも目覚めなくちゃって。そしたら、あなたがいた」


 「声か……他には何か覚えている?」


 「わからない……何も……」


 ユアナが聞いたという声。


 それは、ノアルの頭に聞こえてきた声と関係があるのだろうか。


 考えても答えは出そうにない。目の前のユアナは何も知らない様子だ。


 ノアルは周囲を見回してみたが、他にめぼしい物は見当たらない。


 これ以上ここには何もなさそうだった。


 「俺は街に戻るけど、ユアナはどうする?」


 「街?」


 「クーリアの街さ。ここから歩いて半刻くらいかな。知らない?」


 「ごめんなさい……。わからない」


 ユアナは軽く下を向いた。彼女の顔には微かな不安の色が浮かんでいた。


 そろそろ日が傾きだす頃だろう。このままユアナを置き去りにすることなどノアルにはできない。


 「謝らなくていいよ! それなら俺と一緒に街に戻ろう。誰かユアナを知っている人もいるかもしれないし、一応家もあるから寝ることくらいはできるよ」


 「本当?」


 顔を上げノアルを見つめるユアナ。


 「もちろんだよ!」


 ユアナの眼前にノアルの手が差し伸べられる。


 「ありがとう……」


 その手を、ユアナはそっと取った。


 「さあ、行こう!」


 天井から射す光が、空中を漂うクリスタルの破片に乱反射し、煌めきを放ちながら舞い落ちる中、二人は『微睡みの廃殿』を後にしていく。


 ノアルの手はしっかりとユアナの小さな手を握っていた。


 …………。


 …………。


 クーリアの街に戻ってきたのは夕方に差し掛かろうかという頃。


 幸いダンジョンボスの部屋の入り口は戦闘の衝撃のおかげか、扉が開くようになっていた。


 ノアルたちは街に入るとその足で冒険者ギルドに向かう。


 ーーバタン


 「ノアル君!!」


 冒険者ギルドの入り口の扉を開けると、聞こえてきたのは驚いたように叫ぶベルの声だった。


 彼女は正面左奥にあるカウンターを出ると、急いでノアルのそばに駆け寄る。


 「大丈夫だった!? ダンジョンボスの部屋に自分から閉じこもったって聞いたから心配していたのよ!」


 「自分から閉じこもった?」


 ベルは何を言っているのだろうか。


 「え、ええ。ドルグさんたちが先に戻ってきて、ノアル君が新モンスターの報酬を独占しようとしてダンジョンボスの部屋に入ると外から入れないようにしたって報告したのよ。だからノアル君が一人で新モンスターを倒せるのか心配していたの」


 そういうことか。


 すべてを理解したノアルが右奥のテーブルに目をやると、酒を飲んでいるドルグとゴルドーの姿が見えた。

 

 彼らはまだノアルが生きて戻ってきたことに気が付いていないようだ。


 ノアルはゆっくりとドルグたちのテーブルに向かっていく。


 「ただいま。俺が自分で閉じこもったって?」


 「んあ? お、お前は!! 死んだはずじゃ!?」


 ノアルが生きていたことによほど驚いたのか、ゴルドーは持っていた酒瓶を落とした。


 「な、なんで。確かに扉が開かないように閉じ込めたはず……」


 「閉じ込めた?」


 ドルグの言葉をベルは聞き逃さなかった。


 「い、いや違う。こいつが自分で閉じこもったんだ! なあ!」


 ドルグはノアルに同意を求めてきた。バカなのか、こいつは。


 「というかお前、どうやってあそこから出てきたんだ!? どこにも逃げ道なんてないはずだぞ!?」


 やはりこいつらはただのバカだ。なんで逃げ道がないなんて知っているんだよ。


 「それはもちろんダンジョンボス「ミノタウルス」を倒したからだよ。新モンスターなんていなかったし、お前ら二人にあの部屋に閉じ込められたからな!」

 

 ノアルはテーブルに手をつき、二人を見ながら言う。


 「う、嘘をつくな! お前がミノタウルスを倒せる訳がないだろう! 雑魚専の『魔技士』のお前が!」


 ゴルドーが血の気の引いた顔で叫ぶ。


 騒ぎを聞いた他の冒険者も続々とテーブルの周りに集まっている。


 「倒した証拠を見せてあげるよ。ベルさん『見極めの水晶』を使ってもいい?」


 「え、ええ……。少し待ってね」


 そう言うとベルは、カウンターの裏手から八角形の石の台座に乗った水晶球を持ってノアルたちのいるテーブルに戻ってきた。 


 「はい。どうぞ」


 「ベルさんありがとう」


 ノアルはテーブルの上に置かれた水晶球に右手をかざす。


 すると水晶球の上空に半透明のパネルが浮かび上がってきた。


 「本来は他人に見せるものじゃないけど。これを見れば俺の言っていることが嘘じゃないとわかるだろう」


 パネルには次のような内容が白文字で記載されていた。


  クラス 魔技士

  レベル 8

  スキル ラーニング


 「そ、そんな……。お前が俺たちと同じレベル。ほ、本当にミノタウルスをソロで倒したのか……」


 「ありえない! 魔技士がソロで格上の、しかもレベルが7も違うモンスターを倒すなんて! なんかインチキをしたんだろう! 最低な奴め!」


 もはやドルグたちは喚き散らすしかできないでいる。


 他の冒険者のドルグたちを見る目が、ノアルの正しさを物語っていた。


 「ノアル君が一人でダンジョンボスを倒すなんて……。やっとこれまでの努力が報われたのね」


 ベルの目元には涙が浮かんでいる。


 この半年間、一人でもがいていたノアルを見守っていた彼女にも感慨深いものがあるのだろう。


 だが、次の瞬間、ベルは涙を拭うと真剣な面持ちでドルグたちの方を向いた。


 「ドルグさん、ゴルドーさん。これであなたたちの報告が虚偽だったことが判明しました。この件は冒険者ギルドの上層部にも報告させていただきます。未遂と言えど仲間殺しは重罪。直に査問委員会が開かれるでしょう。それまで自宅謹慎とし、この街から出ることを禁じます!」


 「う、ううう……」


 「く、くそったれ……」


 ベルの言葉を聞いたドルグたちはその場にうなだれている。その時、周りにいた冒険者たちの中の一人が声を上げた。


 「これからは街の中でも隅の方を歩くようにな!」


 その言葉に周囲が笑いに包まれる中、ドルグたちは逃げるように冒険者ギルドを出ていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ